ミステリー
彼が注意深く箱を開けると、図書館が入れた目録ページがあり、そこには「F・スコット・フィッツジェラルド著『美しく呪われしもの』オリジナル原稿直筆」と書かれていた。 「やったぜ」とデニーが静かに言った。彼は同じ形をしたボックスを二つ、五つ目の抽…
さて、9月26日(土)に第1回オンライン読書会を開催しました。課題書は、今年の4月に出版された、ミネット・ウォルターズの新作『カメレオンの影』です。 カメレオンの影 (創元推理文庫) 作者:ミネット・ウォルターズ 発売日: 2020/04/10 メディア: Kindle版…
9月26日(土)の読書会(課題書『カメレオンの影』成川裕子訳)の予習のため、ミネット・ウォルターズのデビュー作『氷の家』と、2013年に発表された『A Dreadful Murder』(未訳)を再読しました。 氷の家 (創元推理文庫) 作者:ミネット ウォルターズ 発売…
暴動を煽動し、連邦政府職員――ジェイと似たりよったりの若造で、政府にやとわれた情報提供者――を殺害するための共同謀議を企てたとして、検察はジェイを告発した。検察は電話で三分半足らずのジェイとストークリー・カーマイケルとの会話のテープを押さえ、…
さて、2017年中国ミステリー最大の話題作『13・67』を読みました。 13・67 作者: 陳 浩基 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2017/09/30 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (10件) を見る 以前に高野秀行さんがツイッターで絶賛しており、これまで…
あのときああしてさえいれば、ちがう人生になっていたかも―― あのときああしてさえいれば、ちがうひとと寄り添っていたのかも―― なんて思ったりすることはあるでしょうか? いや、「やれたかも委員会」の話ではなく、佐藤正午の『鳩の撃退法』を読むまえに、…
というと、なんだか犬を食したようですが、そうではなく、以前紹介した『その犬の歩むところ』といった”犬本”をテーマにした読書会が名古屋で開かれたので、日帰りで参加してきました。 まずは、読書会の前にも犬を補給しようと、新栄のヤマザキマザック美術…
前回紹介した『殺人者の記憶法』、日本翻訳大賞にもノミネートされたようで、よかったよかった。 さて、スパイというと、いったいなにが頭に浮かぶでしょうか? やはり007? あるいは、キム・フィルビー? もしくは、ゾルゲ?(古いか) いやいや、マタ・ハ…
俺が最後に人を殺したのはもう二十五年前、いや二十六年前だったか、とにかくその頃だ。それまで俺を突き動かしていた力は、世間の人たちが考えているような殺人衝動や変態性欲などではない。もの足りなさだ。もっと完璧な快感があるはずだという希望。 いや…
わたしは殺人の隠蔽工作の手助けをしました。嘘の上塗りをする手助けもしました。自分の人生、宗教、職業が否定していることをしました。しかし、そのためにこそより幸福になれました。 先日紹介した、ボストン・テランの『その犬の歩むところ』がおもしろか…
映画というと、2017年最大に度肝を抜かれたのは『お嬢さん』だった。ヴィクトリア朝を舞台にしたサラ・ウォーターズの原作『荊の城』を、日本占領下の韓国の話に作りかえただけでもじゅうぶんインパクトがあるのに、まさに文字通り「一糸まとわぬ」女子たち…
年末に原作を読み、どうしても ↑ の疑問がわいてきたので、年明けも公開しているところを探したら、塚口サンサン劇場で期間限定上映をしていたので行ってきました。 塚口サンサン劇場に行くのははじめてでしたが、ミニシアターといっても、十三の第七藝術劇…
少し前、"Fire and Furyをはやく読まないと" といった書きこみをツイッターでいくつか見つけ、「いま人気の小説かな?」と思ってしまったりと、洋書情報からあっという間に乗り遅れてしまうのですが、今年こそは洋書もたくさん紹介したいものです。(しかも…
この女が問題にしてもらいたがっているほど、わたしはこの女を問題にしていない。そもそもこの女を全面的に信用してはいないのだ。女の美しい肉体には二つの人格が交互に現れるようだった。一つは感受性の強い、しかも無邪気な性格。もう一つは、かたくなで…
この若い犬をご覧。血のように赤い石のそばにじっと佇み、体を休めている。四肢をすっくと伸ばし、胸を張り、頭を高く掲げて。 さて、今年のベストといえるもう1冊の犬本は、2017年のミステリーランキングにもよく挙げられている『その犬の歩むところ』です…
