快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

2016-12-10から1日間の記事一覧

破綻の予兆に満ちた世界から生じるノスタルジー 『歩道橋の魔術師』 (呉明益 天野健太郎訳)

猫はまるで白い影のように、机の上から唐さんを見ていた。唐さんはギターのピックみたいな平らなチャコペンで、生地に線を描いていた。唐さんはときどき手を休め、猫を見た。猫もまた唐さんを見た。なんだか眼差しだけで会話をしているようだった。唐さんが…