快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

翻訳本

おれは黒い それって最高。『リズムがみえる』(絵 ミシェル ウッド 文 トヨミ アイガス 訳 金原瑞人 監修 ピーター バラカン)

異常気象が続いたこの夏、暑さのせいか電車が止まったり、台風のせいで行くつもりだったライブが中止になったりと、なんだか落ち着かない日々が続くなか、8月の終わりにまたひとつ歳をとった。 そしてまるで誕生日プレゼントのように、この絵本が届いた。(…

灼熱の8月6日に読むべき1冊 『猫のゆりかご』(カート・ヴォネガット・ジュニア 著 伊藤典夫 訳)(with 村上RADIO)

今よりずっと若かったころ、わたしは『世界が終末をむかえた日』と題されることになる本の資料を集めはじめた。それは、事実に基づいた本になるはずだった。 それは、日本の広島に最初の原子爆弾が投下された日、アメリカの重要人物たちがどんなことをしてい…

理不尽な社会で愛は存在するのか? 『ヒトラーの描いた薔薇』(ハーラン・エリスン 著 伊藤典夫・他 訳)

その都市の地下には、またひとつの都市がある。じめじめした暗い異境。下水道をかけまわる濡れた生き物と、逃れることにあまりにも死にもの狂いのため冥府のリステックスさえも抑えきれぬ急流の都市。その失われた地底の都市で、ぼくは子どもを見つけた。 『…

救いのない人生で見出したものとは? 『タイタンの妖女』(カート・ヴォネガット・ジュニア 著 浅倉久志 訳)

かつてウィンストン・ナイルズ・ラムフォードは、火星から二日の距離にある、星図に出ていない、ある時間等曲率漏斗(クロノ・シンクラスティック・インファンディブラム)のまっただなかへ、自家用宇宙船で飛び込んでしまったのである。彼と行をともにした…

再び、いまヴォネガットが生きていたら…… 『現代作家ガイド カート・ヴォネガット』(伊藤典夫・巽孝之ほか)

あらゆることが政治化されてしまった今日では、例えばオリンピックを廃止しようというのならそれで結構。別に残念だとも思いませんよ。どの道、オリンピックはばかばかしいくらいに政治的で、国家主義的なものですし。みっともない。 やっぱりあのひとの言っ…

穏やかな日常のどこかに隠れている悪夢のような世界 『アオイガーデン』(ピョン・ヘヨン 著 きむふな 訳)

もう少ししたら職場に行く準備をしないと、と思った朝の8時、いきなり激しい揺れに襲われた。 けれど、阪神淡路大震災や東日本大震災にくらべたら短かったので、やれやれと思って部屋を見回すと、うちの猫がいない。ベランダの戸を開けていたので、飛び出し…

SFの父、ディストピアの元祖、そして絶倫の人? 『タイムマシン』(H・G・ウェルズ 著 金原瑞人訳)

さて、SF小説の元祖、H・G・ウェルズの『タイムマシン』を読んでみました。 タイムマシン (岩波少年文庫) 作者: H.G.ウェルズ,H.G. Wells,金原瑞人 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2000/11/17 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る …

90年代の失われた青春、そして再生の物語 『アンダー、サンダー、テンダー』(チョンセラン 著 吉川凪 訳)

さて、アジアシリーズの続き?として、『アンダー、サンダー、テンダー』を読みました。それにしても、『殺人者の記憶法』のときも思ったけれど、吉川凪さんの翻訳はほんとうに読みやすくて、すうっと文章が頭に入ってきます。 アンダー、サンダー、テンダー…

1967年から2013年までの香港の「正義」の変遷とは――『13・67』(陳 浩基 著 天野健太郎訳)

さて、2017年中国ミステリー最大の話題作『13・67』を読みました。 13・67 作者: 陳 浩基 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2017/09/30 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (10件) を見る 以前に高野秀行さんがツイッターで絶賛しており、これまで…

大きな選択を迫られるとき――『ピンポン』(パク・ミンギュ 著 斎藤真理子 訳)『マレ・サカチのたったひとつの贈物』(王城夕紀)

さて、第四回日本翻訳大賞が『殺人者の記憶法』と『人形』に決まりました。『殺人者の記憶法』は前にも紹介したように、原作も映画もおもしろかったので納得。 『人形』はポーランドで人気の小説らしいが、手をつけるにはかなり気合のいる長さのよう。いや、…

