快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

2022-01-01から1年間の記事一覧

Noteに移行しました

さて、タイトルのとおり、これからは note に読書記録をつけていこうと思いますので、これまでこのブログを読んでくれていたみなさま(感謝)、たまたま検索で流れついたみなさま、これからはnoteの方を見ていただければ有難いです。 note.com いまのところ…

愛国少女から小説家田辺聖子が生まれるまでの記録――『田辺聖子 十八歳の日の記録』『私の大阪八景』

8月の書評講座の課題書は、『田辺聖子 十八歳の日の記録』でした。 田辺聖子 十八歳の日の記録 (文春e-book) 作者:田辺 聖子 文藝春秋 Amazon 言うまでもなく、日記とは通常誰にも見せないという前提で書くものであり、この『十八歳の日の記録』も作者の死…

第32回 Bunkamuraドゥマゴ文学賞 受賞作 木村紅美『あなたに安全な人』ー不安の正体はなんだろう?

ちょうど数か月前の書評講座の課題書が、木村紅美『あなたに安全な人』だった。コロナが全国に広まりつつあった2020年を舞台とし、まだコロナ患者がほとんど発生していない地方の町で、正体のわからない病気に対するぼんやりとした不安、隣の誰かがウイルス…

「かけがえのない」ものはどこにあるのだろうか? 芥川賞候補の話題作――年森瑛『N/A』

先月の書評講座の課題は、芥川賞候補にもなった話題作、年森瑛『N/A』でした。 N/A (文春e-book) 作者:年森 瑛 文藝春秋 Amazon まずシンプルな感想として……おもしろかった! 帯や評判から想像する、こういう話なのかな? というラベリングをことごとく否定…

女たちは、「しあわせ」になれたのだろうか? 永井みみ『ミシンと金魚』

さて、先月の書評講座の課題は、永井みみ『ミシンと金魚』でした。 ミシンと金魚 (集英社文芸単行本) 作者:永井みみ 集英社 Amazon 去年すばる文学賞を受賞したこの小説は、認知症の老人によるひとり語りという形式が大きな話題となった。作者が実際に介護ヘ…

入管をめぐる問題をやさしい語り口で描くことに成功した小説――中島京子『やさしい猫』

先月の書評講座の課題は、中島京子『やさしい猫』でした。 やさしい猫 作者:中島京子 中央公論新社 Amazon ここ数年、社会問題となっている入管制度を取りあげた小説です。スリランカ国籍のウィシュマさんが名古屋の入管で亡くなった事件も、記憶に新しいの…

5/29 大阪翻訳ミステリー読書会(オンライン開催・課題書『死の接吻』)& 6/12 『長い別れ』トークイベント(YouTube配信)のお知らせ

さて、翻訳ミステリーシンジケートのサイト、および翻訳ミステリー読者賞のサイトでも告知していますが、5月29日にアイラ・レヴィン『死の接吻』(中田耕治訳)を課題書として、大阪翻訳ミステリー読書会をオンラインで開催いたします。 hm-dokushokai.ameba…

2021年翻訳ミステリー読者賞、および『ヒロシマ・ボーイ』(平原直美 芹澤恵訳)の紹介のつづき

さて前回、翻訳ミステリー読者賞の発表会を告知しましたが、無事終了いたしました。ホリー・ジャクソン『自由研究には向かない殺人』(服部京子訳 創元推理文庫)が2021年の翻訳ミステリー読者賞に輝きました!!!こちらのサイトに、2021年度のランキングを…

2021年度翻訳ミステリー読者賞 結果発表イベント YouTube生配信のお知らせ(4/16(土)21時~)

さて、私は翻訳ミステリー大阪読書会の世話人をしているのですが、2021年度翻訳ミステリー読者賞の発表イベントが開催されます。 ◎2022年4月16日(土)21時~ YouTubeから生配信(1時間半程度)こちらのリンクです:https://youtu.be/4jPrbG6909A 全国各地の…

女性兵士とフェミニズムの困難な関係 スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』(三浦みどり訳)

この不穏な状況を予期したように、先月の書評講座(1000字)の課題書は、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』(三浦みどり訳)でした。 戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫) 作者:スヴェトラーナ アレクシエーヴィチ 岩波書…

動物とは結びつくことができるのに、人間を愛することは難しい駄目な人間たち――R. L. Maize『Other People's Pets』

猫や犬たちが感じている痛みや苦しみが自分にも伝わったらいいのに――猫や犬などの動物とともに暮らしている人なら、誰でもそう願ったことがあるのではないでしょうか?動物はとても我慢強く、「痛い」や「苦しい」となかなか言わないので、人間が気づいたと…

トンネルでつながる孤独な人間たち『モンスターズ: 現代アメリカ傑作短篇集』(B・J・ホラーズ編 古屋美登里訳) 『地球の中心までトンネルを掘る』(ケヴィン・ウィルソン 芹澤恵訳)

前回は翻訳アンソロジー『楽しい夜』(岸本佐知子編訳)から、アリッサ・ナッティングのショートショート「アリの巣」「亡骸スモーカー」などを紹介しました。モンスターをテーマにした短編が16編収められた『モンスターズ: 現代アメリカ傑作短篇集』(古屋…

アンソロジーにこそ、翻訳小説を読む愉しみがある(かもしれない)――『恋しくて』(村上春樹編訳)『楽しい夜』(岸本佐知子編訳)

先月、ローレンス・ブロック『短編回廊』(田口俊樹他訳)で読書会を行いました。翻訳ミステリー大賞シンジケートのサイトにレポートがアップされています。 honyakumystery.jp そこで、ここでは読書会レポートでは書ききれなかった、『恋しくて』(村上春樹…

真の「敵」とはなんだったのか? 戦争を描く難しさ――『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬)

今月の書評講座の課題書は、直木賞候補にもなった話題作、『同志少女よ、敵を撃て』でした。 同志少女よ、敵を撃て 作者:逢坂 冬馬 早川書房 Amazon 激化する独ソ戦を舞台としたこの物語は、主人公セラフィマの村に突然ドイツ兵があらわれる場面からはじまる…

お金と「私だけの部屋」への困難な道のり――『母の遺産:新聞小説』(水村美苗)

先月の書評講座の課題書は、水村美苗『母の遺産:新聞小説』でした。 母の遺産 新聞小説(上) (中公文庫) 作者:水村美苗 中央公論新社 Amazon ママ、いったいいつになったら死んでくれるの? と、ドキっとする言葉がコピーとなっているこの小説では、亡くな…

2022年を生きのびるための1冊――『これは水です』(デヴィッド・フォスター・ウォレス 阿部重夫訳)

2022年になりました。あけましておめでとうございます。正月といっても、ふだんと何も変わりはしないけれど……と思いつつ、去年から積読していた、デヴィッド・フォスター・ウォレス『これは水です』をふと手に取ったところ、年末年始でぼんやりしていた目が…