快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

YA・青春小説

差別する側の「誤った決断や行動、事後の後悔」を描いた 『兄の名は、ジェシカ』(ジョン・ボイン著 原田勝訳)

ジョン・ボイン『兄の名は、ジェシカ』を読みました。 以前に紹介した二作『縞模様のパジャマの少年』『ヒトラーと暮らした少年』は、どちらもナチスドイツの支配下にあったヨーロッパを描いていたが、今作は現代のイギリスが舞台となっている。 兄の名は、…

ナチス政権内部の少年たちを描いた、ジョン・ボイン『縞模様のパジャマの少年』(千葉茂樹 訳)『ヒトラーと暮らした少年』(原田勝 訳)

花の咲きほこる庭や銘板のついたベンチから五、六メートルほど先で、すべてががらりと変わってしまう。そこには巨大な金網のフェンスがあった。家と平行に張りめぐらされたフェンスのてっぺんはむこう側にむかって折れていて、目の届くかぎり左右へつづいて…

行かなくちゃ、君に逢いに行かなくちゃ 『エヴリデイ』(デイヴィッド・レヴィサン 著 三辺 律子 訳)

毎日、だれかのからだで目覚める毎日、ちがう人生を生きる毎日、きみに恋してる 以前、ジョン・グリーンとデイヴィッド・レヴィサンが共作した『ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン』を紹介しましたが、今度はデイヴィッド・レヴィサン単著の『エヴリデ…

ヴァージニア・ウルフの言葉を思い出した 『対岸の彼女』(角田光代 著)

さて、本日(3月9日)の『元年春之祭』読書会に備えて、「女と女の小説」に浸っていた今日この頃でした。 このブログでも何度か引用している、松浦理英子の『ナチュラル・ウーマン』から、サラ・ウォーターズの『半身』に、ジャネット・ウィンターソンの『オ…

愛の形にはいろいろある 『ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン』(ジョン・グリーン、デイヴィッド・レヴィサン著 金原瑞人、井上里 訳)

『アラスカを追いかけて』『さよならを待つふたりのために』などでおなじみの人気作家、ジョン・グリーンと、目下『エヴリデイ』が話題のデイヴィッド・レヴィサンが共作した『ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン』、当然読み逃すわけにはいきません。 …

90年代の失われた青春、そして再生の物語 『アンダー、サンダー、テンダー』(チョンセラン 著 吉川凪 訳)

さて、アジアシリーズの続き?として、『アンダー、サンダー、テンダー』を読みました。それにしても、『殺人者の記憶法』のときも思ったけれど、吉川凪さんの翻訳はほんとうに読みやすくて、すうっと文章が頭に入ってきます。 アンダー、サンダー、テンダー…

ほんとうは自分のためのブックガイド 『10代のためのYAブックガイド150! 2』(監修:金原瑞人/ひこ・田中)トークショー

『10代のためのYAブックガイド150! 2』の出版記念トークショー(梅田のMARUZEN&ジュンク堂)に行ってきました。 今すぐ読みたい! 10代のためのYAブックガイド150! 2 作者: 金原瑞人,ひこ・田中 出版社/メーカー: ポプラ社 発売日: 2017/11/16 メ…

2017年の締めくくり――女子高生たちによる〈疑似家族〉を描いた『最愛の子ども』(松浦理英子 著)

お題「年末年始に見たもの・読んだもの」 さて、きょうは大晦日。 というわけで、なんとしてでもこれを読まないと年を越せん!! と思っていた、松浦理英子の新刊『最愛の子ども』をようやく読みました。大掃除もそっちのけで。(毎年そっちのけだろーってい…

優等生を演じてきた少女に降りかかる恋愛と悲劇 『ハティの最期の舞台』(ミンディ・メヒア 著 坂本あおい 訳) 

演技するうえで最初に学ぶべき大切なことは、観客の心を読むことだ。どんな自分を期待されているのか察知して、そのとおりにする。 翻訳ミステリー大賞シンジケートのサイトでの、「シルヴィア・プラスの『ベル・ジャー』であり、ローレン・ワイズバーガーの…

またまた犬と猫 『レイン 雨を抱きしめて』(アン・マーティン 西本かおる訳)『キラーキャットのホラーな一週間』(アン・ファイン 灰島かり訳)

夜、寝るときには、レインはわたしの毛布にもぐりこんでくる。夜中に目がさめると、レインがわたしにのしかかっていて、レインの顔がわたしの首の上にある。レインの息はドッグフードみたいなにおいがする。 犬猫シリーズにまた新たな一冊が加わった。 レイ…

空飛ぶ少女のゆくえ――『メアリと魔女の花』(メアリ―・スチュアート著 越前敏弥訳)

ナウシカ、ラピュタ、トトロで自分の中のジブリ映画が止まってしまっているし(紅の豚も魔女の宅急便も見たはずだけど、あまり覚えていない)、『君の名は』など最近のアニメも見ていないため、、ジブリやアニメについて語る資格はないのですが、この『メア…

大人になるっていうこと 『ペーパーボーイ』(ヴィンス・ウォーター著 原田勝訳)

そういえば、前回の 『MONKEY』の「あの時はあぶなかったなあ」ですが、砂田麻美さんの飼い犬、柴犬のポン吉の話もおもしろかった。手羽先がそんなに犬にとって危険だったとは、、、しかし、「所詮、犬は畜生やよ」ってなんだか深い。 ところでこの砂田麻美…

