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快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

『愛の続き』 イアン・マキューアン

イアン・マキューアン 小山太一 翻訳本

 

愛の続き (新潮文庫)

愛の続き (新潮文庫)

 

 『甘美なる作戦』読んでみたいなと思っていたら、この旧作が図書館で目に入ったので読んでみました。

 子供を乗せたまま操縦不能になった気球を助けようと、主人公のジョーをふくめて通りがかった者たちが、力をあわせて気球を引っぱり降ろそうとするが、力不足であきらめ、一人を除いてみんながロープの手を離し……という冒頭の設定は上手だなとまず思った。
 そして、この奇妙な事件で出会ったパリーという男に、ジョーがストーカーされて、生活が崩壊していくというストーリーだが、原著が出た1997年ならともかく、今となっては、妄想を帯びたストーカーという存在はそんなに目新しく思えないけれども、ストーキングされることにより、ジョーの内面、そして恋人クラリッサとの関係のもろさが明るみになり、転がり落ちるように崩壊していくところが興味深かった。

 ジョーは科学の博士号も取り、もともとは研究者として生きていくつもりだったが、研究生活を一段落させたあと、長い旅行に出たり(“自分探しの旅”といったところか)、友人とビジネスを立ち上げたりして、すっかり研究者人生からドロップアウトしてしまい、今は科学ジャーナリストという肩書きで、科学とは無縁の素人に向けてわかりやすい記事を書くライターとして生計をたてている。つまり、研究者を挫折してしまった、何事も成し遂げられなかったという劣等感をもともと持っており、そこへ、例の気球の事件で、最後までロープから手を離さなかったジョンを見殺しにしてしまったという罪悪感と恐怖によって、精神が不安定になったところをストーカーにつけこまれるため、本当に精神を病んでいるのはジョーなのかパリーなのか、読者も混乱する書き方をとっている。現実においては、ストーキングされる方にも隙(原因)があるとは言えないけれども、この小説においては、ある種の因果のように感じられる。
 そして、ジョーとパリーだけではなく、気球事件のヒーローであるはずのジョンとその妻の関係もまた、愛の妄執の一形態となっているのがおもしろかった。

 ちなみに、この本は映画化もされたようで、ジョーはなんとダニエル・クレイグが演じたらしい。というか、解説によるとダニエル・クレイグは、映画『シルヴィア』でシルヴィア・プラスの夫も演じていたらしい。ドラゴン・タトゥーと007くらいではなかったのか……しかしテッド・ヒューズってやはりそんなに色男だったのでしょうか。
 
 また、原題は“Enduring Love”であり、解説でも書いてあるように、「持続する愛」または「愛に耐える」と解釈することができる。個人的には、ここのendureには、「持続する」にせよ、「耐える」にせよ、狂気の意味合いが含まれているような気がするので、日本語訳のタイトルは少し軽い気もしますが、でも、恋愛小説と思って手にとりやすいタイトルではありますね。