音楽が聞こえる本ブックガイド BOOKMARK11号 村上春樹による『バット・ビューティフル』紹介文もあり

前回、次は山本文緒の『なぎさ』の感想を書くといいましたが、BOOKMARK 11号 "Listen to Books" を読んだところ、勝手に便乗して、音楽が聞こえる本を選びたくなりました。 そう、なんといっても村上春樹が巻頭エッセイを書いていることが話題になっている、…

不条理とユーモア、そして生と死が融合するエドガル・ケレットの世界 『あの素晴らしき七年』(秋元孝文 訳)『突然ノックの音が』(母袋夏生 訳)

自己嫌悪としてのユダヤ人としてのわが息子……「もう十分じゃないかしら?」妻がぼくの妄想に割り込む。「可愛い可愛いあなたのボクちゃんに向けるヒステリックな非難を夢想するかわりに、なにか役に立つことをしたら? おむつを替えるとか」「オッケー」とぼ…

2018/02/18 柴田元幸×藤井光「死者たち」朗読&トーク@恵文社『死体展覧会』(ハサン・ブラーシム 著 藤井光 訳)

さて、先日京都の恵文社で行われたイベント、柴田元幸&藤井光「死者たち」のレポートを書いておきたいと思います。といっても、おふたりの話がちゃんと理解できたか、固有名詞などまちがえてないか、ちょっと心もとないですが、ご了承のほどお願いします。 …

名古屋で犬三昧 『その犬の歩むところ』『約束』読書会&はしもとみお『木彫り動物美術館』

というと、なんだか犬を食したようですが、そうではなく、以前紹介した『その犬の歩むところ』といった”犬本”をテーマにした読書会が名古屋で開かれたので、日帰りで参加してきました。 まずは、読書会の前にも犬を補給しようと、新栄のヤマザキマザック美術…

スパイ今昔物語 21世紀のスパイの実態?? 『放たれた虎』(ミック・ヘロン 著 田村義進 訳)

前回紹介した『殺人者の記憶法』、日本翻訳大賞にもノミネートされたようで、よかったよかった。 さて、スパイというと、いったいなにが頭に浮かぶでしょうか? やはり007? あるいは、キム・フィルビー? もしくは、ゾルゲ?(古いか) いやいや、マタ・ハ…

お父さんは心配性?? 『殺人者の記憶法』(原作 キム・ヨンハ 著 吉川 凪 翻訳/映画 ウォン・シニョン監督)

俺が最後に人を殺したのはもう二十五年前、いや二十六年前だったか、とにかくその頃だ。それまで俺を突き動かしていた力は、世間の人たちが考えているような殺人衝動や変態性欲などではない。もの足りなさだ。もっと完璧な快感があるはずだという希望。 いや…

災厄の男たちから逃れる女の連帯 『音もなく少女は』(ボストン・テラン 著 田口俊樹 訳)

わたしは殺人の隠蔽工作の手助けをしました。嘘の上塗りをする手助けもしました。自分の人生、宗教、職業が否定していることをしました。しかし、そのためにこそより幸福になれました。 先日紹介した、ボストン・テランの『その犬の歩むところ』がおもしろか…

わたしはわたし、ぼくはぼく(BOOKMARK 10号より) 『夜愁』(サラ・ウォーターズ 著 中村有希 訳) 

映画というと、2017年最大に度肝を抜かれたのは『お嬢さん』だった。ヴィクトリア朝を舞台にしたサラ・ウォーターズの原作『荊の城』を、日本占領下の韓国の話に作りかえただけでもじゅうぶんインパクトがあるのに、まさに文字通り「一糸まとわぬ」女子たち…

2018年 こりゃ読まなあかんやろブックリスト

すっかり年もあけました。こちらの門松は、大阪のフェスティバルタワーのものです。ここから歩いて初詣へ…… 堂島のジュンク堂本店の裏にある、堂島薬師堂へ。あらためて見ると、ほんと奇抜なお堂だ。 というわけで、年末年始休暇も終了。ちなみに、家の近所…

12/23 柴田元幸×内田輝/レベッカ・ブラウン『かつらの合っていない女』刊行記念朗読会 @ワールズエンドガーデン

で、前回の続きで、神戸市立外大の公開講座のあとは、灘の古本屋ワールドエンズガーデンでの朗読会へ。 柴田さんの朗読はこれまでも何回か聞いたことがあるけれど、今回はクラヴィコード&サックスの内田輝さんと一緒なので、音楽つきってどんな感じなんだろ…

12/23 柴田元幸公開講座「あまりアメリカ的でないアメリカ人芸術家たちについて-小説、詩、写真、漫画」@神戸市立外大

さて、10月の枚方蔦屋書店での柴田元幸さんのトークイベントで、「レベッカ・ブラウンとの朗読会に参加できなくて残念だった」とお話ししたと書きましたが、それからすぐに、「柴田元幸×内田輝/レベッカ・ブラウン『かつらの合っていない女』刊行記念ツアー…

