快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

2016-01-01から1年間の記事一覧

あたらしい年にむけて―― 『女子をこじらせて』(雨宮まみ)

2016年、一番おどろいたことと言えば、雨宮まみさんの訃報だった。 『女子をこじらせて』が単行本で出て、話題になっていたときにさっそく読んでみて、同世代のせいか、ロッキン・オン社の出版物を(真剣に…)読んでいたとか、通ってきたものが共通していて…

あたらしい年に向けて、あたらしい働きかた――『わたしらしく働く!』 (服部みれい)

さて、なんだかんだしているうちに、すっかり年末。『シン・ゴジラ』も『君の名は。』も『この世界の片隅に』も、そして、”逃げ恥”の最終回も録画しているものの、まだ見ておらず、2016年の人気作にまったくついていけませんが、とりあえず今年印象に残った…

”真実をそっくり語れ、だが斜めから語れ” 『誰でもない彼の秘密』(マイケラ・マッコール 小林浩子訳)

わたしはだれでもない人! あなたはだれ?あなたもだれでもない人なの? I’m Nobody! Who are you? という、エミリー・ディキンソンの詩のなかでもっとも有名なこのフレーズからはじまるこの物語。 誰でもない彼の秘密 作者: マイケラ・マッコール 出版社/メ…

ペットのワニ、そして謎の雄鶏との痛快で切ない珍道中 『アルバート、故郷に帰る』(ホーマー・ヒッカム 金原瑞人・西田佳子訳)

母からアルバートの話をきくまで、うちの両親がそんな旅をしていたとは全然知らなかった。アルバートを遠い故郷まで連れていくなんて、危険だし、そうそうできることじゃない。知らないことばかりだった。両親がどうして結婚したのかも、両親がどんな経験を…

破綻の予兆に満ちた世界から生じるノスタルジー 『歩道橋の魔術師』 (呉明益 天野健太郎訳)

猫はまるで白い影のように、机の上から唐さんを見ていた。唐さんはギターのピックみたいな平らなチャコペンで、生地に線を描いていた。唐さんはときどき手を休め、猫を見た。猫もまた唐さんを見た。なんだか眼差しだけで会話をしているようだった。唐さんが…

愛おしさがつまった、素敵かわいいアンソロジー 高原英理編『ファイン/キュート 素敵かわいい作品選』

高原英理の『不機嫌な姫とブルックナー団』がおもしろいと最近あちこちで耳にして、読んでみたいなと思っていたところ、こちらのアンソロジー、高原英理編『ファイン/キュート 素敵かわいい作品選』を見つけて、さっそく読んでみました。 不機嫌な姫とブル…

奇人変人大集合のハイテンションなドタバタ劇 『迷惑なんだけど?』(カール・ハイアセン 田村義進訳)

正直言って、この仕事は引きうけなきゃよかったと思ってるよ。いちどきにこんなに多くの奇人変人に出くわしたことは、生まれてこの方一度もない。 と、浮気夫と愛人の「決定的瞬間」(「わたしは挿入シーンが見たいの。それこそ決定的な証拠よ」)を撮影する…

はじめての海外文学ビギナー篇~まずは猫よりはじめよ~『猫語のノート』(ポール・ギャリコ 灰島かり訳)

前回も書いた「はじめての海外文学」ですが、猫好きへのビギナー篇として外せないのは、これでしょう。 猫語の教科書 (ちくま文庫) 作者: ポールギャリコ,Paul Gallico,灰島かり 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 1998/12 メディア: 文庫 購入: 11人 クリ…

はじめての海外文学――そしてジェイムズ・エルロイ 『獣どもの街』(田村義進訳)

読書ブログをやっておきながら、なかなか落ち着いて本を読めない事態になってしまった。 原因はこの子↓ 会社の人が保護した子猫を引き取ることにしたのです。 まだ生まれて二か月も経っていないため、長く留守番させるのも不安で、ここ数日はなる早で家に帰…

困ったおじさん大集合 『僕の名はアラム』(ウィリアム・サローヤン 柴田元幸訳)

「困ったおじさんね」というのは、たしか寅さんの妹さくら一家の口癖だったような……なんでこんなことを思い出したのかというと、このウィリアム・サローヤンの『僕の名はアラム』には、「史上ほぼ最低の農場主である」メリクおじさん(『ザクロの木』)や、…

