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快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

王子様なんてぜんぜん必要ないシンデレラ 『靴を売るシンデレラ』(ジョーン・バウアー著 灰島かり訳) 

YA・青春小説 灰島かり 翻訳本

  先週の水曜、午後休とったので、映画『ブルックリン』でも見に行こうかなーと思い、10分前くらいにTOHOシネマズ梅田に行ったら、なんともう完売していた。きっと原作を先に読めってことなのかな… 

ブルックリン (エクス・リブリス)

ブルックリン (エクス・リブリス)

 

  で、そのままMARUZENジュンク堂茶屋町店に行くと、7階児童書コーナーのBOOKMARKの棚の横にある、児童文学作家・評論家のひこ田中さんによる「ひこ棚」では、「灰島かりの仕事」という棚ができていた。

 ちょうど前に書いた『チューリップ・タッチ』に続き、BOOKMARK1号で紹介されていた『靴を売るシンデレラ』を読んだところだったので、ラッキーとばかりに、ひこさんの書評「灰島かりの仕事」をもらって帰った。 

靴を売るシンデレラ (SUPER!YA)

靴を売るシンデレラ (SUPER!YA)

 

  で、この『靴を売るシンデレラ』は、BOOKMARK1号の訳者による紹介で

うんと笑わせてくれるし、まっとうに生きることの価値をしみじみと感じさせてくれるしで、これほど後味の良い本はめったにありません 

 と書かれているのが、まさにその通り!と思える、ほんとうに読んでよかったなと思える青春小説だった。恋愛要素がないので、いらんこと考えずに読むことができた。そして、恋愛要素がないのに、おもしろい青春小説を書くことってできるんだな、と感心した。


 いや、恋愛要素はないけれど、仕事要素と家族要素はたっぷりとつまっているので、大人が読んでもじゅうぶんおもしろく読めると思う。タイトルは「シンデレラ」とあるけれど、主人公のジェナはたいへん美しい妹を持つ、ぱっとしない(と自分では思っている)お姉さん。

身長百七十九センチのあたしだけど、心はぺちゃんこ。神様、どうしてあなたは思春期なんてものをおつくりになったんですか? と、神様をうらんでいた。

  と、さえない高校生活を送っていたジェナだったが、グラッドストン靴店でアルバイトをはじめ、自分に靴を売る才能があることに気づき、どんどん仕事にやりがいを感じるようになり、毎日が輝き出す。そして、ひょんなことからグラッドストン靴店の73歳の女社長の運転手をつとめることになり、強欲な社長の息子が社長を追い出して会社を乗っ取ろうとしていることを知り、それを阻止するための戦いがはじまる……


 が、ひこ田中さんの書評に、物語のこの中心ラインは「楽しく読めるようにするための方策」であり、「主軸は、アルコール中毒父親への複雑な思いをジョナが整理し、親子であると同時に、向かい合う人間として父親を受け入れ、拒絶するところにある」と書かれているように、グラッドストン靴店のストーリーが小説の縦軸として進むが、横軸には、アルコール中毒でジョナたち一家を苦しめる父親と、ジョナをあれだけかわいがってくれたのに、アルツハイマーで老人ホームに入り、ジョナを見ても思い出せなくなったおばあちゃんへのジョナの思いが編みこまれている。

あたしの中には、父さんを放り出して去っていきたい気持ちと、そんなことができないっていう気持ち、その両方がある。父さんのアル中は病気で、父さんは病気の被害者なんだと、あたしは必死に思おうとしてきた。罪を憎んで人を憎まずって言うし。遠くからならともかく、いざ顔を突き合わせてみれば、きれいごとなんか言ってはいられない。

 

でもいつか父さんは思いやりを取り戻して、あたしを愛してくれるようになると、あたしは信じずにはいられない。あたしには父さんの愛情が必要なんだもの。でもあんまりそう思っていると、そのうちに相手を実際以上のものだと思うようになってしまう。

  この引用からもわかるように、ジョナは父さんに深い愛情を感じており、父さんとの大切な思い出もある。けれど、父さんは母さんを苦しめ、妹を怖がらせる存在であり、「きれいごとなんか言ってはいられない」という事実に引き裂かれている。
「そのうちに相手を実際以上のものだと思うようになってしまう」とか、愛情の真実をついているなって感じますね。ちなみに、訳者あとがきによると、作者のジョーン・バウアーも父親の飲酒癖に苦しめられたそうです。


 この物語の縦軸と横軸を結びつける存在が、「グラッドストン靴店の栄えある本店の輝かしい店長で、世界一優秀な靴の販売員」であり、会社から追い出されつつある女社長を元気づけるハリー・ベンダーである。ハリーは自らもアルコール中毒から立ち直った人間であり、AA(アルコール中毒者更生会)で、患者たちの更生の手助けも行っていた。ハリーはジェナに

父さんのためにおまえさんができるのは、父さんを愛することと、父さんのために祈ること、そして父さんに自分たちの邪魔をさせないことだ。それから父さんの病気のせいで、これ以上家族が傷つくことのないようにしないといけない。 

と言い聞かせる。ジェナは「こんな人があたしの父さんだったらいいのに」と「苦しいほど」願うのだが……


 そのあとの展開はぜひ読んでください、という感じなのですが、この本の邦題は「シンデレラ」と書かれているけれど、結局最後まで王子様は出てこない。けど、最後まで読むと、訳者あとがきの「でも、(王子様なんて)いなくてぜんぜんオッケー! なぜなら、現代のシンデレラには、王子さまなど必要ではないからです」というのに深く納得する。あと、この本には未訳(たぶん)の続編もあるようなので、こちらも読んでみようかなと思いました。 

Best Foot Forward

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