快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

和書

たとえ「正しくない人」であっても糾弾せず、排除しない――『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ)

さて、今回の800字書評講座の課題は、ベストセラーとなって世間を席巻した、ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』だった。 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー(新潮文庫) 作者:ブレイディみかこ 新潮社 Amazon これも…

懐かしのクジラのノルウェー風 日本の給食史を総括した『給食の歴史』(藤原 辰史著)

給食というと、何を思い出すでしょうか? 年配の人ならば、悪評高い脱脂粉乳がまっさきに頭に浮かぶかもしれません。若い人ならば、郷土色豊かなごはん食かもしれません。給食の時間が楽しみだった人、あるいは苦手だった人、どちらにせよ、給食は個人的な思…

歴史小説/時代小説の難しさ パンデミックに襲われた奈良の都を描いた『火定』(澤田瞳子)

間が空いてしまいましたが、先月は人生初の入院&手術を受ける羽目になりました。その顛末は、こちらの note.com に書いてあります。 さて、800字書評の先月の課題書は、澤田瞳子『火定』でした。 奈良の都に天然痘が広がるさまを描いたパンデミック小説です…

地球も、私たちも、資本主義に略奪されている――斎藤幸平『人新生の資本主義』

さて、今回の800字書評の課題は、斎藤幸平『人新生の資本主義』だった。 2020年に発売されたこの本は、6万部を超えるベストセラーとなり、新書大賞も受賞したのでご存じの方も多いと思う。 人新世の「資本論」 (集英社新書) 作者:斎藤幸平 集英社 Amazon し…

人間は差別心を手放すことができるのだろうか? 1964年に人種差別を描いた、有吉佐和子『非色』

有吉佐和子『非色』を読みました。 非色 (河出文庫) 作者:有吉佐和子 発売日: 2021/02/19 メディア: Kindle版 1964年に発表されたこの小説は、黒人差別を扱っていることが問題視され、絶版になっていたらしい。しかし、Black lives matter運動の盛りあがりに…

三十年経ったいま、不思議な軽やかさを持ったフェミニズム小説として読めた『後宮小説』(酒見賢一)

先月の800字書評の課題本は、酒見賢一『後宮小説』でした。 後宮小説(新潮文庫) 作者:酒見 賢一 発売日: 2014/08/01 メディア: Kindle版 『後宮小説』は、1989年に日本ファンタジーノベル大賞第一回受賞作品に選ばれて大きな話題となり、のちに『雲のよう…

「人種」というありもしないもので選別される命 梁英聖『レイシズムとは何か』

さて、800字書評講座の今月の課題書は、梁英聖『レイシズムとは何か』でした。 レイシズムとは何か (ちくま新書) 作者:梁英聖 発売日: 2020/11/20 メディア: Kindle版 『レイシズムとは何か』では、まず冒頭の章で「レイシズム」の歴史を振り返り、近代以前…

【800字書評に挑戦】「健康」な恋愛への「不健康」なためらい――尾崎翠「第七官界彷徨」

さて、先日とある講座を受けたところ、800字の書評を書くという課題を出されました。 800字というと、400字詰め原稿用紙2枚。短いので、なんとかなるかな……と思いきや、短い字数であらすじをまとめ、さらに考察も入れるとはなんとも難しいとつくづく感じた…

2020年心に残った本(『ボッティチェリ 疫病の時代の寓話』『ワイルドサイドをほっつき歩け』『ディスタンクシオン』)

先日、翻訳ミステリー読書会のスピンオフとして雑談会を開き、「今年心に残った本」について語り合いました。いつものように思いつきでテーマを発表してから、なんやろ~と考えてみたのですが、案外迷うことなくすんなりと下の3冊に決まりました。 1:バリ…

ギムレットには早すぎる? 虚構の仕掛けが施された短編集『一人称単数』(村上春樹)

村上春樹の最新短編集『一人称単数』の読書会に参加しました。光文社古典新訳文庫の元編集長である駒井稔さんを迎えて開催され、参加者も春樹マニアと言えるくらいに読みこまれている方が多く、たいへん刺激的な会でした。 一人称単数 (文春e-book) 作者:村…

勝手に考えた「コロナブルーを乗り越える本」『東京日記』(内田百閒)『だいたい四国八十八ヶ所』(宮田珠己)『雨天炎天』(村上春樹)

