快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

華麗な恋愛と創作の軌跡、そして絶望 『絶倫の人 小説H・G・ウェルズ』(デイヴィッド・ロッジ 著 高儀進 訳)

彼は生涯で百人を優に超える女と寝たに違いないが、何人かとは一回寝ただけで、大多数の女の名前は忘れてしまった。彼は自分がほかの男より強い性的衝動を持っているのかどうか、大方の男より、それを満足させるのにもっと成功しただけなのかどうかはわから…

愛の形にはいろいろある 『ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン』(ジョン・グリーン、デイヴィッド・レヴィサン著 金原瑞人、井上里 訳)

『アラスカを追いかけて』『さよならを待つふたりのために』などでおなじみの人気作家、ジョン・グリーンと、目下『エヴリデイ』が話題のデイヴィッド・レヴィサンが共作した『ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン』、当然読み逃すわけにはいきません。 …

静かな北欧の村で、ふたりの女のアイデンティティが絡まりあう 『誠実な詐欺師』(トーベ・ヤンソン 著 冨原眞弓 訳)

歯を磨いたり洗い物をするときなどは、スマホでよくラジオを聞くのだけど、NHKラジオの「仕事学のすすめ」という番組に、前回の『コンビニ人間』の村田沙耶香が出ていたので聞いてみた。 すると、パーソナリティーから、「この小説に出てくる白羽さんは、遅…

「普通」と「普通じゃないもの」の線引きとは? 『コンビニ人間』(村田沙耶香)

さて、遅ればせながら、文庫になった『コンビニ人間』を読みました。 コンビニ人間 (文春文庫) 作者: 村田沙耶香 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2018/09/04 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (3件) を見る 主人公の古倉恵子36歳は、「少し奇妙がら…

英国魂でしぶとくタフに生き延びよう 『花の命はノー・フューチャー』『This is JAPAN』(ブレイディみかこ 著)

みなさんご存知のとおり、ここ最近、地震や大雨、そして台風のくり返しで、訃報も相次ぎました。(樹木希林も『万引き家族』見たところなのでおどろいたが、やはり子どもの頃から読んでいた、さくらももこの衝撃が大きかった……) ほんと人生いつなにが起きる…

『タイニー・ファニチャー』『優雅な読書が最高の復讐である』山崎まどかトークイベント@出町座(2018/09/01)

さて、先週の週末は、映画『タイニー・ファニチャー』の公開と、書評本『優雅な読書が最高の復讐である』の発売を記念した、山崎まどかさんのトークショー@出町座に行ってきました。 優雅な読書が最高の復讐である 山崎まどか書評エッセイ集 作者: 山崎まど…

おれは黒い それって最高。『リズムがみえる』(絵 ミシェル ウッド 文 トヨミ アイガス 訳 金原瑞人 監修 ピーター バラカン)

異常気象が続いたこの夏、暑さのせいか電車が止まったり、台風のせいで行くつもりだったライブが中止になったりと、なんだか落ち着かない日々が続くなか、8月の終わりにまたひとつ歳をとった。 そしてまるで誕生日プレゼントのように、この絵本が届いた。(…

レキシの池ちゃんにもオススメの『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』(高野秀行と清水克行の対談本)

さて、『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(さんざんネタになっているが、もう元ネタがいったい何なのかわからなくなっている)に続く、高野秀行&清水克行の対談本第2弾、『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』を読みました。 辺境の怪…

欲望から目をそらさず対峙した一冊 『愛と欲望の雑談』(雨宮まみ、岸政彦)

このひとがいま生きていたなら、どう言っただろう? と、ふとした瞬間に考えさせられるひとたちがいる。 前回取りあげたヴォネガットや、最近またベスト本が出るらしいナンシー関など。 そして、雨宮まみもたしかにそのひとりだなと、岸政彦との対談本『愛と…

灼熱の8月6日に読むべき1冊 『猫のゆりかご』(カート・ヴォネガット・ジュニア 著 伊藤典夫 訳)(with 村上RADIO)

今よりずっと若かったころ、わたしは『世界が終末をむかえた日』と題されることになる本の資料を集めはじめた。それは、事実に基づいた本になるはずだった。 それは、日本の広島に最初の原子爆弾が投下された日、アメリカの重要人物たちがどんなことをしてい…

