快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

ストレートに “友情・努力・勝利” を描いた映画 大根仁監督『バクマン。』

 さて、話題の『バクマン。』を見てきました。
 ご存知の方も多いでしょうが、佐藤健神木隆之介演じる高校生二人が、プロの漫画家となって、あの「少年ジャンプ」で連載を持ち(ちなみに、この二人はどちらも絵を描く藤子不二雄スタイルではなく、原作と作画をそれぞれ担当する美味しんぼスタイル)、ジャンプ名物人気アンケート一位を目指す、現代版『まんが道』ともいえる、“熱血青春ストーリー”です。

 大根仁監督の前作『モテキ』は、ドラマも映画もすごくおもしろくて、私は大好きだったものの、“わかる人にだけわかる”要素――さまざまなサブカル的な小ネタ、あるいは森山未来演じる主人公幸世の自意識過剰なこじらせぶり――も多かったと思うが、この『バクマン。』は、もちろんマンガネタ、ジャンプネタはあるものの、マニアックなサブカル要素は薄れ、ジャンプのモットー “友情・努力・勝利” から逃げずに、セリフでも語られていたように、正面から堂々と向き合い、ほんとうにどんな人が見ても楽しめる、王道の娯楽作に仕上がっていることにおどろいた。

 少年ジャンプの王道といえば、天下一武道会にあたる「戦い」。
 悟空がいればベジータがいるように(私の「少年ジャンプ」は『ドラゴンボール』で止まっているのです…)もちろん、この『バクマン。』にもライバルはいる。六歳からマンガを描いているという、高校生天才漫画家・新妻エイジ

 天才エイジに勝つために、二人は、「ジャンプの“王道”でなく“邪道”でいいから、自分たちにしか描けないマンガを創るんだ」と腹を括るところが映画の見所なのですが、いや、高校生でジャンプに連載している時点で、二人もじゅうぶん天才なのでは?と思えてならなかった。しかも、処女作を持ちこんですぐ編集に目をかけてもらって、何回か直して手塚賞に準入選するんだから。
 このあたりのトントン拍子ぶりはあり得ない気もしたが、でもまあ漫画家って、高校生くらいでデビューする人も少なくないので、めずらしい話ではないのだろうか。
 
 この新妻エイジ役の染谷将太の演技も、漫画を描くために生まれてきた“独特の人”感がすごく出ていて、かなりパンチがきいていた。仲間の漫画家たちも、ヤンキー漫画を描く桐谷健太(しかし、ヤンキー漫画の作家って、実際あんなにマンガみたいなわかりやすいキャラなのだろうか)、“ぼのぼの”みたいなギャグ漫画を描く新井浩文(シュールな作風なので芸術家肌かと思いきや、金目当てで漫画を描いているのがリアルだった)、アシスタント歴15年の皆川猿時(「友情!努力!勝利!そして裸!」←本人のTVブロスでのコメント)、とみんなハマリ役だった。

 あと、担当編集役は山田孝之で、ジャンプの編集長役はリリー・フランキーと、そう、あの『凶悪』コンビがそろっているので、いつ殺人マシーンの瀧が出てくるかとひやひやした。残念ながら(当然ながら)出てこなかったが、大根監督の次回作、電気グルーヴのドキュメンタリーに期待。予告編ではperfumeのドキュメンタリーが流れていたが、(悪いけど)perfumeなんかより、電気の予告編を見たかった。

 帰ってから、TVブロスの『バクマン。』特集を読み返すと、大根監督と江口寿史の対談で、江口寿史が「おれにとっては鳥山(明)さんが新妻エイジだから(笑)」と言っていて、なるほどな~と思った。「天才を目のあたりにした感じ」だったそうです。やはり天才っているんでしょうね。でも、さっきの「邪道を目指す」話にも通じるが、ある程度長く生きていると、天才が必ず最後に勝つわけではないことも知っている。

 このTVブロスは、最後のページで、ジャンプ同様に目次形式で出演者の一言コメントがついているのですが、先の皆川猿時以外では、
 リリー・フランキー小松菜奈ちゃんと一緒のシーンが無かった(泣)」
 山田孝之「毎日休みたいんだ!」←激しく同意!ですが、主要キャラ二人のこの脱力ぶりも、ほんといい感じですね。
 まあたしかに、リリーさんに同情したくなるくらい、小松菜奈ちゃんはかわいかった。『モテキ』の長澤まさみも、腰が抜けそうになるくらいかわいかったけど、ほんと大根監督、女子撮る名人ですね。

 最後に、あちこちで言われているように、作画シーンのCGに音楽、そしてエンドロールもものすごく凝っていて感心した……まあ、興味があれば、ぜひとも見に行ってくださいということです。