冬のロスマク祭 『さむけ』『ウィチャリー家の女』(ロス・マクドナルド 著 小笠原豊樹 訳)『象牙色の嘲笑』(小鷹信光 松下祥子 訳)

この女が問題にしてもらいたがっているほど、わたしはこの女を問題にしていない。そもそもこの女を全面的に信用してはいないのだ。女の美しい肉体には二つの人格が交互に現れるようだった。一つは感受性の強い、しかも無邪気な性格。もう一つは、かたくなで…

2017年ベスト本――最愛の犬本② 『その犬の歩むところ』(ボストン・テラン 著 田口俊樹 訳)

この若い犬をご覧。血のように赤い石のそばにじっと佇み、体を休めている。四肢をすっくと伸ばし、胸を張り、頭を高く掲げて。 さて、今年のベストといえるもう1冊の犬本は、2017年のミステリーランキングにもよく挙げられている『その犬の歩むところ』です…

【12/4 追記】2017年ベスト本――最愛の犬本① 『おやすみ、リリー』(スティーヴン・ローリー 著 越前敏弥 訳)

二十代がまさに終わる日の夜、新しくやってきた子犬を腕に抱いたとき、ぼくは泣き崩れた。愛を感じたからだ。愛みたいなものじゃない。ちょっとした愛でもない。限界なんかなかった。ぼくは出会ってからたった九時間の生き物に、ありったけの愛を感じていた…

優等生を演じてきた少女に降りかかる恋愛と悲劇 『ハティの最期の舞台』(ミンディ・メヒア 著 坂本あおい 訳) 

演技するうえで最初に学ぶべき大切なことは、観客の心を読むことだ。どんな自分を期待されているのか察知して、そのとおりにする。 翻訳ミステリー大賞シンジケートのサイトでの、「シルヴィア・プラスの『ベル・ジャー』であり、ローレン・ワイズバーガーの…

わたしの大好きな本の半生 『わたしの名前は「本」』(ジョン・アガード 著 金原瑞人 訳)

フィルムアート社の読者モニター募集に申し込み、この『わたしの名前は「本」』を読ませてもらいました。 わたしの名前は「本」 作者: ジョン・アガード,ニール・パッカー,金原瑞人 出版社/メーカー: フィルムアート社 発売日: 2017/11/25 メディア: 単行本 …

なぜか親子の話から、ダン・ブラウン『ロスト・シンボル』『天使と悪魔』『ORIGIN』(『オリジン』?)にまで思いを馳せた

『母がしんどい』『呪詛抜きダイエット』などを描いている、田房永子さんによる清水アキラ親子についての考察がおもしろかった。(リンク先のLove Piece Clubは18禁サイトかと思うので、念のためご注意を) www.lovepiececlub.com 「小学生みたい、それか昭…

”歴史の証人”となるためのブックガイド② 『1980年代』『小さいおうち』(中島京子)『こびとが打ち上げた小さなボール』(チョ・セヒ 著, 斎藤真理子 翻訳)

さて、前回は欧米の歴史についての本を紹介したけれど、やはり日本とアジアについての歴史も忘れちゃいかんと、日本の近過去を扱った『1980年代』も読んでみました。 1980年代 (河出ブックス) 作者: 斎藤美奈子,成田龍一 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売…

”歴史の証人”となるためのブックガイド① ジョージ・ソーンダーズ『Lincoln in the Bardo』、『歴史の証人 ホテル・リッツ 生と死、そして裏切り』( ティラー・J・マッツェオ 著, 羽田 詩津子 訳)

先日のノーベル文学賞に続き、ブッカー賞も発表になりましたね。日本でもすでに何冊か訳されている、ジョージ・ソーンダーズの『Lincoln in the Bardo』が受賞したとのこと。 Lincoln in the Bardo: A Novel 作者: George Saunders 出版社/メーカー: Random …

『MONKEY vol.13 食の一ダース 考える糧』発売記念 柴田元幸トーク&朗読会@枚方蔦屋書店

10月15日、『MONKEY vol13 食の一ダース 考える糧』発売記念として、枚方の蔦屋書店で行われた、柴田元幸さんのトーク&朗読会に参加しました。 MONKEY vol.13 食の一ダース 考える糧 作者: 柴田元幸,リオノーラ・キャリントン,堀江敏幸,西加奈子,戌井昭人,…