快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

やっぱり優しくなければ生きている資格がない――レイモンド・チャンドラー『高い窓』(村上春樹訳)

彼女は二本の腕をデスクの上で折りたたみ、顔をその中に埋めてしくしくと泣いていた。それから首をひねって、涙で濡れた目でこちらを見た。私はドアを閉めて彼女のそばに行き、その細い肩に腕をまわした。…… 娘は飛び上がるように身を起こし、私の腕から逃れ…

自分の肉親について文章を書くということ レイモンド・カーヴァー「父の肖像」(『ファイアズ(炎)』)、村上春樹『猫を棄てる』

自分の肉親について説得力のある文章を書くというのは決して簡単なことではない。結局のところ、文章の力によってどこまでその人物を相対化できるか、そしてその相対化された像のなかにどれだけどこまで自分の感情を編み込めるか、という微妙な勝負になる 村…