結婚にまつわる洞察が綴られる――現代の『高慢と偏見』? 橋本治 『結婚』

橋本治の『結婚』は、28歳の主人公倫子が、同僚の27歳の花蓮に「卵子劣化」の話を切り出すところからはじまる。 結婚 作者: 橋本治 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2014/07/04 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (7件) を見る いや、ここ最近政府があ…

ブッカー賞について私の知っている、ニ、三の事柄

さて、今年度のブッカー賞が発表されました。アメリカ人作家ポール・ビーティーの『The Sellout』 で、初のアメリカ人作家が受賞とのことで話題になりました。まあ、少し前まではイギリス・アイルランド作家のみが対象だったようなのですが。(しかし、クッ…

”闇の奥”のアマゾンで、ひとりの女性が生まれ変わる 『密林の夢』(アン・パチェット 芹澤恵訳)

アンダーズは結婚の申し込みでもするように、熱っぽくマリーナの手を取った。「いいかい、子どもを生む時期をいくらでも好きなだけ先送りできるんだよ。踏ん切りがつくまで、納得できるまで迷っていられるんだよ。四十五歳くらいが限界じゃないか、なんて思…

虫料理か…『SWITCHインタビュー達人達 枝元なほみ×高野秀行』~『異国トーキョー漂流記』

週末に東京に行き、そして帰ってきて、録画しておいたNHK『SWITCHインタビュー達人達 枝元なほみ×高野秀行』を見た。すると、時折高野さんのエッセイにも登場するおなじみのミャンマー料理店からはじまり、「しまった!東京で行けばよかった!」と…

国家を股にかけない落ちこぼれスパイの奮闘記 『窓際のスパイ』 (ミック・ヘロン 田村義進訳)

「祖父が枕もとではじめて読んでくれた本は『少年キム』だ」シドはその本を知っているようなので、説明はしなかった。「そのあとはコンラッドとか、グレアム・グリーンとか、サマセット・モームとか」「『アシェンデン』ね」「そう、十二歳の誕生日には、ル…

またまた最新号『暮しの手帖 84号』を買いました

さて、「とと姉ちゃん」も終わりましたが、『暮しの手帖』の最新号84号を買いました。 暮しの手帖 4世紀84号 出版社/メーカー: 暮しの手帖社 発売日: 2016/09/24 メディア: 雑誌 この商品を含むブログを見る 前号に続いて、高山なおみさんの引っ越しの記事が…

AND SO IT GOES――  『人生なんて、そんなものさ カート・ヴォネガットの生涯』(チャールズ・J・シールズ 金原瑞人ほか訳)

カート・ヴォネガットの伝記『人生なんて、そんなものさ カート・ヴォネガットの生涯』を読んだ。 人生なんて、そんなものさ―カート・ヴォネガットの生涯 作者: チャールズ・J.シールズ,Charles J. Shields,金原瑞人,桑原洋子,野沢佳織 出版社/メーカー: 柏…

「ほんとうのこと」が知りたいだけなのだ 辺境中毒!(高野秀行)

さて、前回紹介した内澤旬子さんといえば、高野秀行さんの『辺境中毒!』で対談しています。 辺境中毒! (集英社文庫) 作者: 高野秀行 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2011/10/20 メディア: 文庫 クリック: 5回 この商品を含むブログ (7件) を見る その対談…

捨て暮らし、そして離島への移住へ 『捨てる女』 『漂うままに島に着き』(内澤旬子)

こんなごみごみしたところで、せかせか暮らすのは止めて、田舎にでも行ってゆっくりしたいな……とふと考える瞬間がある。 いや、まあ誰にでもあると思うのですが、私の場合は、車の運転もできないし、体力も自信がないし、とにかく虫が部屋のなかに入ってくる…

女たち、そして書くことへの愛と忠誠 『詩人と女たち』(チャールズ・ブコウスキー 中川五郎訳)

さて、ブコウスキー・シリーズ、今度は代表作と言っていい『詩人と女たち』を読みました。 詩人と女たち (河出文庫) 作者: チャールズブコウスキー,Charles Bukowski,中川五郎 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 1996/10 メディア: 文庫 クリック: 21回…

