快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

翻訳本

来たるべき新世界へ――女と女の物語~百合(かもしれない)ブックガイド

先日『元年春之祭』を課題本にして翻訳ミステリー読書会を開催し、そのレポートがこちらのサイトに掲載されました。 元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ) 作者: 陸秋槎,稲村文吾 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2018/09/05 メディア: 新書 この商品を含むブ…

公民権運動の闘士から弁護士となったジェイの闘いを描く『黒き水のうねり』(アッティカ・ロック 著 高山真由美 訳)

暴動を煽動し、連邦政府職員――ジェイと似たりよったりの若造で、政府にやとわれた情報提供者――を殺害するための共同謀議を企てたとして、検察はジェイを告発した。検察は電話で三分半足らずのジェイとストークリー・カーマイケルとの会話のテープを押さえ、…

喪失感を抱えたまま生きていく 『あまりにも真昼の恋愛』(キムグミ 著 すんみ 訳)

前回書いた「はじめての海外文学」の翌日に、出町座で行われたトークショーで、海外文学の魅力とは? という話になり、「遠さ」と「近さ」ではないかという意見が出た。 つまり、海を越えた「遠い」国の物語であるのに、その心情はおどろくほど「近い」とい…

文学は万能薬? はじめての海外文学@梅田蔦屋書店(2019/01/26)後編(『虫とけものと家族たち』ジェラルド・タレル 著 池澤夏樹 訳など)

さて、遅くなってしまいましたが「はじめての海外文学」@梅田蔦屋書店のレポの続きです。 田中亜希子さんの次の登壇者は、現在ご自身の訳書『タコの心身問題』が大ヒット中の夏目大さん。 タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源 作者: ピーター・ゴド…

はじめての海外文学@梅田蔦屋書店(2019/01/26)前編 『ピアノ・レッスン』(アリス・マンロー 著 小竹由美子訳)など

さて、先週土曜日は、梅田蔦屋書店で行われたイベント「はじめての海外文学」に行ってきました。 「はじめての海外文学」って何なんそれ? という方もいるかと思いますが、ふだん海外文学になじみのない読者に向けて、翻訳者さんがおすすめの本を紹介すると…

最近読んだ本(2019年1月)『作者を出せ!』(デイヴィッド・ロッジ 高儀進訳)『「女子」という呪い』(雨宮処凛)『ポップスで精神医学』

さて、最近読んだ本をさくっと数点紹介したいと思います。 (いや、ここ最近、1つのトピックで長々書いてしまいがちなので、そんなに長く書いたら、もともとその話題に興味あるひと以外誰も読まないぞー!というのは承知しているので、今年は短い紹介記事も…

女が自らを救うために――『ヒロインズ』(ケイト・ザンブレノ著 西山敦子訳)

精神病院で死んだ、モダニストの狂った妻たち。閉じ込められ、保護されて。忘れられ、消し去られ、書き換えられて。ヴィヴィアン・エリオットは自分の分身を書いた。名前はシビュラ。彼女の夫の詩『荒地』は、甕のなかに閉じ込められた彼女の声で始まる。そ…

ディケンズとクリスマス 『Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男』と『クリスマス・キャロル』(池央耿 訳)

さて、きょうはクリスマス・イヴ。 ここ数年は本気でその存在を忘れてしまいがちなクリスマスですが、実は19世紀においても、すでに廃れつつある行事になりかけていたらしい。 という事実を、先日映画『メリークリスマス ロンドンに奇跡を起こした男』を見て…

ひとりでも多くのひとに知ってもらいたい『THE LAST GIRL――イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語』(ナディア・ムラド 著 吉井智津 訳)

ナディアは、ISISによって連れ去られ、フェイスブック上に開設された市場で、ときにはたったの20ドル程度で売買された数千人のヤズィディ教徒のひとりだった。ナディアの母親は、80人の高齢女性たちとともに処刑され、目印ひとつない墓穴に埋められた。彼女…

11/25 『アメリカ死にかけ物語』トークライブ リン・ディン&岸政彦@スタンダードブックストア心斎橋

『アメリカ死にかけ物語』発売記念として行われた、リン・ディンさんと岸政彦さんのトークライブに行ってきました。 前作の『血液と石鹸』を読んだきっかけは、柴田元幸さんが訳しているからという単純なものだったけれど、ベトナムからアメリカに移民したバ…

