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快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

<見えない敵>と戦う、子供の過酷な日々を描いたアンソロジー 『コドモノセカイ』(岸本佐知子編訳)

翻訳本 アンソロジー 岸本佐知子

 子供の頃は毎日がバラ色だった、なんて人いるのだろうか? 子供時代というと、幸福の象徴のように思われることが多いが、そんなことってあるのだろうか? 
 『コドモノセカイ』を編訳した岸本佐知子さんは、あとがきでこう書いている。 

コドモノセカイ

コドモノセカイ

 

町で子供を見かけると、私はいつも少し緊張する。たとえその子が笑ったり元気に走りまわったりしていても、それはうわべだけのことなのではないか。この小さい体の中では本当はいま嵐が吹き荒れているのではないかと想像してしまう。 

それなりに長く生きてきて、いろんな苦しいこと怖いこと恥ずかしいことはあったけれど、振り返ってみても、大人になってからより子供時代のほうがずっと難儀だった。ことに幼稚園は、まじり気なしの暗黒時代だった。 

 よくわかる。ひとりっこで育った私も、幼稚園でいきなり子供の群れに放りこまれて、なにがなんだかだったのをかすかに記憶している。
 
 そしてこの『コドモノセカイ』は、そんな子供の過酷な日々を描いた短編のアンソロジーである。過酷な日々といっても、内戦やテロが舞台になっているわけではないが――いやもちろん、そういった環境のもとにある子供たちは、ほんとうに過酷な日々を送っていると思うが、一見ありふれた日常で暮らす子供たちも、内面は<見えない敵>と戦っているということがよくわかる。
 
 <見えない敵>という言葉は、この本に収録されているジョイス・キャロル・オーツの『追跡』で書かれていて、まさに「コドモノセカイ」をよく表している。『追跡』は初期の短編らしいが、『アグリー・ガール』や『二つ、三ついいわすれたこと』などの、のちに作者が手がけるビターなヤングアダルト作品につながるものがある。というか、あとがきでもあるように、恐るべし多作のこの作者、なんでも手がけているようですが。多作過ぎて敬遠されているのかもしれないが、日本でももっと紹介されたらいいのにといつも思う。 

アグリーガール

アグリーガール

 

  

二つ、三ついいわすれたこと (STAMP BOOKS)

二つ、三ついいわすれたこと (STAMP BOOKS)

 

  あと、ほかの作品も読んだことのある作家というと、『ジェーン・オースティンの読書会』が日本でもよく知られているカレン・ジョイ・ファウラーの『王様ネズミ』は、しみじみとした余韻の残る、この本のなかで一番ストレートに胸に迫る話だった。最後の「二つのこと」には、涙が出る人もいるのではないだろうか。 

ジェイン・オースティンの読書会

ジェイン・オースティンの読書会

 

  その次のアリ・スミスの『子供』は、うってかわって”邪悪な子供”系の話で、これはまたおもしろかった。いまの時流を反映した、イギリスの作家らしい皮肉なユーモアだ。『変愛小説集』の『五月』の作家か……読んだはずだけど、すぐに思い出せない。ほかの作品も読んでみたくなった。

 いや、ここに収録されている作家、どれも「ほかの作品も読んでみたい」なのだ。先に書いたジョイス・キャロル・オーツですら、ノーベル賞候補と言われながら、日本でそんなに紹介されているわけではないので、やはり単著として紹介されるには、高いハードルがあるのだろう。

 
 あと、最近人気のエドガル・ケレットも二編収録されており、なんとなく難解系の作家なのかと勝手に思っていたけれど、二編ともまったくそんなことはなくて非常に読みやすく、かつ非常におもしろく、『突然ノックの音が』や『あの素晴らしき七年』も読んでみたくなった。しかし、ブタの貯金箱にお金を入れて、貯まったらかち割って取りだす……って、万国共通なんですね。 

突然ノックの音が (新潮クレスト・ブックス)

突然ノックの音が (新潮クレスト・ブックス)

 

  

あの素晴らしき七年 (新潮クレスト・ブックス)

あの素晴らしき七年 (新潮クレスト・ブックス)

 

  そのほかの作品もハズレなしで、短編なのでどれもすぐ読めるし、海外文学初心者(私含む)や、子供を描いた作品って、甘々な”いい話”なんじゃないの~と偏見を持ちがちな人(私含む)におすすめの作品集です。

 
 そういえば、訳者の岸本さんも審査員をつとめている、日本翻訳大賞の第三回推薦作も募集がはじまってますね。いま見たら、もう推薦文のいくつかがアップされていました。この推薦文、ほんと参考になるので楽しみにしている人も多いことでしょう。みんなすごい上手に紹介されてますね。今年はどの本にしようかな……