快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

にんげんなので さんざんなのね、の『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』 渋谷直角

 

奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール
 

  OTファンの私は、SPAで連載がはじまるやいなや読み始めたのですが、なかなか単行本が出ないので、ソニーからNGが出たとかで、お蔵入りになったのではないかと心配していました。

 で、すでにじゅうぶん大ヒットしていて、あちこちで絶賛されているので、とくに感想をつけくわえるのは不要のような気すらしますが、ファンの視点からすると、
主人公コーロキによる民生語り――各アルバムに対しての思い入れ、インタビューなどから受けた影響――など、深くうなずきました。
 
 とくに、アルバム『E』を一番好きなアルバムと語り、「CUSTOM」からラストの「ドースル?」までの四曲は何度もリピートしたというのが、ああ、この人ほんとうにちゃんと聞いているんだなーとわかりました。正直、『relax』とかそんなに読んでいたわけではなく、作者についてあまり知らなかったので、もっとすかした人(オシャレな洋楽しか聞かないような)なのかと思ってました。……って、コーロキが『マレ』編集部で感じる気後れとまったく一緒ですが。

 でもほんと、ある特定のアーティストや音楽が話の肝になっているのにもかかわらず、ファンやちょっと詳しい人間からすると、まったくピント外れのことを書いている本って、ガッカリ感が半端ないですが、これはちゃんとわかっている人が書いているんだなーと感じました。個人的には『FAIL BOX』は名盤なので、取りあげてほしかったとも思いますが。そして今度は、いまやってるサンフジンズをテーマにしてほしい、ってないか。

 けど、ライブ会場で、コーロキみたいなオシャレ雑誌の編集部にいそうな人を見たことはない。(たとえコーロキが、そのなかではダサい方だとしても)地方だから?? 民生モデルのサングラスやメガネをかけている人はちょいちょい見かけるが、結果としてはサンボマスター風になっていたり、そう、身体の大きい人(とくに横幅)が多い印象もあるな、けど、ガリガリガリクソンみたいな人がいると思えば、だいたい本人だったりする。

 あとは、ライター美上ゆうのキャラもおもしろかった。最近ツイッターなどでよく目にする、腐女子キャラで(ほんとうは彼氏とかいるのに、そういう“キャラ”でやっているのではなく、本物っぽいところがいい)、仕事のスタイルは、かつてのリリー・フランキーさんみたいな感じなのだろうか。遅いけれどめちゃめちゃおもしろい原稿で、イラストも自分で描くという。

 って、この物語の本質的なことはなにひとつ書いていませんが、まあそれはあちこちで散々書きつくされているから、ということで。ただ、この恋愛の展開はだいたい予想通りでしたが、最後のコーロキの成長(?)ぶりは意外でした。あれが「民生化」と言われると、疑問を感じましたが。

 けど、ツイッターとか見てたら、アラフォーくらいの男性たちが、妙に感情移入しているのを目にしましたが、あれはなんなんだろう?? 民生ファンというわけでもなさそうだし。

 だれかに盲目的に憧れることのかっこわるさが、身につまされたのだろうか。というか、かっこ悪くなるほど、だれかに憧れたことあるのだろうか?
 モテる女子に恋してストーカー寸前になることが、痛々しかったのだろうか。いや、痛々しくなるほど、だれかを好きになったことあるのだろうか? 
 イケてる人間になろうと足掻くのがみっともないのだろうか。そもそも、ほんとうに足掻いたことがあるのだろうか?

 いや、みっともなく足掻いて生きることをはじめから回避している人には、この本の本質みたいなものが伝わらない気がするので、ネットで絶賛している人たち――そのなかには、最初から成長後のコーロキのような生き方をしている人もいるのではないだろうか――は、ほんとうにわかっているのかな?? なんて思ってみたりしました。いや、”ちがったらごめん” なのですが。