快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

コミュニケーションとディスコミュニケーションの狭間の祝祭 「こちらあみ子」「ピクニック」(今村夏子)

十五歳で引っ越しをする日まで、あみ子は田中家の長女として育てられた。父と母、それと不良の兄がひとりいた。 小学生だったころ、母は自宅で書道教室を開いていた。もとは母の母が寝起きしていたという縁側に面する八畳ほどの和室に赤いじゅうたんを敷きつ…

2019/8/10 翻訳者村井理子さん&編集者田中里枝さんトークイベントー『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『サカナ・レッスン』(キャスリーン・フリン著)より

さて、まさに真夏のピークの8月10日、梅田蔦屋書店で行われた翻訳者村井理子さんと、編集者田中里枝さんのトークイベントに参加しました。 おふたりがタッグを組んだ最初の本、『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』の著者キャスリーン・フリンが、日…

ユダヤ人を迫害したのは誰か? 『4歳の僕はこうしてアウシュヴィッツから生還した』(マイケル・ボーンスタイン、デビー・ボーンスタイン著 森内薫 訳)

あまりにひどい話だ。手は怒りで震えていた。でも今となっては、そのサイトを見てよかったと思う。それによって、私ははっきり自覚した。もしも私たち生存者がこのまま沈黙を続けていたら、声を上げ続けるのは嘘つきとわからず屋だけになってしまう。私たち…

「いま翻訳者たちが薦める一冊 憎しみの時代を超える言葉の力」フェアより 『夜と霧 新版』(ヴィクトール・E・フランクル著 池田香代子 訳)

さて、プロフィールでもちらりと書いているとおり、ミステリーにとくに詳しいわけでも何でもないのに、僭越ながら大阪翻訳ミステリー読書会の世話人をしているのですが、9月開催の読書会の課題本に『ローズ・アンダーファイア』(エリザベス・ウェイン著 吉…

初心者のための田辺聖子~ハイ・ミス小説のオススメ(中級編)~『愛してよろしいですか?』『夢のように日は過ぎて』『薔薇の雨』

それにしても、ハイ・ミスにとって 「……たら」 というのは禁句なのであることを、知らないのかなあ。 私と小田美枝子がしゃべっているとき、どちらかが「……たら」というコトバを使うと、 「タラは北海道!」 と叫んで、次の言葉を封じてしまう、約束ごとがあ…

初心者のための田辺聖子~入門編~ 『ジョゼと虎と魚たち』『言い寄る』『私的生活』『苺をつぶしながら』

「一ばん怖いものを見たかったんや。好きな男の人が出来たときに。怖うてもすがれるから。……そんな人が出来たら虎見たい、と思てた。もし出来へんかったら一生、ほんものの虎は見られへん、それでもしょうない、思うてたんや」 田辺聖子さんが亡くなったので…

誰もがみんな自分の人生の当事者――『図書室』(岸政彦 著)ほか『新潮』(2018年12月号)

どんな猫でもいいから、一匹の猫を(あるいは二匹の猫を)徹底的に幸せにしてあげたいなと思う。日当たりの良い場所に小さな寝床をつくって、そこに可愛らしい柄の、柔らかい毛布を敷いてあげたい。猫は自分が、ありえないほど幸せであることを自分でも気づ…

これで悩みも即解決!?なブックガイド『文学効能事典 あなたの悩みに効く小説』(エラ・バーサド・スーザン・エルダキン 著 金原瑞人・石田文子 訳)

それにしても『文学効能事典』を読むのは楽しい。 文学効能事典 あなたの悩みに効く小説 作者: エラ・バーサド,スーザン・エルダキン,金原瑞人,石田文子 出版社/メーカー: フィルムアート社 発売日: 2017/06/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件)…

それぞれの愛と成長の物語が、ナイジェリアの物語と響きあう『半分のぼった黄色い太陽』(チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ 著 くぼたのぞみ訳)

「われわれの土地について、彼らがおまえに教えることには答えが二つある。本当の答えと、学校の試験に通るための答えだ。本を読んで、両方の答えを学ばなければいけない。本はわたしがあたえる。すばらしい本だぞ」 以前に『男も女もみんなフェミニストでな…

まるでリトマス試験紙のように、自分を振り返る―『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ 著 斎藤真理子 訳)

でもそのときはわからなかった――なぜ出席番号は男子から先についているのか。出席番号の一番は男子で、何でも男子から始まり、男子が先なのが当然で自然なことだと思っていた。 遅ればせながら、話題の『82年生まれ、キム・ジヨン』を読みました。 82年生ま…