「コロナブルーを乗り越える本」という集英社インターナショナルのサイトで、さまざまな作家や翻訳家の方たちが、「こんな時代だからこそ読みたい」本を紹介していて、これがかなり読みごたえがある。 www.shueisha-int.co.jp 紹介されている本がどれもおも…

だいじょうぶ?と聞かれたら、どう答える? 『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(大前粟生 著)

麦戸ちゃんはさいきん学校にこない。麦戸ちゃんの家は大学のすぐ近くにあるから、七森は二限終わりに寄ってみようかなと思ったけど、きのう彼女ができたばかりだったし、共通の友だちでも女の子と家で会うのを白城は嫌がるかもしれないと(まだそういうこと…

当事者っていったい誰のこと? 『ほんのちょっと当事者』青山ゆみこさんトークイベント

わたしは社会の一員として生きている。というよりも、社会とはわたしが生きることでつくられている。わたしたちが「生きる」ということは、「なにかの当事者となる」ことなのではないだろうか。 さて、昨日は隆祥館書店で行われた、青山ゆみこさんの『ほんの…

こぼれたミルク、だめになったスープ、恋人は共犯者…どう訳す?『この英語、訳せない!』(越前敏弥)など

山下達郎の「サンデーソングブック」を聞いていたら、アメリカのファンク/ソウルグループの100 PROOFによる「TOO MANY COOKS (SPOIL THE SOUP)」がかかった。ミック・ジャガーもカバーしている(プロデューサーはジョン・レノン)名曲で、要は「オレの女に…

「不逞」に戦い続けること 『何が私をこうさせたか』(金子文子著)『三つ編み』(レティシア・コロンバニ 著 齋藤可津子訳)

文体については、あくまでも単純に、率直に、そして、しゃちこ張らせぬようなるべく砕いて欲しい。ある特殊な場合を除く外は、余り美しい詩的な文句を用いたり、あくどい技巧を弄したり廻り遠い形容詞を冠せたりすることを、出来るだけ避けて欲しい。 前回の…

「私自身」であるために戦った女たち 『女たちのテロル』(ブレイディみかこ 著)

「僕はつまらんものです。僕はただ、死にきれずに生きているようなものです」朴は岩のようにひんやりした、しかし厚みのある声で言った。私たちは同類だと文子は思った。死にきれなかった犬が二匹。我ら、犬ころズ。相手に不足はない。こうして二人のアナキ…

「中立・客観的」って可能なのか?『情報生産者になる』(上野千鶴子)から『大学教授のように小説を読む方法』『パームサンデー』まで

すべての問いはわたし自身の問いであり、わたしの問いはあなたの問いではないからです。そして人間には、他人の問いを解くことはついにはできないからです。 なんとなく上野千鶴子の『情報生産者になる』を手に取り――なんとなく、というのは、私は研究者でも…

コミュニケーションとディスコミュニケーションの狭間の祝祭 「こちらあみ子」「ピクニック」(今村夏子)

十五歳で引っ越しをする日まで、あみ子は田中家の長女として育てられた。父と母、それと不良の兄がひとりいた。 小学生だったころ、母は自宅で書道教室を開いていた。もとは母の母が寝起きしていたという縁側に面する八畳ほどの和室に赤いじゅうたんを敷きつ…

初心者のための田辺聖子~ハイ・ミス小説のオススメ(中級編)~『愛してよろしいですか?』『夢のように日は過ぎて』『薔薇の雨』

それにしても、ハイ・ミスにとって 「……たら」 というのは禁句なのであることを、知らないのかなあ。 私と小田美枝子がしゃべっているとき、どちらかが「……たら」というコトバを使うと、 「タラは北海道!」 と叫んで、次の言葉を封じてしまう、約束ごとがあ…

初心者のための田辺聖子~入門編~ 『ジョゼと虎と魚たち』『言い寄る』『私的生活』『苺をつぶしながら』

「一ばん怖いものを見たかったんや。好きな男の人が出来たときに。怖うてもすがれるから。……そんな人が出来たら虎見たい、と思てた。もし出来へんかったら一生、ほんものの虎は見られへん、それでもしょうない、思うてたんや」 田辺聖子さんが亡くなったので…

