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快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

村上春樹『恋しくて』

翻訳本 村上春樹 アリス・マンロー アンソロジー

 

恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES

恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES

 

  「ニューヨーカー」に掲載された作品などの中から、村上春樹がセレクトして自分で訳した短編集。

 ちょうど下の記事で紹介した、マイリー・メロイ『愛し合う二人に代わって』からはじまっている。
 イラク戦争に行った兵士の代理人として、結婚式をあげることを頼まれた高校の同級生の男女が、高校を卒業して地元をはなれ、それぞれの道に進み…というストレートな青春恋愛小説。主人公のウィリアムは、音楽を勉強するために大学に進み、そして同級生のブライディー(もちろんウィリアムは彼女に恋をしている)は女優になるためにシカゴ、そしてニューヨークに行くのだが、100パーセント案の定といった感じで、彼女は夢破れて挫折し、連絡も途絶えてしまう。そして、またまた案の定といった感じで、彼女が結婚したという話を親から聞かされるのだが……

 けど、小説でも、現実でも、いつもいつも思うのですが、どうして男の人は、彼女がつらい思いをしていることが火を見るより明らかなときでも、自分から連絡をとったり、なんなら助けに行くとかもせず、ただひたすらボケーっとして、そのあげく、ほかの男と結婚したとか聞いてはじめてショックを受けるんでしょうか??  なに? 自分から気持ちを表したり、アクションを起こしたら死ぬの? って思ってしまいますが。……いや、まあ、そんなことはどうでもいいのですが、各短編の最後に村上春樹により恋愛甘辛星取表がミシュランのようについているのに、ちょっと驚きました。この話は、比較的甘めです。
 

 あと、村上春樹アリス・マンロー『ジャック・ランダ・ホテル』を訳しているのも興味深かった。アリス・マンローのほかの作品と同様に、短い話の中で、一癖も二癖もある登場人物たちの関わりや、その人生の総括(のように思えるもの)を描ききっているのはすごいですね。
 アリス・マンローとならんで上級者向け(恋愛的にも小説的にも)として紹介している、リチャード・フォード『モントリオールの恋人』もなかなか捻りがきいたお話で、ほかの作品も読みたくなりました。

  
 また、私が一番気に入ったのは、リュドミラ・ペトルシェフスカヤの『薄暗い運命』で、村上春樹も「いちばんダークなラブ・ストーリー」で「その救いのなさに、読んでいる方もだんだん切なくなってくる」と解説している。と言っても、戦争で恋人が死んだとか、“大惨事かつ大恋愛”などではなく、ほんとうによくある、ただただ救いのない話なのですが。この邦訳本もたいへん面白そうなので、こちらもぜひとも読んでみないと。  

私のいた場所

私のいた場所

 

  そして本人も『恋するザムザ』という短編を書き下ろしていて、タイトルのとおり、カフカの『変身』の後日談で、「遥か昔に読んだぼんやりとした記憶を辿って」書いたらしいですが、私もぼんやりとした記憶を辿って読みました。
 ザムザが虫から人間に戻るというか、はじめて人間になるという話なのですが、なんといっても先日の『今日から地球人』と違って、戻るやいなや「なにか服を着ないと!」と思うところがすでに高度です。(先日の読書会でも「いくら地球に来たばっかりといっても、まわり見たら裸がまずいってすぐに気付くやろ」とさんざん突っこまれてましたが)せむしの娘もたいへん魅力的でした。

    村上春樹の最後の感想としては、「人を恋するというのもなかなか大変なことなんだなと」いうしごく当たり前のことを「あらためて痛感」したそうですが、ほんとこればっかりはいくら読んでも、結局まったく役に立たないというのは常々痛感するところです。(いや、読んだからうまく実践できたって人も、世の中のどこかにはいるんですかね?)