10/21 岸本佐知子&津村記久子トークショーと『あなたを選んでくれるもの』(ミランダ・ジュライ 著 岸本佐知子 訳)

先週の日曜、スタンダードブックストア心斎橋で行われた、翻訳家の岸本佐知子さんと作家の津村記久子さんのトークショーに参加してきました。 おもな内容は、ミランダ・ジュライの新作『最初の悪い男』にまつわるもので、まだ読んでいないため(この日に買い…

華麗な恋愛と創作の軌跡、そして絶望 『絶倫の人 小説H・G・ウェルズ』(デイヴィッド・ロッジ 著 高儀進 訳)

彼は生涯で百人を優に超える女と寝たに違いないが、何人かとは一回寝ただけで、大多数の女の名前は忘れてしまった。彼は自分がほかの男より強い性的衝動を持っているのかどうか、大方の男より、それを満足させるのにもっと成功しただけなのかどうかはわから…

愛の形にはいろいろある 『ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン』(ジョン・グリーン、デイヴィッド・レヴィサン著 金原瑞人、井上里 訳)

『アラスカを追いかけて』『さよならを待つふたりのために』などでおなじみの人気作家、ジョン・グリーンと、目下『エヴリデイ』が話題のデイヴィッド・レヴィサンが共作した『ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン』、当然読み逃すわけにはいきません。 …

静かな北欧の村で、ふたりの女のアイデンティティが絡まりあう 『誠実な詐欺師』(トーベ・ヤンソン 著 冨原眞弓 訳)

歯を磨いたり洗い物をするときなどは、スマホでよくラジオを聞くのだけど、NHKラジオの「仕事学のすすめ」という番組に、前回の『コンビニ人間』の村田沙耶香が出ていたので聞いてみた。 すると、パーソナリティーから、「この小説に出てくる白羽さんは、遅…

おれは黒い それって最高。『リズムがみえる』(絵 ミシェル ウッド 文 トヨミ アイガス 訳 金原瑞人 監修 ピーター バラカン)

異常気象が続いたこの夏、暑さのせいか電車が止まったり、台風のせいで行くつもりだったライブが中止になったりと、なんだか落ち着かない日々が続くなか、8月の終わりにまたひとつ歳をとった。 そしてまるで誕生日プレゼントのように、この絵本が届いた。(…

灼熱の8月6日に読むべき1冊 『猫のゆりかご』(カート・ヴォネガット・ジュニア 著 伊藤典夫 訳)(with 村上RADIO)

今よりずっと若かったころ、わたしは『世界が終末をむかえた日』と題されることになる本の資料を集めはじめた。それは、事実に基づいた本になるはずだった。 それは、日本の広島に最初の原子爆弾が投下された日、アメリカの重要人物たちがどんなことをしてい…

理不尽な社会で愛は存在するのか? 『ヒトラーの描いた薔薇』(ハーラン・エリスン 著 伊藤典夫・他 訳)

その都市の地下には、またひとつの都市がある。じめじめした暗い異境。下水道をかけまわる濡れた生き物と、逃れることにあまりにも死にもの狂いのため冥府のリステックスさえも抑えきれぬ急流の都市。その失われた地底の都市で、ぼくは子どもを見つけた。 『…

救いのない人生で見出したものとは? 『タイタンの妖女』(カート・ヴォネガット・ジュニア 著 浅倉久志 訳)

かつてウィンストン・ナイルズ・ラムフォードは、火星から二日の距離にある、星図に出ていない、ある時間等曲率漏斗(クロノ・シンクラスティック・インファンディブラム)のまっただなかへ、自家用宇宙船で飛び込んでしまったのである。彼と行をともにした…

再び、いまヴォネガットが生きていたら…… 『現代作家ガイド カート・ヴォネガット』(伊藤典夫・巽孝之ほか)

あらゆることが政治化されてしまった今日では、例えばオリンピックを廃止しようというのならそれで結構。別に残念だとも思いませんよ。どの道、オリンピックはばかばかしいくらいに政治的で、国家主義的なものですし。みっともない。 やっぱりあのひとの言っ…

穏やかな日常のどこかに隠れている悪夢のような世界 『アオイガーデン』(ピョン・ヘヨン 著 きむふな 訳)

もう少ししたら職場に行く準備をしないと、と思った朝の8時、いきなり激しい揺れに襲われた。 けれど、阪神淡路大震災や東日本大震災にくらべたら短かったので、やれやれと思って部屋を見回すと、うちの猫がいない。ベランダの戸を開けていたので、飛び出し…