誰もがみんな自分の人生の当事者――『図書室』(岸政彦 著)ほか『新潮』(2018年12月号)

どんな猫でもいいから、一匹の猫を(あるいは二匹の猫を)徹底的に幸せにしてあげたいなと思う。日当たりの良い場所に小さな寝床をつくって、そこに可愛らしい柄の、柔らかい毛布を敷いてあげたい。猫は自分が、ありえないほど幸せであることを自分でも気づ…

これで悩みも即解決!?なブックガイド『文学効能事典 あなたの悩みに効く小説』(エラ・バーサド・スーザン・エルダキン 著 金原瑞人・石田文子 訳)

それにしても『文学効能事典』を読むのは楽しい。 文学効能事典 あなたの悩みに効く小説 作者: エラ・バーサド,スーザン・エルダキン,金原瑞人,石田文子 出版社/メーカー: フィルムアート社 発売日: 2017/06/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件)…

来たるべき新世界へ――女と女の物語~百合(かもしれない)ブックガイド

先日『元年春之祭』を課題本にして翻訳ミステリー読書会を開催し、そのレポートがこちらのサイトに掲載されました。 元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ) 作者: 陸秋槎,稲村文吾 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2018/09/05 メディア: 新書 この商品を含むブ…

”働く女”が心に刻むべき秘訣とは 『働く女子と罪悪感』(浜田敬子)出版記念トークイベント 

3月24日に隆祥館書店で行われた、『AERA』元編集長であり、現Business Insider Japan統括編集長の浜田敬子さんによる、『働く女子と罪悪感』出版記念トークイベントに参加してきました。 働く女子と罪悪感: 「こうあるべき」から離れたら、もっと仕事は楽し…

おおさか東線開通の今日、あらためて福知山線脱線事故を振り返る 『軌道』(松本 創 著)

福知山線脱線事故の日のことは、いまでもよく覚えている。2005年4月25日、私もJRに乗って神戸に向かおうとしていたからだ。 その日は神戸国際会館でのスピッツのライブに行こうと、有休をとっていた。午前中からテレビを見ていると、突然画面が切り替わり、…

ヴァージニア・ウルフの言葉を思い出した 『対岸の彼女』(角田光代 著)

さて、本日(3月9日)の『元年春之祭』読書会に備えて、「女と女の小説」に浸っていた今日この頃でした。 このブログでも何度か引用している、松浦理英子の『ナチュラル・ウーマン』から、サラ・ウォーターズの『半身』に、ジャネット・ウィンターソンの『オ…

最近読んだ本(2019年1月)『作者を出せ!』(デイヴィッド・ロッジ 高儀進訳)『「女子」という呪い』(雨宮処凛)『ポップスで精神医学』

さて、最近読んだ本をさくっと数点紹介したいと思います。 (いや、ここ最近、1つのトピックで長々書いてしまいがちなので、そんなに長く書いたら、もともとその話題に興味あるひと以外誰も読まないぞー!というのは承知しているので、今年は短い紹介記事も…

消えることのない光を求めて 『ヨーロッパ・コーリング』『いまモリッシーを聴くということ』(ブレイディみかこ)

さて、前回の『アメリカ死にかけ物語』で、「ヨーロッパも同じか、あるいはもっと深刻」と書いたけれど、そのヨーロッパを詳細に伝えているのが、ブレイディみかこの『ヨーロッパ・コーリング』だ。 ヨーロッパ・コーリング――地べたからのポリティカル・レポ…

「普通」と「普通じゃないもの」の線引きとは? 『コンビニ人間』(村田沙耶香)

さて、遅ればせながら、文庫になった『コンビニ人間』を読みました。 コンビニ人間 (文春文庫) 作者: 村田沙耶香 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2018/09/04 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (3件) を見る 主人公の古倉恵子36歳は、「少し奇妙がら…

英国魂でしぶとくタフに生き延びよう 『花の命はノー・フューチャー』『This is JAPAN』(ブレイディみかこ 著)

みなさんご存知のとおり、ここ最近、地震や大雨、そして台風のくり返しで、訃報も相次ぎました。(樹木希林も『万引き家族』見たところなのでおどろいたが、やはり子どもの頃から読んでいた、さくらももこの衝撃が大きかった……) ほんと人生いつなにが起きる…