快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

『毒婦たち 東電OLと木嶋佳苗のあいだ』 上野千鶴子×信田さよ子×北原みのり

 

毒婦たち: 東電OLと木嶋佳苗のあいだ

毒婦たち: 東電OLと木嶋佳苗のあいだ

 

  最近、平山亜佐子さんが毎日サイトで更新している、木嶋佳苗についての2ちゃんねるの記事のまとめを読みふけってしまう。(勝手にリンクはっていいかわからないので、興味があれば検索してください)

 それによると、彼女はあの殺人事件が発覚して、マスコミで大々的に報道される前から、ネット界隈では、セレブ気取りのイタい人としてウォッチングされる対象だったらしい。とはいえ、もちろんウォッチングしている人たちも、ヤフオクで落札したものをプレゼントしてもらったとか、買ってきたものを自分で作ったと主張したりとか、嘘でまみれたブログを書いているヘンな人と認識していただけで、まさか金をむしりとった相手を次々殺していたとは夢にも思っていなかったので、殺人容疑で報道されはじめたときは、ネット上でおおいに盛りあがっていた(不謹慎な言い方ですが)ようだ。

 そこでまた、上野千鶴子信田さよ子北原みのりの鼎談形式のこの本を読み直してみたが、どこでどうなったらこんな人間になるのかという因果関係は、やはりわからない。田舎の良家として、体裁を気にする両親に育てられたというのは、そのとおりなのだろうけど、そんな嘘ばかりのハリボテのような家庭なんて、いたるところにあるだろう。ただ、その「幻想が破れた荒野のような家庭生活」(信田氏)で育った彼女が、「そんなにも空虚な家族とか結婚とか家族とかいう記号に、こんなにもかんたんに人が操られるってことを学んでたわけでしょう」(上野氏)「その学習をビーフシチューで生かしてたんでしょうね」(信田氏)というのは、なるほど、と深く納得した。

 個人的に他人とつながりを得る機会がない孤独な男の人たちが、彼女がさしだすビーフシチュー(に象徴される家庭)にすがりついたのだろう。そして、ほんとうに驚くしかないのだが、一度ならず二度までも彼女の料理を口にして、睡眠薬で眠らされている人もいる。たいへん失礼なのは重々承知ですが、ペットでももう少し学習能力があるのでは……と思う。

 前回のphaさんの本のところでも書いたけれど、家族という絆が絶対的なものになっているこの社会を変える必要があるのだろう。

 北原氏は、木嶋佳苗上田美由紀鳥取の連続殺人事件の容疑者)は全くタイプの違う犯罪者だが、被害者の男性たちはみんな同じ顔に見えたと語る。「大多数が長男で、『あなたは何もしなくてよいわよ』ととてもとてもお母さんに大事にされただろう男たち」とのことで、それもなんとなくわかる気がした。
  思考停止してお母さん(的存在)の言うことを聞いて、世話をやいてもらうのが習い性になっているから、以前眠らされたという疑念を抱きつつも、出される料理をなにも言わず食べたり、強い口調で命令されたらさからうのも面倒で怖いので、言われるままにお金を出したりするんでしょう。そんなふうにお母さんや奥さんと一緒に暮らしている人、多そうですね。

 最後に、上野氏は「この半世紀、日本の男と女っていったいなんだったんだろうと索漠とした思いに駆られてしまう」と語っている。

 と、なんだか希望のないまま終わってしまいそうですが、無理やりにでも明るい見通しを書くと、夫や妻、あるいは父親や母親というような性役割、性分担を脱構築して、そういうジェンダーや家族という概念にとらわれない個を確立することによって、逆説的のようですが、他人とつながることができるようになるのではないのかな、と考える今日この頃です。って、言うのはたやすいですが、もちろんそんな簡単にできることではないのですが。