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快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

ミステリー版ジェイン・オースティン? 『七人のおば』 パット・マガー

 

七人のおば (創元推理文庫)

七人のおば (創元推理文庫)

 

  

今週のお題「読書の夏」ということで、 

以前、翻訳ミステリー大賞シンジケートのホームページの『必読!ミステリー塾』のコーナーでこの本が紹介されていて、すごくおもしろそうだったので読んでみました。で、感想は……すごくおもしろかった。


 ストーリーは、新婚のサリーとピーターによる、まさにラブラブな会話ではじまる。ここでイラッとする人がいるかもしれないが、すぐにサリーの友人のヘレンからの手紙で雰囲気が一変するので、心配はご無用(?)。
 その手紙によると、サリーのおばのひとりが夫を毒殺して、自分も毒を飲んで自殺したとのこと。手紙にはそれ以上の詳細はなにも書かれていない。おばの名前すらもない。サリーにはおばが七人もいるというのに。

 深く驚愕するサリー。どのおばにせよ、夫を殺すなんてありえない! からではなく、どのおばもすべて、夫を殺しかねないから。どの夫が殺されてもまったく不思議ではない。サリーの両親が亡くなり、おばの家に引き取られた頃から回想して推理をはじめるサリーとピーター。

 とにかく、この七人のおばたちの恐ろしいことといったら。個性豊かにもほどがあるという感じです。そのなかでも、もっとも最凶というか、諸悪の根源と言っても過言ではない長姉のクララは、世間体絶対主義者であり、とにかく家の名誉のため、なにがなんでも妹たちを嫁にやって片付けることに心血を注いでいる。このクララの恐怖の仲人ぶりが、この家の数々の不幸のもとになっている。

 これ以上書くとネタバレというか、犯人をばらすわけではないにせよ、この物語の肝を明かしてしまうことになるのですが、妹がどれだけ結婚する気がないと言っても、異性を勝手に見つくろってセッティングしたり、また別の妹が離婚したいと言っても聞き耳をもたず、はては、結婚直前に、ほかの女性を好きになったので破談にしたいという男すら、強引に説き伏せて結婚させてしまう始末。
 考えたら、ミステリー版ジェイン・オースティンは、P・D・ジェイムズの『高慢と偏見、そして殺人』ではなく、こちらの方がふさわしいのではないかとすら思える。


 そしてクララの妹たちも、アルコール依存症になったり、夫を略奪したりされたり、病的な男性恐怖症だったり、異常な癇癪もちに浪費家に……と強烈に破綻した結婚生活のオンパレード。なので、どの夫もじゅうぶん殺されうる、というか正直なところ、読み進めていると、この一家の悪夢のようなクロニクルに夢中になってしまい、結局だれがだれを殺したのかという謎解きはどうでもよくなってくる。

 で、謎が解決したあとは、“いまのわたしたちの素敵な家族”に思いをはせて終わるという、意外なハッピーエンドぶりなのですが、これはキツい皮肉なのか、あるいは、最後の最後で、やすらぎを読者に感じさせようという意図なのでしょうか。いや、ぜんぜんやすらがなかったけど。

 ひねりのきいたミステリーを読みたい人、あるいは、ミステリーにそんなに興味はなくても、憎しみあう夫婦、いがみあうきょうだいといったドロドロした関係が大好物の人なら、じゅうぶん楽しめると思います。