行かなくちゃ、君に逢いに行かなくちゃ 『エヴリデイ』(デイヴィッド・レヴィサン 著 三辺 律子 訳)

毎日、だれかのからだで目覚める毎日、ちがう人生を生きる毎日、きみに恋してる 以前、ジョン・グリーンとデイヴィッド・レヴィサンが共作した『ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン』を紹介しましたが、今度はデイヴィッド・レヴィサン単著の『エヴリデ…

Freedom or Death?? ジャネット・ウィンターソン『Courage Calls to Courage Everywhere』

前々回に紹介した、BUSINESS INSIDER JAPAN編集長の浜田敬子さんによる『働く女子と罪悪感』トークイベントで印象に残ったのは、ジェンダーに関する話題が一番炎上するという話だった。憲法改正問題や中国・韓国との関係よりも、男女差別の話題がとにかく激…

来たるべき新世界へ――女と女の物語~百合(かもしれない)ブックガイド

先日『元年春之祭』を課題本にして翻訳ミステリー読書会を開催し、そのレポートがこちらのサイトに掲載されました。 元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ) 作者: 陸秋槎,稲村文吾 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2018/09/05 メディア: 新書 この商品を含むブ…

”働く女”が心に刻むべき秘訣とは 『働く女子と罪悪感』(浜田敬子)出版記念トークイベント 

3月24日に隆祥館書店で行われた、『AERA』元編集長であり、現Business Insider Japan統括編集長の浜田敬子さんによる、『働く女子と罪悪感』出版記念トークイベントに参加してきました。 働く女子と罪悪感: 「こうあるべき」から離れたら、もっと仕事は楽し…

公民権運動の闘士から弁護士となったジェイの闘いを描く『黒き水のうねり』(アッティカ・ロック 著 高山真由美 訳)

暴動を煽動し、連邦政府職員――ジェイと似たりよったりの若造で、政府にやとわれた情報提供者――を殺害するための共同謀議を企てたとして、検察はジェイを告発した。検察は電話で三分半足らずのジェイとストークリー・カーマイケルとの会話のテープを押さえ、…

おおさか東線開通の今日、あらためて福知山線脱線事故を振り返る 『軌道』(松本 創 著)

福知山線脱線事故の日のことは、いまでもよく覚えている。2005年4月25日、私もJRに乗って神戸に向かおうとしていたからだ。 その日は神戸国際会館でのスピッツのライブに行こうと、有休をとっていた。午前中からテレビを見ていると、突然画面が切り替わり、…

ヴァージニア・ウルフの言葉を思い出した 『対岸の彼女』(角田光代 著)

さて、本日(3月9日)の『元年春之祭』読書会に備えて、「女と女の小説」に浸っていた今日この頃でした。 このブログでも何度か引用している、松浦理英子の『ナチュラル・ウーマン』から、サラ・ウォーターズの『半身』に、ジャネット・ウィンターソンの『オ…

喪失感を抱えたまま生きていく 『あまりにも真昼の恋愛』(キムグミ 著 すんみ 訳)

前回書いた「はじめての海外文学」の翌日に、出町座で行われたトークショーで、海外文学の魅力とは? という話になり、「遠さ」と「近さ」ではないかという意見が出た。 つまり、海を越えた「遠い」国の物語であるのに、その心情はおどろくほど「近い」とい…

文学は万能薬? はじめての海外文学@梅田蔦屋書店(2019/01/26)後編(『虫とけものと家族たち』ジェラルド・タレル 著 池澤夏樹 訳など)

さて、遅くなってしまいましたが「はじめての海外文学」@梅田蔦屋書店のレポの続きです。 田中亜希子さんの次の登壇者は、現在ご自身の訳書『タコの心身問題』が大ヒット中の夏目大さん。 タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源 作者: ピーター・ゴド…

「役に立つ」英語って何? 外国語を学ぶということは――『英会話不要論』(行方昭夫)

※「はじめての海外文学」レポの途中ですが、諸事情により?こちらを先にアップします。 今年こそは英語を話せるようになりたい! そう思っている方は少なくないのではないでしょうか。かくいう私もそのひとりです。 英語圏で暮らしたことも働いたこともなく…