障害を持つ少年が主人公か……と引いてしまう人にぜひ 『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(マーク・ハッドン 小尾芙佐訳)

BOOKMARKで紹介されていたときから気になっていた、『夜中に犬に起こった奇妙な事件』が、読書会の課題本になったので読んでみた。BOOKMARKが創刊号で「これがお勧め、いま最強の17冊」として紹介していただけに、すごくおもしろく、また、あらゆる面から考…

恋愛→セックス→出産のグロテスクさ 『殺人出産』(村田沙耶香)

「私たちの世代がまだ子供のころ、私たちは間違った世界の中で暮らしていましたよね。殺人は悪とされていた。殺意を持つことすら、狂気のように、ヒステリックに扱われていた。昔の私は、自分のことを責めてばかりいました。何度命を絶とうとしたか知れませ…

愛について真面目に考える時間 『あとは死ぬだけ』 (中村うさぎ)

前回『結婚失格』について書いたあと、検索してみたところ、この『結婚失格』発売記念イベントで、町山智浩が枡野浩一に行った公開説教がレポされているエントリを見つけた。 d.hatena.ne.jp 町山さんの一言一言、まさにその通り!とひれ伏したくなるが、と…

成長するってことーー 『結婚失格』(枡野浩一) そしてサニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』

私もすこしは大人になったのかなと、あらためて『結婚失格』を読んで感じた。 結婚失格 (講談社文庫) 作者: 枡野浩一 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2010/07/15 メディア: 文庫 購入: 23人 クリック: 767回 この商品を含むブログ (33件) を見る というの…

いまさらレポート 2016年5月22日スティーヴン・ミルハウザー&柴田元幸朗読会@東京大学

そういえば、柴田元幸さんというと、いまさらですが、5月22日の朗読会についてもメモしておこう。 翻訳百景のイベントで東京に行った際、次の日に東京大学でスティーヴン・ミルハウザーと柴田さんの朗読会があったので行ってきました。 東大に入るのはまった…

文学から遠く離れようとしてもーー 『パルプ』 チャールズ・ブコウスキー 柴田元幸訳

「さて、このいわゆるセリーヌとかいう奴について、お聞かせいただきましょう。本屋がどうとか、おっしゃってましたよね」「ええ、レッドの店に入りびたって、立ち読みしたり……フォークナーとかカーソン・マッカラーズとかのことを問い合わせたりしてるのよ…

岡崎京子展~戦場のガールズ・ライフ~@伊丹市立美術館に行きました

さて、伊丹市立美術館へ、「岡崎京子展~戦場のガールズ・ライフ」を見てきました。実は去年の世田谷文学館にも行ったのですが、関西で開催されるなら当然行かないと。 館全体で岡崎京子ムードになっていた世田谷文学館とくらべると、圧倒される感じは少なく…

ブコウスキー流青春放浪記 『勝手に生きろ!』 チャールズ・ブコウスキー著 都甲幸治訳

親父が毎晩家に帰ってきてから、おふくろを相手にえんえんと仕事の話をし続けたことを思い出した。親父が玄関のドアを開けると同時にいきなり仕事の話は始まり、夕食の最中だろうがなんだろうが、八時に親父が寝室から「電気を消せ」と叫ぶまで続いた。親父…

真夏の本屋めぐり 阪神夏の古書ノ市に行って、ジュンク堂堂島本店で『戦地の図書館』フェアを見ました

うちの職場はお盆なんて関係ないので、夏休みもなく働いてるのですが、さすがに疲れた。 なので、昨日は会社帰りにリフレッシュしようと、阪神百貨店の古書ノ市に行ってみました。前から行ってみたいと思っていた神戸の1003や、BOOKMARKを関西でいち早く…

戦火をくぐり抜けた夫婦がたどりついた場所とは?? 舞台『ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン』(松尾スズキ)を見に行きました

さて、今日は松尾スズキ作の舞台「ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン」(@森ノ宮ピロティホール)を見に行ってきました。 www.bunkamura.co.jp 阿部サダヲ演じるベストセラー作家の永野(日芸卒)が、人質にとられたジャーナリストの先輩(吹越満)を助ける…