快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

欲望から目をそらさず対峙した一冊 『愛と欲望の雑談』(雨宮まみ、岸政彦)

このひとがいま生きていたなら、どう言っただろう? と、ふとした瞬間に考えさせられるひとたちがいる。 前回取りあげたヴォネガットや、最近またベスト本が出るらしいナンシー関など。 そして、雨宮まみもたしかにそのひとりだなと、岸政彦との対談本『愛と…

灼熱の8月6日に読むべき1冊 『猫のゆりかご』(カート・ヴォネガット・ジュニア 著 伊藤典夫 訳)(with 村上RADIO)

今よりずっと若かったころ、わたしは『世界が終末をむかえた日』と題されることになる本の資料を集めはじめた。それは、事実に基づいた本になるはずだった。 それは、日本の広島に最初の原子爆弾が投下された日、アメリカの重要人物たちがどんなことをしてい…

ささやかで中途半端な逃避行 『黄色いマンション 黒い猫』(小泉今日子 著)

月曜日、古川橋駅で京阪電車がいきなり止まった。車内灯が消え、エアコンも止まる。 停電したので、各車両の一番後ろの窓を手動で開けてくださいと車掌からのアナウンスが流れた。乗客が職場に電話をしはじめる。私も電話をして、ランチミーティングのお弁当…

理不尽な社会で愛は存在するのか? 『ヒトラーの描いた薔薇』(ハーラン・エリスン 著 伊藤典夫・他 訳)

その都市の地下には、またひとつの都市がある。じめじめした暗い異境。下水道をかけまわる濡れた生き物と、逃れることにあまりにも死にもの狂いのため冥府のリステックスさえも抑えきれぬ急流の都市。その失われた地底の都市で、ぼくは子どもを見つけた。 『…

救いのない人生で見出したものとは? 『タイタンの妖女』(カート・ヴォネガット・ジュニア 著 浅倉久志 訳)

かつてウィンストン・ナイルズ・ラムフォードは、火星から二日の距離にある、星図に出ていない、ある時間等曲率漏斗(クロノ・シンクラスティック・インファンディブラム)のまっただなかへ、自家用宇宙船で飛び込んでしまったのである。彼と行をともにした…

虚実入り乱れるメタ時代劇? 松尾スズキ作 『ニンゲン御破算』(阿部サダヲ主演)森ノ宮ピロティーホール

さて、ヴォネガットの本を読んでいる合間に、大人計画『ニンゲン御破算』を見てきました。そういえば、松尾スズキもヴォネガットに影響を受けたとよく語っているのでつながっているとも言える。 ↓絶賛CM中のキンチョーからも花が来ていた。長澤まさみはなん…

再び、いまヴォネガットが生きていたら…… 『現代作家ガイド カート・ヴォネガット』(伊藤典夫・巽孝之ほか)

あらゆることが政治化されてしまった今日では、例えばオリンピックを廃止しようというのならそれで結構。別に残念だとも思いませんよ。どの道、オリンピックはばかばかしいくらいに政治的で、国家主義的なものですし。みっともない。 やっぱりあのひとの言っ…

時間のかかる小説 『機械』(横光利一)『時間のかかる読書』(宮沢章夫)

最近ちょいちょいスマホでラジオをつけていて、なかでもNHKの「すっぴん!」の月曜(宮沢章夫)と金曜(高橋源一郎)をよく聞いています。(それにしても、ほかの曜日はユージに麒麟の川島君、そしてダイアモンド☆ユカイと、いったいどういう基準でパーソナ…

穏やかな日常のどこかに隠れている悪夢のような世界 『アオイガーデン』(ピョン・ヘヨン 著 きむふな 訳)

もう少ししたら職場に行く準備をしないと、と思った朝の8時、いきなり激しい揺れに襲われた。 けれど、阪神淡路大震災や東日本大震災にくらべたら短かったので、やれやれと思って部屋を見回すと、うちの猫がいない。ベランダの戸を開けていたので、飛び出し…

SFの父、ディストピアの元祖、そして絶倫の人? 『タイムマシン』(H・G・ウェルズ 著 金原瑞人訳)

さて、SF小説の元祖、H・G・ウェルズの『タイムマシン』を読んでみました。 タイムマシン (岩波少年文庫) 作者: H.G.ウェルズ,H.G. Wells,金原瑞人 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2000/11/17 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る …