SFの父、ディストピアの元祖、そして絶倫の人? 『タイムマシン』(H・G・ウェルズ 著 金原瑞人訳)

さて、SF小説の元祖、H・G・ウェルズの『タイムマシン』を読んでみました。 タイムマシン (岩波少年文庫) 作者: H.G.ウェルズ,H.G. Wells,金原瑞人 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2000/11/17 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る …

90年代の失われた青春、そして再生の物語 『アンダー、サンダー、テンダー』(チョンセラン 著 吉川凪 訳)

さて、アジアシリーズの続き?として、『アンダー、サンダー、テンダー』を読みました。それにしても、『殺人者の記憶法』のときも思ったけれど、吉川凪さんの翻訳はほんとうに読みやすくて、すうっと文章が頭に入ってきます。 アンダー、サンダー、テンダー…

1967年から2013年までの香港の「正義」の変遷とは――『13・67』(陳 浩基 著 天野健太郎訳)

さて、2017年中国ミステリー最大の話題作『13・67』を読みました。 13・67 作者: 陳 浩基 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2017/09/30 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (10件) を見る 以前に高野秀行さんがツイッターで絶賛しており、これまで…

大きな選択を迫られるとき――『ピンポン』(パク・ミンギュ 著 斎藤真理子 訳)『マレ・サカチのたったひとつの贈物』(王城夕紀)

さて、第四回日本翻訳大賞が『殺人者の記憶法』と『人形』に決まりました。『殺人者の記憶法』は前にも紹介したように、原作も映画もおもしろかったので納得。 『人形』はポーランドで人気の小説らしいが、手をつけるにはかなり気合のいる長さのよう。いや、…

音楽が聞こえる本ブックガイド BOOKMARK11号 村上春樹による『バット・ビューティフル』紹介文もあり

前回、次は山本文緒の『なぎさ』の感想を書くといいましたが、BOOKMARK 11号 "Listen to Books" を読んだところ、勝手に便乗して、音楽が聞こえる本を選びたくなりました。 そう、なんといっても村上春樹が巻頭エッセイを書いていることが話題になっている、…

不条理とユーモア、そして生と死が融合するエドガル・ケレットの世界 『あの素晴らしき七年』(秋元孝文 訳)『突然ノックの音が』(母袋夏生 訳)

自己嫌悪としてのユダヤ人としてのわが息子……「もう十分じゃないかしら?」妻がぼくの妄想に割り込む。「可愛い可愛いあなたのボクちゃんに向けるヒステリックな非難を夢想するかわりに、なにか役に立つことをしたら? おむつを替えるとか」「オッケー」とぼ…

2018/02/18 柴田元幸×藤井光「死者たち」朗読&トーク@恵文社『死体展覧会』(ハサン・ブラーシム 著 藤井光 訳)

さて、先日京都の恵文社で行われたイベント、柴田元幸&藤井光「死者たち」のレポートを書いておきたいと思います。といっても、おふたりの話がちゃんと理解できたか、固有名詞などまちがえてないか、ちょっと心もとないですが、ご了承のほどお願いします。 …

名古屋で犬三昧 『その犬の歩むところ』『約束』読書会&はしもとみお『木彫り動物美術館』

というと、なんだか犬を食したようですが、そうではなく、以前紹介した『その犬の歩むところ』といった”犬本”をテーマにした読書会が名古屋で開かれたので、日帰りで参加してきました。 まずは、読書会の前にも犬を補給しようと、新栄のヤマザキマザック美術…

スパイ今昔物語 21世紀のスパイの実態?? 『放たれた虎』(ミック・ヘロン 著 田村義進 訳)

前回紹介した『殺人者の記憶法』、日本翻訳大賞にもノミネートされたようで、よかったよかった。 さて、スパイというと、いったいなにが頭に浮かぶでしょうか? やはり007? あるいは、キム・フィルビー? もしくは、ゾルゲ?(古いか) いやいや、マタ・ハ…

お父さんは心配性?? 『殺人者の記憶法』(原作 キム・ヨンハ 著 吉川 凪 翻訳/映画 ウォン・シニョン監督)

俺が最後に人を殺したのはもう二十五年前、いや二十六年前だったか、とにかくその頃だ。それまで俺を突き動かしていた力は、世間の人たちが考えているような殺人衝動や変態性欲などではない。もの足りなさだ。もっと完璧な快感があるはずだという希望。 いや…