ささやかで中途半端な逃避行 『黄色いマンション 黒い猫』(小泉今日子 著)

月曜日、古川橋駅で京阪電車がいきなり止まった。車内灯が消え、エアコンも止まる。 停電したので、各車両の一番後ろの窓を手動で開けてくださいと車掌からのアナウンスが流れた。乗客が職場に電話をしはじめる。私も電話をして、ランチミーティングのお弁当…

理不尽な社会で愛は存在するのか? 『ヒトラーの描いた薔薇』(ハーラン・エリスン 著 伊藤典夫・他 訳)

その都市の地下には、またひとつの都市がある。じめじめした暗い異境。下水道をかけまわる濡れた生き物と、逃れることにあまりにも死にもの狂いのため冥府のリステックスさえも抑えきれぬ急流の都市。その失われた地底の都市で、ぼくは子どもを見つけた。 『…

救いのない人生で見出したものとは? 『タイタンの妖女』(カート・ヴォネガット・ジュニア 著 浅倉久志 訳)

かつてウィンストン・ナイルズ・ラムフォードは、火星から二日の距離にある、星図に出ていない、ある時間等曲率漏斗(クロノ・シンクラスティック・インファンディブラム)のまっただなかへ、自家用宇宙船で飛び込んでしまったのである。彼と行をともにした…

虚実入り乱れるメタ時代劇? 松尾スズキ作 『ニンゲン御破算』(阿部サダヲ主演)森ノ宮ピロティーホール

さて、ヴォネガットの本を読んでいる合間に、大人計画『ニンゲン御破算』を見てきました。そういえば、松尾スズキもヴォネガットに影響を受けたとよく語っているのでつながっているとも言える。 ↓絶賛CM中のキンチョーからも花が来ていた。長澤まさみはなん…

再び、いまヴォネガットが生きていたら…… 『現代作家ガイド カート・ヴォネガット』(伊藤典夫・巽孝之ほか)

あらゆることが政治化されてしまった今日では、例えばオリンピックを廃止しようというのならそれで結構。別に残念だとも思いませんよ。どの道、オリンピックはばかばかしいくらいに政治的で、国家主義的なものですし。みっともない。 やっぱりあのひとの言っ…

時間のかかる小説 『機械』(横光利一)『時間のかかる読書』(宮沢章夫)

最近ちょいちょいスマホでラジオをつけていて、なかでもNHKの「すっぴん!」の月曜(宮沢章夫)と金曜(高橋源一郎)をよく聞いています。(それにしても、ほかの曜日はユージに麒麟の川島君、そしてダイアモンド☆ユカイと、いったいどういう基準でパーソナ…

穏やかな日常のどこかに隠れている悪夢のような世界 『アオイガーデン』(ピョン・ヘヨン 著 きむふな 訳)

もう少ししたら職場に行く準備をしないと、と思った朝の8時、いきなり激しい揺れに襲われた。 けれど、阪神淡路大震災や東日本大震災にくらべたら短かったので、やれやれと思って部屋を見回すと、うちの猫がいない。ベランダの戸を開けていたので、飛び出し…

SFの父、ディストピアの元祖、そして絶倫の人? 『タイムマシン』(H・G・ウェルズ 著 金原瑞人訳)

さて、SF小説の元祖、H・G・ウェルズの『タイムマシン』を読んでみました。 タイムマシン (岩波少年文庫) 作者: H.G.ウェルズ,H.G. Wells,金原瑞人 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2000/11/17 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る …

どうして女が自分を肯定することは、こんなにむずかしいのだろう? 「BUTTER」(柚木麻子)

どうして私たちは木嶋佳苗に注目してしまうのだろう? 木嶋佳苗をめぐる事件は、まるでプリズムのようにさまざまな角度から語ることができる。援助交際、性の売買、婚活、女の容姿、「家庭的」な女、父と娘、母と娘、地方と東京、セレブ志向…… 柚木麻子の『B…

90年代の失われた青春、そして再生の物語 『アンダー、サンダー、テンダー』(チョンセラン 著 吉川凪 訳)

さて、アジアシリーズの続き?として、『アンダー、サンダー、テンダー』を読みました。それにしても、『殺人者の記憶法』のときも思ったけれど、吉川凪さんの翻訳はほんとうに読みやすくて、すうっと文章が頭に入ってきます。 アンダー、サンダー、テンダー…