どうして女が自分を肯定することは、こんなにむずかしいのだろう? 「BUTTER」(柚木麻子)

どうして私たちは木嶋佳苗に注目してしまうのだろう? 木嶋佳苗をめぐる事件は、まるでプリズムのようにさまざまな角度から語ることができる。援助交際、性の売買、婚活、女の容姿、「家庭的」な女、父と娘、母と娘、地方と東京、セレブ志向…… 柚木麻子の『B…

90年代の失われた青春、そして再生の物語 『アンダー、サンダー、テンダー』(チョンセラン 著 吉川凪 訳)

さて、アジアシリーズの続き?として、『アンダー、サンダー、テンダー』を読みました。それにしても、『殺人者の記憶法』のときも思ったけれど、吉川凪さんの翻訳はほんとうに読みやすくて、すうっと文章が頭に入ってきます。 アンダー、サンダー、テンダー…

「強きを助け、弱きをくじく」はギャグになっているのか? 『タクシー運転手 約束は海を越えて』

前回に続き、すっかりアジアづいている今日この頃。寒い日にはサムゲタンが食べたくなり、暑い日には韓国冷麺が食べたくなる自分には、やはりヴィクトリア朝ではなくアジアの方が似合うのでしょう…… というわけで、映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』…

1967年から2013年までの香港の「正義」の変遷とは――『13・67』(陳 浩基 著 天野健太郎訳)

さて、2017年中国ミステリー最大の話題作『13・67』を読みました。 13・67 作者: 陳 浩基 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2017/09/30 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (10件) を見る 以前に高野秀行さんがツイッターで絶賛しており、これまで…

不思議な魅力のあるデビュー作(勝手に配役も考えた) 『永遠の1/2』(佐藤正午 著)

さて、4連休もどこに行くわけでもなく、ゴキブリみたいに家にへばりついていたら、あっという間に終了しました。やったことといえば、録りだめしておいた山本文緒原作のドラマ『あなたには帰る家がある』を見ながら、掃除らしきことをした程度。 #1 夫婦の…

『ストーナー』の訳者が遺した翻訳への愛と情熱、そして脱力ギャグ 『ねみみにみみず』(東江一紀 著 越前敏弥 編)

さて前回、第四回日本翻訳大賞が決まったと書きましたが、第一回読者賞を受賞した『ストーナー』の翻訳家、東江一紀のエッセイ『ねみみにみみず』を読み、ほんと翻訳家はエッセイがうまいひとが多い、とつくづく思った。 ねみみにみみず 作者: 東江一紀,越前…

大きな選択を迫られるとき――『ピンポン』(パク・ミンギュ 著 斎藤真理子 訳)『マレ・サカチのたったひとつの贈物』(王城夕紀)

さて、第四回日本翻訳大賞が『殺人者の記憶法』と『人形』に決まりました。『殺人者の記憶法』は前にも紹介したように、原作も映画もおもしろかったので納得。 『人形』はポーランドで人気の小説らしいが、手をつけるにはかなり気合のいる長さのよう。いや、…

滑稽な人間の生について考えてみる 『深い河』(遠藤周作 著)『今日はヒョウ柄を着る日』(星野博美 著)

手元にないのでうろ覚えだが(実家にあるはず)、学生時代に読んだエッセイ『佐藤君と柴田君』で、親が古びてきたので病院に通っていると柴田さんが書いていて、そのとき「そうか、親って古びるものなんだ」と思った記憶がある。 佐藤君と柴田君 (新潮文庫) …

傷つけられた者たちの「自立」と「再生」の物語 『なぎさ』(山本文緒 著)

妹が突然電話してきたのは三日前だった。しばらく会いたくないし声も聞きたくないから連絡しないでくれ、とはっきり言われたのは、ここに越して来る前のことなので何年も前だ。仕方ないことだと納得した私は、それから転居通知をポストに入れただけでまった…

音楽が聞こえる本ブックガイド BOOKMARK11号 村上春樹による『バット・ビューティフル』紹介文もあり

前回、次は山本文緒の『なぎさ』の感想を書くといいましたが、BOOKMARK 11号 "Listen to Books" を読んだところ、勝手に便乗して、音楽が聞こえる本を選びたくなりました。 そう、なんといっても村上春樹が巻頭エッセイを書いていることが話題になっている、…

自分で自分の人生を選び取ることは可能なのか? 『ジャンプ』(佐藤正午 著)