演技するうえで最初に学ぶべき大切なことは、観客の心を読むことだ。どんな自分を期待されているのか察知して、そのとおりにする。 翻訳ミステリー大賞シンジケートのサイトでの、「シルヴィア・プラスの『ベル・ジャー』であり、ローレン・ワイズバーガーの…
『母がしんどい』『呪詛抜きダイエット』などを描いている、田房永子さんによる清水アキラ親子についての考察がおもしろかった。(リンク先のLove Piece Clubは18禁サイトかと思うので、念のためご注意を) www.lovepiececlub.com 「小学生みたい、それか昭…
問題はおれがすぐに女に惚れてしまい、商売を商売として見られなくなるということだ。 去年の翻訳ミステリー大賞および読者賞を受賞した『その雪と血を』。 その雪と血を (ハヤカワ・ミステリ) 作者: ジョーネスボ 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2016/1…
サミュエル・スペードの角張った長い顎の先端は尖ったV字をつくっている。…… 見てくれのいい金髪の悪魔といったところだ。 さて、今更ながらですが、ハードボイルドの金字塔『マルタの鷹』を読んでみました。 マルタの鷹〔改訳決定版〕 (ハヤカワ・ミステリ…
マーシャルの件を頼める相手はほかにもいますが、確実にやってもらいたいですから。マーシャルには生きていてもらいたくない。これは大事な問題です。 なんだか前回の続きのようですが、また黒原さんの訳書『アメリカン・ブラッド』を読みました。 アメリカ…
わたしにとって、春が別の意味を持っている時期があった。マイナー・リーグでキャッチャーをしていた四年間。気が遠くなるほど昔だ。当時のことについては、いまはもう深く考えない。あれから多くのときが流れ、多くの出来事が起こった。デトロイトで警察官…
モードは何よりも華奢だった。母ちゃんとは違う。母ちゃんとは全然違う。子供のようだ。まだ少し震えているモードがまばたきすると、睫毛が羽のようにあたしの咽喉をなでる。しばらくすると、震えは止まり、もう一度、睫毛が咽喉をこすって、静かになった。…
わたしはだれでもない人! あなたはだれ?あなたもだれでもない人なの? I’m Nobody! Who are you? という、エミリー・ディキンソンの詩のなかでもっとも有名なこのフレーズからはじまるこの物語。 誰でもない彼の秘密 作者: マイケラ・マッコール 出版社/メ…
「祖父が枕もとではじめて読んでくれた本は『少年キム』だ」シドはその本を知っているようなので、説明はしなかった。「そのあとはコンラッドとか、グレアム・グリーンとか、サマセット・モームとか」「『アシェンデン』ね」「そう、十二歳の誕生日には、ル…
「だが聞け」コールは言った。「口を開く前にな。わたしが言うことをしっかり頭に入れろ。だれの言いなりにもならないというきみのご託だが、あれはもう終わりだ。これからは新しい考え方をしてもらう。わたしと契約すれば、この先の二十年、きみはここにい…
少し前に書いたとおり、ハイスミスの『キャロル』を読み、恋をすることでたくましい大人の女性になる主人公の姿に感銘を受け、こんなことが成り立つのは、社会通念から解放された同性同士の恋愛であることも関係しているのだろうか、と考えた。 そしてもうす…
ニューヨークのブルックリンに住み、ロウワー・イーストサイドの書店で働くジョーのもとに、作家志望の女子学生ベックが、スポルディング・グレイとポーラ・フォックスの本を買いにやって来る。ベックこと「きみ」は、ポーラ・フォックスについてこう語る。 …
前回の『十日間の悲劇』で探偵を辞めると固く決心したエラリーだったが、地元ニューヨークで連続殺人事件が発生する。被害者たちには一見なんの共通項もなく、無差別殺人かとニューヨークの住民たちは震撼する。父親のリチャード警視から捜査に協力するよう…
村上春樹は、以前イスラエルのスピーチで、壁と卵という例をあげていたと思うが、やはり壁である組織に楯突くと、どうしても個人は卵にならざるを得ないのだろうか? たとえ世界的大作家でも、大人気アイドルでも。(ちょっと時事ネタですね) やはり組織は…
探偵として名を馳せ、作家としても活躍するエラリィ・クイーンは、十年前、ナチスに占領される前のパリで知り合った、旧友のハワードとニューヨークで久々に会い、悩みを打ち明けられる。なんでも、最近記憶がなくなることが続いているのだと言う。記憶がな…