障害を持つ少年が主人公か……と引いてしまう人にぜひ 『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(マーク・ハッドン 小尾芙佐訳)

BOOKMARKで紹介されていたときから気になっていた、『夜中に犬に起こった奇妙な事件』が、読書会の課題本になったので読んでみた。BOOKMARKが創刊号で「これがお勧め、いま最強の17冊」として紹介していただけに、すごくおもしろく、また、あらゆる面から考…

ブコウスキー流青春放浪記 『勝手に生きろ!』 チャールズ・ブコウスキー著 都甲幸治訳

親父が毎晩家に帰ってきてから、おふくろを相手にえんえんと仕事の話をし続けたことを思い出した。親父が玄関のドアを開けると同時にいきなり仕事の話は始まり、夕食の最中だろうがなんだろうが、八時に親父が寝室から「電気を消せ」と叫ぶまで続いた。親父…

王子様なんてぜんぜん必要ないシンデレラ 『靴を売るシンデレラ』(ジョーン・バウアー著 灰島かり訳) 

先週の水曜、午後休とったので、映画『ブルックリン』でも見に行こうかなーと思い、10分前くらいにTOHOシネマズ梅田に行ったら、なんともう完売していた。きっと原作を先に読めってことなのかな… ブルックリン (エクス・リブリス) 作者: コルムトビーン,栩木…

ぶかっこうな女の子のぶかっこうな恋愛 『エレナーとパーク』(レインボー・ローウェル著・三辺律子訳)

今週のお題「わたしの本棚」ということなのでーー 転入生の女の子は深く息を吸いこむと、通路を歩きはじめた。だれもそっちを見ようとしない。パークも見ないようにしたけど、だめだ、列車事故が月蝕かって感じ。目が引付られる。 転入生は、まさにこういう…

いったいどうしたらこの苦しみのラビリンスから抜け出せるのか? 『アラスカを追いかけて』(ジョン・グリーン著 伊達淳訳)

100日前――「もう何回も聞かれてウンザリかもしれないけど、でもどうしてアラスカなの?」……「あたしの七歳の時の誕生日プレゼントが、自分で名前を決めていいってことだったわけ。なかなかステキな話でしょ? だからあたしは本当にカッコいいって思える名前…

邪悪な子供その1 『チューリップ・タッチ』 (アン・ファイン 灰島かり訳)

「ねえ、あたしと友だちにならない?」 あたしは、なんてバカなことを言ったのだろう。 チューリップ・タッチ 作者: アンファイン,Anne Fine,灰島かり 出版社/メーカー: 評論社 発売日: 2004/11 メディア: 単行本 クリック: 2回 この商品を含むブログ (11件)…

私たちに与えられた短い無限の時間 『さよならを待つふたりのために』 ジョン・グリーン (金原瑞人・竹内茜訳)

十六歳でがんで死ぬより最悪なことはこの世でたったひとつ。がんで死ぬ子どもを持つことだ。 相次ぐ有名人のがん闘病が大きなニュースになり、もし自分や、自分の身近な人が病気になったら……と、だれでも考えてみたりするかと思いますが、この『さよならを待…

ファンタジーと現実の境界線って? デイヴィッド・アーモンド『肩胛骨は翼のなごり』(山田順子訳) 『火を喰うものたち』(金原瑞人訳)

さて、先日の『翻訳百景~ファンタジーを徹底的に語ろう~』に引き続き、デイヴィッド・アーモンドの『肩胛骨は翼のなごり』と『火を喰う者たち』を読んでファンタジーとはなんぞや問題について、またまた考えてみました。 肩胛骨は翼のなごり (創元推理文庫…

なぜか女子大生とコラボレートしている 『ケチャップ・シンドローム』 アナベル・ピッチャー

前々回紹介した、BOOKMARK、第二号の本と映画特集(映画化された本)のラインナップを見ると、『ぼくと1ルピーの神様』(『スラムドッグ・ミリオネア』)や、『トレインスポッティング』『悪童日記』『ザ・ロード』など、めちゃめちゃ豪華な作品が特集され…

ハズレなしの「いま最強の」翻訳本が紹介されています BOOKMARK

先日ようやく、BOOKMARKを手に入れることができました。 BOOKMARKとは、ヤングアダルトの翻訳の第一人者である金原瑞人さんが、翻訳・書評家である三辺律子さんとともに個人で創刊した、ぜひ読んでもらいたい翻訳本を紹介している小冊子です。 こちらが公式…

Cool Breezeな心優しき探偵、ドン・ウィンズロウ 『ストリート・キッズ』

ストリート・キッズ (創元推理文庫) 作者: ドンウィンズロウ,Don Winslow,東江一紀 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 1993/11 メディア: 文庫 購入: 9人 クリック: 184回 この商品を含むブログ (83件) を見る 前に紹介した『ストーナー』の翻訳者である…

『Ketchup Clouds』 Annabel Pitcher

Ketchup Clouds 作者: Annabel Pitcher 出版社/メーカー: Indigo (an Imprint of Orion Children's) 発売日: 2013/07/01 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る イギリスのバースに住む15歳の ”Zoe” は、頭も良く、二人の妹の面倒をみるしっ…

すべてはあなたにつながっている~Nina LaCour 『Everything leads to you』

Everything Leads to You 作者: Nina LaCour 出版社/メーカー: Dutton Books for Young Readers 発売日: 2014/05/15 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る ジャンル:YA・青春小説出版年:2014年カテゴリ:洋書(翻訳は出ていない) ロサンゼル…