あのときああしてさえいれば、ちがう人生になっていたかも―― あのときああしてさえいれば、ちがうひとと寄り添っていたのかも―― なんて思ったりすることはあるでしょうか? いや、「やれたかも委員会」の話ではなく、佐藤正午の『鳩の撃退法』を読むまえに、…

不条理とユーモア、そして生と死が融合するエドガル・ケレットの世界 『あの素晴らしき七年』(秋元孝文 訳)『突然ノックの音が』(母袋夏生 訳)

自己嫌悪としてのユダヤ人としてのわが息子……「もう十分じゃないかしら?」妻がぼくの妄想に割り込む。「可愛い可愛いあなたのボクちゃんに向けるヒステリックな非難を夢想するかわりに、なにか役に立つことをしたら? おむつを替えるとか」「オッケー」とぼ…

「居場所もなかった」自分が「生命の喜び」を感じるまで 『猫道 単身転々小説集』(笙野頼子 著)

猫と出会ってこそ人間になった。人が家族のために頑張ることを理解し、人間がひとつ屋根の下で眠る事さえも、単なる不可解、不気味とは思わなくなった。猫といてこそ緊張があり、欲望が湧き、しかも常に夢中でなおかつ、闘争の根拠、実体を得た。 という前書…

2018/02/18 柴田元幸×藤井光「死者たち」朗読&トーク@恵文社『死体展覧会』(ハサン・ブラーシム 著 藤井光 訳)

さて、先日京都の恵文社で行われたイベント、柴田元幸&藤井光「死者たち」のレポートを書いておきたいと思います。といっても、おふたりの話がちゃんと理解できたか、固有名詞などまちがえてないか、ちょっと心もとないですが、ご了承のほどお願いします。 …

名古屋で犬三昧 『その犬の歩むところ』『約束』読書会&はしもとみお『木彫り動物美術館』

というと、なんだか犬を食したようですが、そうではなく、以前紹介した『その犬の歩むところ』といった”犬本”をテーマにした読書会が名古屋で開かれたので、日帰りで参加してきました。 まずは、読書会の前にも犬を補給しようと、新栄のヤマザキマザック美術…

ほんとうは自分のためのブックガイド 『10代のためのYAブックガイド150! 2』(監修:金原瑞人/ひこ・田中)トークショー

『10代のためのYAブックガイド150! 2』の出版記念トークショー(梅田のMARUZEN&ジュンク堂)に行ってきました。 今すぐ読みたい! 10代のためのYAブックガイド150! 2 作者: 金原瑞人,ひこ・田中 出版社/メーカー: ポプラ社 発売日: 2017/11/16 メ…

スパイ今昔物語 21世紀のスパイの実態?? 『放たれた虎』(ミック・ヘロン 著 田村義進 訳)

前回紹介した『殺人者の記憶法』、日本翻訳大賞にもノミネートされたようで、よかったよかった。 さて、スパイというと、いったいなにが頭に浮かぶでしょうか? やはり007? あるいは、キム・フィルビー? もしくは、ゾルゲ?(古いか) いやいや、マタ・ハ…

お父さんは心配性?? 『殺人者の記憶法』(原作 キム・ヨンハ 著 吉川 凪 翻訳/映画 ウォン・シニョン監督)

俺が最後に人を殺したのはもう二十五年前、いや二十六年前だったか、とにかくその頃だ。それまで俺を突き動かしていた力は、世間の人たちが考えているような殺人衝動や変態性欲などではない。もの足りなさだ。もっと完璧な快感があるはずだという希望。 いや…

災厄の男たちから逃れる女の連帯 『音もなく少女は』(ボストン・テラン 著 田口俊樹 訳)

わたしは殺人の隠蔽工作の手助けをしました。嘘の上塗りをする手助けもしました。自分の人生、宗教、職業が否定していることをしました。しかし、そのためにこそより幸福になれました。 先日紹介した、ボストン・テランの『その犬の歩むところ』がおもしろか…

わたしはわたし、ぼくはぼく(BOOKMARK 10号より) 『夜愁』(サラ・ウォーターズ 著 中村有希 訳) 

映画というと、2017年最大に度肝を抜かれたのは『お嬢さん』だった。ヴィクトリア朝を舞台にしたサラ・ウォーターズの原作『荊の城』を、日本占領下の韓国の話に作りかえただけでもじゅうぶんインパクトがあるのに、まさに文字通り「一糸まとわぬ」女子たち…