快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

本の波にひきずりこまれていくー 『読んで、訳して、語り合う。 都甲幸治対談集』など

 さて、前から(勝手に)考えている『多崎つくる』問題ですが、都甲幸治さんの対談集『読んで、訳して、語り合う』では、フランス文学者であり、村上春樹の研究本も出している芳川泰久(以下、すべて敬称略)との対談で、シロとクロという女はもとから存在せず、灰田とのホモセクシュアルな関係を排除するために記憶を書きかえたという仮説をたてています。 

  たしかに、灰田とのホモセクシュアルな関係は、はっきりと暗示されている。
「多崎つくるが巡礼するんだったら、本当は灰田に会いに行くべきだと思った」というのは、それはそうだ。口の中で射精までしておいて(いや、こんなこと書きたくないですが、小説内のできごとなので)、なんか知らんうちに大学辞めてたって済ますとは、ほんと冷たい男だ。

 また、この本では、内田樹沼野充義との対談で、『1Q84』についても語っていますが、沼野さんがひっかかると語っている二つの点、「白痴的に見える美少女」ふかえりとのセックス、『海辺のカフカ』でのフェミニストの描かれ方

すごく揶揄的に扱われていますね。村上春樹のような聡明な人が、どうしてこういう女性差別的な書き方をするのかなというのは、僕は不思議なくらいです。

 には、私も完全同意です。それで『1Q84』は苦手やなーと思い(それだけではなく、サイボーグのような青豆にものれなかったが)ほとんど読み返していない。

 ところで、この対談でも、村上春樹イスラエルでのスピーチで語った「壁と卵」理論について語られているが、最近必要があって、この『アメリカ文学史』を手に取ったところ、ここでも論じられていた。 

アメリカ文学史

アメリカ文学史

 

  この本はタイトル通り、アメリカの文学史をメイフラワー号の移民からはじめて、ポー、メルヴィル、トウェイン、フィッツジェラルド、フォークナー……とくまなく丁寧に、きわめて読みやすい文章で網羅し、そして最後は、主人公がフィッツジェラルドを読みふける『ノルウェィの森』でしめくくられている。
 と書くと、なぜここで『ノルウェィの森』?と、唐突に思えるかもしれませんが、それが読んでみると納得するのです。


 この本については、ピンチョンの翻訳などでおなじみのアメリカ文学者、佐藤良明のブログでも書かれています。

なぜ筆者が最後に村上春樹に着地せずにいられなかったか、その仕組みも解る気がしませんか。最後についているのは、本書の「かならずしも最良ではない部分」なのではありません。ここは本書の「部分」ではなく、むしろフレーム・ストーリーにあたるところ。 

sgtsugar.seesaa.net 
 この本で検索するまで、ブログをされていたとは知らなかったけど、ほかのエントリもかなりおもしろそうですね。ここを読むと、この『アメリカ文学史』~村上春樹への流れがすんなり理解できるかと思います。


 で、都甲さんの対談本に戻ると、村上春樹の話題だけではなく、さまざまな相手と「世界文学」について語られていて、たいへんおもしろく読めた。都甲さんの師匠でもある柴田元幸との対談が、現在の日本における世界文学の総括にもなっているし、また作家の星野智幸との対談が非常に興味深かった。都甲さんによると

 星野さんの作品を読んでいて感じた、日本におけるマイノリティというのは一つは女性で、もう一つは動物なんです。『夜は終わらない』でも、フェレットのトリスタンが最初にいなくなりますが、めちゃくちゃ重要な役割を果たしている。

  とのことで、同じく動物が重要な役割を担っているクッツェーの『恥辱』との対比で考察されていて、『夜は終わらない』読まないと!とまたまた思った。 

夜は終わらない

夜は終わらない

 

  しかしほんと、読まないといけない本って、歳を取るごとに雪だるま式に増えていくが、人生の残り時間はどんどん減っていく問題、これってどうしたらいいんでしょう。