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快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

チェコ文学ってどんなの?? 『エウロペアナ』に『約束』、『火葬人』などの訳者 阿部賢一さんトークイベント

 さて今日は、京都のモンターグ・ブックセラーズで、翻訳者阿部賢一さんによるチェコ・東欧文学についてのトークイベントを見てきました。
 といっても、チェコ・東欧文学というと、アゴタ・クリストフの『悪童日記』を読んだことがあるくらいで、ほとんど知らないのですが、まあ第一回日本翻訳大賞に選ばれた『エウロペアナ』は一応読んだし……と思って参加してきました。 

エウロペアナ: 二〇世紀史概説 (エクス・リブリス)

エウロペアナ: 二〇世紀史概説 (エクス・リブリス)

 

  『エウロペアナ』は、一見ノンフィクションのような体裁で、二十世紀の歴史が俯瞰して綴られているが、けれどあくまでフィクションであり、虚実ないまぜというか、真面目な顔で冗談を言うような、人を食ったような内容に、いったいどこまでほんとうなのか、どこまで真剣なのかが捕えがたく、最初に読んだときは少々戸惑ったけれど、いま読み直してみると、なかなか興味深い。数年前と比べても、現実社会が虚実ないまぜの世界に近くなっているからかもしれない。 

共産主義者とナチは、物事の自然な摂理にもとづく世界を樹立する必要性を主張した。  

民主主義はすべてを蝕む根源であり、人びとが同性愛者、無政府主義者寄生虫懐疑主義者、個人主義者、アル中になっていくのを助長する。

 
 って、これを書いた時点(原著は2001年刊)では、ブラック・ジョークだったのかもしれないけれど、ジョークではない世の中にどんどんとなってきている。
 
 ちなみに、今日のお話によると、やはりこういう虚実ないまぜのスタイルのせいか、著者からは「”訳注”をつけてはいけない」というお達しがあったとのことでした。たしかに、この作品で”訳注”をつけて、ここはホントでここはジョークとか書いたら、台無しですしね。
 
 今日のトークは、最新作の『約束』をはじめ、おもに阿部さんが訳された本を紹介していく形で進み、チェコや東欧にたいする専門知識がまったくなくても楽しめました。

 

約束

約束

 

  この『約束』は、公式の紹介文によると 

ナチの命で鍵十字型邸宅を建て、戦後、秘密警察に追われる建築家。妹を失い、犯人を監禁する地下街を造る。衝撃のチェコノワール

  とのことで、阿部さんの推薦コメントも、「建築家の暗い過去。そして都市ブルノの暗い歴史が次々と披露される。そこに広がっていたのは、あまりにもグロテスクで、あまりにもブラックな世界だった」とのことで、難解な小説ではなく、ブラック・ユーモアあふれるノワール、とにかく「黒い」小説のようでおもしろそうだった。

 
 あと、紹介されていた本のなかでは、『火葬人』もすごく気になった。映画化もされたので、ご存じの方も多いかもしれませんが、これも公式の紹介文によると 

1930年代、ナチスドイツの影が迫るプラハ。葬儀場に勤める火葬人コップフルキングルは、愛する妻と娘、息子に囲まれ、平穏な日々を送っているが……

  で、推薦コメントによると、「ここまで不気味かつ滑稽な人物(加害者)を描いた小説は、本作をおいて、他にはないかもしれない」「恐怖と笑いが表裏一体となる稀有な作品」とのことで、つい買ってしまった。典型的な「思考停止してナチスの言うことを鵜呑みにする」火葬人コップフルキングルが、思いっきり戯画化して描かれているようだ。ヴォネガットの『母なる夜』みたいな話なんだろうか。映画もよくできているとのことです。 

火葬人 (東欧の想像力)

火葬人 (東欧の想像力)

 

  それにしても、なんでまたチェコ文学を専門にしようと決めたのだろう…?
 と、気になっていると、みんな考えることは同じなのか、質疑応答の時間でほかのお客さんが質問していました。


 案外「たまたま」とか「なんとなく」だったりするのかな……と予想していると、まったくそんなことはなく(すみません)、なんでも高校生のとき、ちょうどベルリンの壁ソ連が崩壊したりと、東欧が大激震している時代だったので興味をもちはじめ、そしてカレル・チャペックを読んだり、チェコ語の難解さを知ってかえって興味がかきたてられたときに、ちょうど東京外大でチェコ語の専攻がはじまったので、受験したとのことでした。
 なんて意識の高い高校生だったんだ!とおどろきました。私なんて、オールナイトニッポンとかのAMラジオを聞くのにいそがしい高校生で、世界情勢なんてこれっぽっちも考えたことがなかった、、、

 質疑応答の時間はほかにも、客席から翻訳者の吉田恭子さんも参加して、アメリカの大学での話をして頂いたりと結構盛りあがり、貴重な話をいろいろ聞くことができました。しかし、いつも書いているけど、読みたい本がどんどん積みあがっていく……200年くらい生きないといけないんじゃなかろうか。