快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

『タイニー・ファニチャー』『優雅な読書が最高の復讐である』山崎まどかトークイベント@出町座(2018/09/01)

 さて、先週の週末は、映画『タイニー・ファニチャー』の公開と、書評本『優雅な読書が最高の復讐である』の発売を記念した、山崎まどかさんのトークショー@出町座に行ってきました。 

優雅な読書が最高の復讐である 山崎まどか書評エッセイ集
 

  まずは映画の話からはじまり、といっても、『タイニー・ファニチャー』も『GIRLS』も見ていない私は、映画についてはなんとも言えないが……

けれど正直なところ、レナ・ダナムのことを「アーティスト一家に生まれたセレブなお嬢さん」とうっすら思っていたのだけど(もっとイヤな言い方をすると「ええ身分やな」的な)、レナ・ダナムが自分のダメなところも赤裸々に映画にして、かといって、よくある「女子の自虐ネタ」でもなく、「等身大の自分を受けいれる」ことを描いている、という点に興味をもった。
 同じように語られていた、グレタ・ガーウィグの『フランシス・ハ』はおもしろかったので、『タイニー・ファニチャー』もまずは見てみないと、と思った。

 で、映画の話で一番気になったのが、脚本家のディアブロ・コディーだ。ジェイソン・ライトマン監督と組んで、これまで『JUNO』や『ヤング≠アダルト』の脚本を書いている。

 前にも何度か書いたと思うけれど、『ヤング≠アダルト』は大好きな映画、というか、たまらなく痛々しい気持ちになる「好き好き大嫌い」(岡崎京子)な映画なのだけど、ディアブロ・コディー本人も魅力的で、かなりぶっ飛んだ人物のようだ。ブログがプロデューサーの目にとまって脚本を書きはじめたらしいが、ウィキペディアによると、ストリッパーやテレフォン・セックスのオペレーターなどもしていたとか。

 そして、ディアブロ・コディーがまたジェイソン・ライトマン監督と組み、再びシャーリーズ・セロンを主役に迎えたのが、いま公開中の『タリーと私の秘密の時間』。
 なんでも、シャーリーズ・セロンはふつうのおばさんを演じるため、体重を20キロ増やしたとか。たしか『モンスター』でも増量していたと思うが、やはり四十代になると、元に戻すのに一年以上かかったらしい……


 こちらの公式サイトの予告編で、そのたるんだ肉体を拝むことができるのだが、「これはヤバいやつや!」と思わず口に出してしまいそうになる仕上がりだ。なんならマッドマックスよりおそろしいかもしれない。女優魂ってすごい。ほんとシャーリーズ姐さんは、アラフォー女性にとっての星ですね。

tully.jp

 「仕事、家事、育児に追われて自分の時間のない女性たちへ」というのは、女性にとって普遍のテーマであり、よって陳腐なものになる危険もあると思うけれど、この面々ならきっとおもしろいはず。見に行かないと。

 このトークショーは二部構成になっていて、次は『優雅な読書が最高の復讐である』について。

 まずは、この本の装幀についての話を聞いた。山崎さんの大好きなイラストレーター、リアン・シャプトンにこの題字を書いてもらったらしい。たしかに素敵。
 ちなみに、山崎さんは電子書籍より「本」派らしいが、私は電子書籍があったらそっちでいいかなと思う派(なんせ場所がないので)だけど、そんな私でも「本」として持っておきたくなるつくりになっている。

 それから、『優雅な読書が最高の復讐である』に紹介されているもの、されていないものもまじえて、おすすめ本についてのトークに進んだ。ここで一番気になったのが、この本でも紹介されている、多岐川恭の『お茶とプール』。いや、まったく知らない作家だったので。 (『お茶とプール』は絶版なので、最近復刊されたらしい、直木賞受賞作『落ちる』を貼っておきます)

落ちる/黒い木の葉 (ちくま文庫)

落ちる/黒い木の葉 (ちくま文庫)

 

  『お茶とプール』は、1961年に発表されたミステリー小説、作者自身の言葉を借りると「サロン推理小説」であり、とある殺人事件から三角関係に陥る男女が描かれているらしい。
 三角関係といっても、どろどろの愛憎ものではなく、「割り切った男女が織りなすフランス的な、でももっと繊細でセンチメンタルで、だからこそセクシーな恋愛相関図」とのこと。ぜひとも読んでみたくなった。

 日本の作家では、あと小泉喜美子も話にのぼり、私は『女には向かない職業』『皮膚の下の頭蓋骨』などの翻訳と、ミステリマガジンに掲載されていた短編くらいしか読んでいないのだけど、『痛みかたみ妬み』に心ひかれた。だってタイトル最高やん。

 

  あとは、この本ではまだ紹介されていないけれど、いま大注目のケイト・ザンブレノの『ヒロインズ』。(通常の書店では置いていないので、下記サイトをご参照ください)

C.I.P. Books — 『ヒロインズ』 2018年7月刊行 彼女たちもこの道を、めちゃくちゃになりながら進んでいった...

 
 実はこの日、出町座に行く前に、誠光社に『ヒロインズ』を買いに行ったら、最後の一冊になっていた。出町座のCAVA BOOKSでも、このイベントが終わると完売したらしい。

 『ヒロインズ』のヒロインとはだれのことを指しているのか? それは、スコット・フィッツジェラルドの陰にいたゼルダであり、T・S・エリオットの陰にいたヴィヴィアンである。日本なら高村光太郎と智恵子が有名だろうか。

 これまで夫の付属物のようにみなされてきた女性たちについて、作家であるケイト・ザンブレノが深い思い入れとともに綴ったこの作品。エッセイといっていいのだろうけど、エッセイという言葉でくくるにはシリアスで痛々しい。またじっくり感想を書きたいと思います。


 あとCAVA BOOKSでは、山崎さんが選んだ「復讐本」フェアをやっていて、そのなかにパット・マガーの『四人の女』があり、そうだ! 『七人のおば』がすごくおもしろかったので(前にも書きましたが)これも読まないと!と思った。ヘレン・マクロイの『牧神の影』とあわせて、今後の読書会の課題本候補として考えます。 

四人の女【新版】 (創元推理文庫)

四人の女【新版】 (創元推理文庫)

 

  

牧神の影 (ちくま文庫)

牧神の影 (ちくま文庫)

 

 そのほか、質疑応答も含めて、読書についての一般的な話(本の整理や処分の仕方など)も興味深かったが、とくに印象深かったのは、「5分でいいから本を読む」だった。
 山崎さんも、スマホやなんだかんだで本を読む時間を確保するのに苦労しているとのことで(少し意外だったが、まあ仕事だけでじゅうぶんお忙しいでしょう)、それでも「5分でいいから本を読む」ように心がけているらしい。私も心に刻もうと思った。

 と、イベントの時間はそんなに長くなかったにもかかわらず、盛りだくさんの充実した内容だった。
 純粋に本を読む喜び、読みたかった本を買って帰ったときのわくわくする気持ちを思い出させてくれるこの本(『優雅な読書が最高の復讐である』)、そしてイベントでした。