「強きを助け、弱きをくじく」はギャグになっているのか? 『タクシー運転手 約束は海を越えて』

前回に続き、すっかりアジアづいている今日この頃。寒い日にはサムゲタンが食べたくなり、暑い日には韓国冷麺が食べたくなる自分には、やはりヴィクトリア朝ではなくアジアの方が似合うのでしょう…… というわけで、映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』…

1967年から2013年までの香港の「正義」の変遷とは――『13・67』(陳 浩基 著 天野健太郎訳)

さて、2017年中国ミステリー最大の話題作『13・67』を読みました。 13・67 作者: 陳 浩基 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2017/09/30 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (10件) を見る 以前に高野秀行さんがツイッターで絶賛しており、これまで…

不思議な魅力のあるデビュー作(勝手に配役も考えた) 『永遠の1/2』(佐藤正午 著)

さて、4連休もどこに行くわけでもなく、ゴキブリみたいに家にへばりついていたら、あっという間に終了しました。やったことといえば、録りだめしておいた山本文緒原作のドラマ『あなたには帰る家がある』を見ながら、掃除らしきことをした程度。 #1 夫婦の…

『ストーナー』の訳者が遺した翻訳への愛と情熱、そして脱力ギャグ 『ねみみにみみず』(東江一紀 著 越前敏弥 編)

さて前回、第四回日本翻訳大賞が決まったと書きましたが、第一回読者賞を受賞した『ストーナー』の翻訳家、東江一紀のエッセイ『ねみみにみみず』を読み、ほんと翻訳家はエッセイがうまいひとが多い、とつくづく思った。 ねみみにみみず 作者: 東江一紀,越前…

大きな選択を迫られるとき――『ピンポン』(パク・ミンギュ 著 斎藤真理子 訳)『マレ・サカチのたったひとつの贈物』(王城夕紀)

さて、第四回日本翻訳大賞が『殺人者の記憶法』と『人形』に決まりました。『殺人者の記憶法』は前にも紹介したように、原作も映画もおもしろかったので納得。 『人形』はポーランドで人気の小説らしいが、手をつけるにはかなり気合のいる長さのよう。いや、…

滑稽な人間の生について考えてみる 『深い河』(遠藤周作 著)『今日はヒョウ柄を着る日』(星野博美 著)

手元にないのでうろ覚えだが(実家にあるはず)、学生時代に読んだエッセイ『佐藤君と柴田君』で、親が古びてきたので病院に通っていると柴田さんが書いていて、そのとき「そうか、親って古びるものなんだ」と思った記憶がある。 佐藤君と柴田君 (新潮文庫) …

傷つけられた者たちの「自立」と「再生」の物語 『なぎさ』(山本文緒 著)

妹が突然電話してきたのは三日前だった。しばらく会いたくないし声も聞きたくないから連絡しないでくれ、とはっきり言われたのは、ここに越して来る前のことなので何年も前だ。仕方ないことだと納得した私は、それから転居通知をポストに入れただけでまった…

音楽が聞こえる本ブックガイド BOOKMARK11号 村上春樹による『バット・ビューティフル』紹介文もあり

前回、次は山本文緒の『なぎさ』の感想を書くといいましたが、BOOKMARK 11号 "Listen to Books" を読んだところ、勝手に便乗して、音楽が聞こえる本を選びたくなりました。 そう、なんといっても村上春樹が巻頭エッセイを書いていることが話題になっている、…

自分で自分の人生を選び取ることは可能なのか? 『ジャンプ』(佐藤正午 著)

あのときああしてさえいれば、ちがう人生になっていたかも―― あのときああしてさえいれば、ちがうひとと寄り添っていたのかも―― なんて思ったりすることはあるでしょうか? いや、「やれたかも委員会」の話ではなく、佐藤正午の『鳩の撃退法』を読むまえに、…

不条理とユーモア、そして生と死が融合するエドガル・ケレットの世界 『あの素晴らしき七年』(秋元孝文 訳)『突然ノックの音が』(母袋夏生 訳)

自己嫌悪としてのユダヤ人としてのわが息子……「もう十分じゃないかしら?」妻がぼくの妄想に割り込む。「可愛い可愛いあなたのボクちゃんに向けるヒステリックな非難を夢想するかわりに、なにか役に立つことをしたら? おむつを替えるとか」「オッケー」とぼ…