快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

ノーベル文学賞記念に? 秋の夜長の世界文学ブックガイド 『8歳から80歳までの世界文学入門』沼野充義編著

 さて、カズオ・イシグロノーベル文学賞受賞、たいへん盛りあがりましたね。
 日本でこんなに人気のある(数少ない)海外の作家が受賞するとは、たしかにめでたい。

 しかし実は、少し前に『忘れられた巨人』を読んだけれど、正直なところ、いまいち話に入りこむことができず、「やっぱり『日の名残り』が一番好きかな……」という感想を抱いてしまった。。 

忘れられた巨人 (ハヤカワepi文庫)

忘れられた巨人 (ハヤカワepi文庫)

 

 アーサー王伝説や老夫婦というモチーフに隔たりを感じたのだろうか。いや、おじいさんがおばあさんを「お姫様」と呼ぶところで、「なぬ?」と思ってしまったからだろうか。(原文は"princess"なのかな)

 といっても、理解できないとこともあったけれど、おもしろくなかったわけではなく、龍の吐息とか川を渡る場面などすごく印象に残っているので、もうすぐ文庫で出るようだし、また読み直さないと。


 けれど、もしこれからカズオ・イシグロの作品を読みはじめるという方には、ぜひとも『日の名残り』を読んでほしい。最後の場面、とくに劇的な事件がおきるわけではないのに、何度読んでも泣いてしまう。

 取り返しのつかない過去――こう言うと、過去とは取り返しのつかないものに決まっているのだから、なんだか奇妙な感じもするけれど、その寂寥感が胸にせまる小説です。 

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

 

  しかし、この受賞をめぐって、

「まるで日本人が獲ったかのように官邸が便乗してコメントを出しているけれど、カズオ・イシグロは英語ネイティヴの作家なんだから、日本人扱いするのはち・が・う・だ・ろ~」

という意見や、あるいは

「いや、ルーツである日本からの影響は本人も認めているのだから、あえて日本と切り離す必要はないだろう」

などの意見を目にしましたが、文学の世界ではすでに、「日本文学」「外国文学」とくっきり線を引いて考えるより、「世界文学」という考え方が一般的なよう。


 先日読んだ、沼野充義編著の『8歳から80歳までの世界文学入門』は、沼野さんと作家や批評家、翻訳家たちとの対談集の第四弾であり、このシリーズを通して「世界文学の海に漕ぎ出そうとする読者のための道案内となろうと目指して」いるとのこと。 

8歳から80歳までの世界文学入門

8歳から80歳までの世界文学入門

 

  いま角田光代が訳した『源氏物語』が話題になっているけれど、冒頭の池澤夏樹との対談で、ちょうどこの「日本文学全集」(池澤夏樹編集)が取りあげられている。

 ここでの対談によると、この「日本文学全集」は翻案とかアダプテーションではなく、あくまで「翻訳」らしい。ぶっ飛んでいると大絶賛されている、町田康の『宇治拾遺物語』も、やはり翻訳なのだ。
 となると、『源氏物語』もほんとうに大作にちがいない。以前、角田光代が翻訳した(いや、これは翻案に近いのだろうか)『曽根崎心中』を読んだら、話の筋もくっきりわかっておもしろかったので、『源氏物語』も読んでみたい。 

  

曾根崎心中

曾根崎心中

 

  あと、岸本佐知子との対談は、たまたま東京に用事があったため、生で聞くことができた(この本の対談は公開収録なのです)。
 文字になったのをあらためて読んでみると、どの話ももちろん興味深いけれど、そうそう、この日の話で一番おどろいたのは、岸本さんがワープロで翻訳しているということだった…と思い出した。

 あと、この対談のときは、もうすぐ『コドモノセカイ』というアンソロジーが出るという話だったけれど、前にも紹介しましたが、この『コドモノセカイ』、ほんとうにおもしろいのでおすすめです。 

コドモノセカイ

コドモノセカイ

 

 あと、この本に収められた対談では、青山南の絵本翻訳の話もよかった。
 青山さんというと、この対談でも話題になっている『オン・ザ・ロード』の新訳をはじめ、アメリカのサブカルチャーに詳しいイメージが強かったけれど、こんなに絵本翻訳を手掛けてられるとは知らなかった。 

オン・ザ・ロード (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-1)

オン・ザ・ロード (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-1)

 

  ご本人の談によると、文字が少ないのがいいなあと思って、絵本翻訳をはじめたとのことだけど(冗談かもしれんけど)、文字が少ないからこそ難しいと思うし、しかもナンセンス絵本だなんて難儀の極みのような気がする。 

これは本

これは本

 

  とくに沼野さんも紹介していた、『これは本』。本だからメールは送れない……本だから、本だから…(ヒロシです、みたいですが)読んでみたくなりました。

 でも、こうやって上にあげた本を見ると、ほんと世界文学という名にふさわしいブックガイドができあがりました。