名古屋で犬三昧 『その犬の歩むところ』『約束』読書会&はしもとみお『木彫り動物美術館』
というと、なんだか犬を食したようですが、そうではなく、以前紹介した『その犬の歩むところ』といった”犬本”をテーマにした読書会が名古屋で開かれたので、日帰りで参加してきました。
まずは、読書会の前にも犬を補給しようと、新栄のヤマザキマザック美術館に行き、はしもとみおの『木彫り動物美術館』展を鑑賞。何号か前のTVブロスで、山内マリコが紹介していて気になっていました。
はしもとさんは三重県在住の彫刻家で、写真のとおり動物を題材に制作していて、愛犬月くんや、ここ数年通っている相島の野良猫たちや、動物園のゴリラ、砂漠のラクダなどが、ほんとうにいきいきと愛情深く彫られていた。動物も美術も好き!という方は必見。といっても、今週末までのようですが。
そして、名古屋駅でさまよいながらもなんとか読書会に到着。
”犬本”として『その犬の歩むところ』と『約束』の二冊が課題書となっていて、どちらかの班に参加するシステム。私は『その犬の歩むところ』班に参加。
『その犬の歩むところ』は、アメリカの片田舎のモーテルで生まれたギヴという犬の歩みに、現在のアメリカが映し出される物語である。
レジュメとして、ギヴや登場人物たちの旅路が記されたアメリカの地図が用意されていて、ギヴも登場人物たちもあの広いアメリカを大移動していることが、あらためて理解できた。
とくに、ギヴをモーテルから盗む兄弟がシアトル出身で、その弟イアンとギヴを介して出会うルーシーがフロリダ出身ということから、アメリカの端と端をギヴという犬でつなぐ構造にしているのだとわかった。
この物語では、カトリーナに9・11、イラク戦争が登場人物たちの運命を大きく変え、随所にケネディ暗殺やミシシッピ川~ハックルベリー・フィンなどに言及しており、アメリカを描くことを作者が強く意識していたのはあきらかだが、もちろん単純なアメリカ礼賛の物語ではない。
この本でもハリケーン・カトリーナでの大統領の無策ぶりをあてこすっていたり、作者ボストン・テランは覆面作家なので、ジョイス・キャロル・オーツのように激しく発言しているわけではないが、きっといまは現大統領を支持している側ではないだろう。
それでもなお、ルーシーがギヴを乗せてドライブしていて出会う、ビーチ・ボーイズの『ファン、ファン、ファン』の女性バンドのカバー(担当編集の方によると、ジョーン・ジェットによるカバーとのこと)をガンガンにかけながらハーレーに乗る女性ライダー軍団の姿に象徴される、「よきアメリカ」――いまは失われつつあるのかもしれない――を、あえてこの時代に描こうとしたのだと思った。
ひととおり班での討議が終わったあとは、『約束』班へのプレゼン大会へ。
ちなみに、『約束』はまだ読み終えていないけれど、前作『容疑者』は、マクドナルドでポテトを食べながら(時おり無性に食べたくなる)冒頭のシーンを読んで、思わず泣いてしまった。
こっちの犬マギーは海兵隊で優秀に働いていたが、中東の戦争でパートナーを失い(ここが『容疑者』の冒頭のシーン)、同じくパートナーを失ったばかりの警察官スコットのもとに引き取られる。
プレゼン大会では、「野良の子のギヴとちがって、マギーは海兵隊のエリート」とか「いや、犬がしゃべるなんて邪道だ」(マギーは内面の語りがあるのです)とディスリあい(もちろん冗談です)がありながらも、どちらも「よきアメリカ」を取り戻そうとする話だと結論がまとまった。
あと、それぞれがオススメの ”犬ミステリー” を紹介するという企画もあった。私は『容疑者』の解説で紹介されていた『さらば甘き口づけ』を紹介した。
私立探偵スルーが、アル中作家トラハーンを探すようトラハーンの元妻から依頼され、ようやく酒場で見つけたら、今度はその酒場の女主人から行方不明になった娘を探してほしいと頼まれ……という物語。
スルーとトラハーンがアメリカ西部を動き回るロードムービーの要素もあり、女優志望の若い女が失踪するというのは、以前紹介した『ハティの最期の舞台』にも共通する思春期ものの定番でもあり、そしてチャンドラーから流れる悪女(ファム・ファタール)ものでもあり、とお得な一冊(?)だと言ってみました。
それにしても、スルーもトラハーンも、そしてお供の犬ファイアボールもずうっと酔っぱらっているのだ。ギヴもビールが好きだし、犬ってそんなにビールが好きなのか?
ほかには『BUTTER』が紹介されていて、木嶋佳苗事件がモチーフらしいので以前から気になっていたが、犬が出ていたとは知らなかった……いや、たしか木嶋佳苗はブリーダーに関わっていたはずなので意外ではないか。
『野生の呼び声』など、そんなにミステリーっぽくないものも紹介されていたので、それなら前に書いた『おやすみ、リリー』とか『ティモレオン』とか、再読しようと思っている『ティンブクトゥ』でもよかったかもしれない。

- 作者: ポールオースター,Paul Auster,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
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そんなわけで、名古屋日帰り旅、充実した一日を過ごせました。またどこかに行きたいな。