快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

女が女に抱く共感や憧れ、嫉妬に羨望――『HER』 ヤマシタトモコ

 

HER(Feelコミックス)

HER(Feelコミックス)

 

  これは、あなたの物語であり、わたしの物語である――
 タイトルである『HER』にもそういう意味がこめられているのだと思う。

 この本は6つの話をおさめた連作短編集であるが、連作といっても、全部でひとつの話になるというものではなく、それぞれの短編は完結している。

 CASE 1の主人公は、いわゆる “モテ髪” や “愛されコーデ” に反感を持ち、男を威圧するような高感度のおしゃれをしているが、「あたしだけ選ばれない」「世界中の男に選ばれたいのに」と空虚な思いを抱えている。
 CASE 2の主人公は、美容師という手に職を持って仕事に勤しんでいるが、結婚しているのに浮気三昧の常連客の話を聞いて、ぼんやりとその妻に哀れみを感じるが、ふと自分をかえりみて、「わたしったらもしかして このままひたすら働いて いずれ一人で死ぬんじゃないか」と不安になる。
 CASE 3の主人公は、“みんな”に迎合しなければいけない毎日に違和感を覚える女子高生で、けれども、“みんな”と同じように彼氏とつきあわなければいけないと考えていたが、白髪頭の初老の女が女の恋人とキスしているのを見て、“フツー”とはなにかと混乱する。

 と、ここまで書いていて気づいたが、冒頭に「あなたの物語であり、わたしの物語である」と書いたが、おそらくだれでも共感できるのはここまでで、CASE 4からは、共感しにくい人物が主人公になり、物語が“共感”を主軸においたものとは様相が変わっている。

 CASE 4の主人公は、思春期にかいまみた母親の浮気がトラウマとなり、化粧や女性らしい装いを一切拒否して地味な生活を送りつつ、男性との一夜限りの関係を繰り返す。
 CASE 5の主人公は、CASE 1に描かれていた、”モテ髪” と ”愛されコーデ” を武器にする女性で、しかしそれは、「可愛さ」以外自分にはなにもないからだと強く認識しているからであり、家柄もよく仕事もできる優秀な女性(いわゆる“サバサバ女性”です)と出会い、激しく憎悪する。
 きっと多くの女性が共感するであろう、CASE 1の主人公と違って、女を憎みながら女性性を武器にするこのCASE 5の主人公のような人物を描くところが、さすが深いな、とつくづく思った。最後の対決は見物です。

 と、CASE 4, 5では、“イタい女”を主人公にして、さまざまな女性像を描いたうえで、最後のCASE 6では、カップルの男が主人公であり、彼女をひたすらに想う「ぼくがあなたを好きで仕方がないように」というメッセージが、すべての女性に向けられているように放たれている。なかなかニクい構成だ。

 女が女に抱く共感や憧れ、嫉妬に羨望、この本を読めば、自分のなかに埋もれていた、これらすべての感情に気づかされる。そして、それでもやはり、自分は女であり、女という生き物を愛したいなと、強く思わされた。