はじめての海外文学@梅田蔦屋書店(2019/01/26)前編 『ピアノ・レッスン』(アリス・マンロー 著 小竹由美子訳)など

さて、先週土曜日は、梅田蔦屋書店で行われたイベント「はじめての海外文学」に行ってきました。 「はじめての海外文学」って何なんそれ? という方もいるかと思いますが、ふだん海外文学になじみのない読者に向けて、翻訳者さんがおすすめの本を紹介すると…

生身の人間たちによる公民権運動の記録 『March』(ジョン・ルイス、アンドリュー・アイディン 作 ネイト・パウエル 画 押野素子 訳)

先週末、スーパーで買ったお好み焼きと焼きそばのセットを食べたところ、焼きそばの油が合わなかったのか(もしくは単に食べ過ぎたのか)、食あたりになって寝込んでしまいました。 読書会の告知文書きにも、日本翻訳大賞の投票にも後れを取ってしまいました…

最近読んだ本(2019年1月)『作者を出せ!』(デイヴィッド・ロッジ 高儀進訳)『「女子」という呪い』(雨宮処凛)『ポップスで精神医学』

さて、最近読んだ本をさくっと数点紹介したいと思います。 (いや、ここ最近、1つのトピックで長々書いてしまいがちなので、そんなに長く書いたら、もともとその話題に興味あるひと以外誰も読まないぞー!というのは承知しているので、今年は短い紹介記事も…

女がパンクでなぜ悪い? スリッツ『ヒア・トゥ・ビー・ハード』/ヴィヴ・アルバータイン『Clothes, Clothes, Clothes. Music, Music, Music. Boys, Boys, Boys.』

さて、2019年真っ先にしたことは(1月2日ですが)、女だけのパンクバンド、スリッツのドキュメンタリー映画『ヒア・トゥ・ビー・ハード』の鑑賞でした。 theslits-l7.com スリッツは1976年に結成され、81年に解散したバンドで、もちろん私はリアルタイムでは…

女が自らを救うために――『ヒロインズ』(ケイト・ザンブレノ著 西山敦子訳)

精神病院で死んだ、モダニストの狂った妻たち。閉じ込められ、保護されて。忘れられ、消し去られ、書き換えられて。ヴィヴィアン・エリオットは自分の分身を書いた。名前はシビュラ。彼女の夫の詩『荒地』は、甕のなかに閉じ込められた彼女の声で始まる。そ…

ディケンズとクリスマス 『Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男』と『クリスマス・キャロル』(池央耿 訳)

さて、きょうはクリスマス・イヴ。 ここ数年は本気でその存在を忘れてしまいがちなクリスマスですが、実は19世紀においても、すでに廃れつつある行事になりかけていたらしい。 という事実を、先日映画『メリークリスマス ロンドンに奇跡を起こした男』を見て…

ひとりでも多くのひとに知ってもらいたい『THE LAST GIRL――イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語』(ナディア・ムラド 著 吉井智津 訳)

ナディアは、ISISによって連れ去られ、フェイスブック上に開設された市場で、ときにはたったの20ドル程度で売買された数千人のヤズィディ教徒のひとりだった。ナディアの母親は、80人の高齢女性たちとともに処刑され、目印ひとつない墓穴に埋められた。彼女…

消えることのない光を求めて 『ヨーロッパ・コーリング』『いまモリッシーを聴くということ』(ブレイディみかこ)

さて、前回の『アメリカ死にかけ物語』で、「ヨーロッパも同じか、あるいはもっと深刻」と書いたけれど、そのヨーロッパを詳細に伝えているのが、ブレイディみかこの『ヨーロッパ・コーリング』だ。 ヨーロッパ・コーリング――地べたからのポリティカル・レポ…

11/25 『アメリカ死にかけ物語』トークライブ リン・ディン&岸政彦@スタンダードブックストア心斎橋

『アメリカ死にかけ物語』発売記念として行われた、リン・ディンさんと岸政彦さんのトークライブに行ってきました。 前作の『血液と石鹸』を読んだきっかけは、柴田元幸さんが訳しているからという単純なものだったけれど、ベトナムからアメリカに移民したバ…

未来を思い出す――『あなたの人生の物語』(テッド・チャン著 浅倉久志ほか訳)そして『スローターハウス5』

あなたを授かるあの晩、あの夜にまつわるお話は、してあげたいのはやまやまなんだけど、それにふさわしいのはあなたが自分の子を持つ用意ができたときでしょうし、わたしたちはその機会は持たずじまいになるの。 最近、訃報や病気のニュースが多く、生と死に…