「ほんとうのこと」が知りたいだけなのだ 辺境中毒!(高野秀行)
さて、前回紹介した内澤旬子さんといえば、高野秀行さんの『辺境中毒!』で対談しています。
その対談で、高野さんが「旅の七つ道具」を挙げていて、
とのこと。日本では眼鏡なのに旅先でわざわざコンタクトに? と思いきや、「眼鏡をかけていると、明らかに外国人だとわかる」とのこと。いやまあ、高野さんが行く外国は辺境ばかりなので(この当時ならミャンマーの僻地とか、最近ならソマリアとか)地元の人はだれも眼鏡をかけていないのかもしれないが、ふつうの外国の都市なら、眼鏡をかけるアジア人はさほど珍しくないのでは、とも思いますが。
ちなみに、ハッカ油と蚊取り線香も、僻地の虫対策とのこと。虫よけなんて現地で調達してもいいのだけど、「いきなり拘束されたりするから」念のために持っていくらしい。僻地の旅って、大量の虫と戦うか、そうでなければ拘束されるかの二択のようだ。
そこから内澤さんの著書『世界屠畜紀行』からの流れで、高野さんがコンゴで猿をつぶして(つぶしたのは現地の人だが)食べた話になり、「猿は毛を焼き切ると、(人間の)赤ん坊にそっくり」らしい……。そして、現地の人たちは、それをわいわいとおいしくいただくとのこと。ただ、野生動物の肉は、別の項で書いているヤマアラシにしても、「かたい」という以外に特徴はないらしい。
しかし、高野さん、気がついたら『週刊文春』でも「ヘンな食べもの」という連載を開始してますが(半ページなのが物足りない)、ゴリラやチンパンジーはともかく、カンボジアの市場で売ってたという、タランチュラそっくりの巨大クモまで平気で食べるのには度肝抜かれる。ほんま死ぬで?!って心配になってしまう。
まあでも、『移民の宴』では、タイトル通り、食卓から在日外国人コミュニティを取材していたり(いま思うと、この本がひとつのターニングポイントになったのかもしれない)最新作は納豆なので、いまやUMAではなく食がライフワークになっているのでしょう。
移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活 (講談社文庫)
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えっ?UMAってなんじゃそれって? UMAというのは未確認動物のことで、高野さんはコンゴに怪獣を探しに行ったりと、もともとはUMAを見つけるために探検をはじめたはずだけど、怪獣以外にも怪魚に雪男とあれこれ捜索しているにもかかわらず、いまだ発見の報はない。
上記の『辺境中毒!』でも大槻ケンヂとUMAやムー(懐かしい)の話で盛り上がり、また書評の項では、太田牛一という、織田信長に仕えていた武士による信長の伝記『信長公記』を紹介し、そこで「織田信長は日本初のUMA探索者か?」という説まで唱えている。
なんでも、『信長公記』によると、尾張の「あまが池」で伝説の大蛇を目撃したという者があらわれると、信長はさっそくその本人を召喚して直接聞き出し、近隣の農民を集めて池の水を掻い出そうとするが、いくらやっても七割くらいまでにしか減らず、業を煮やした信長は自分で刀をくわえて水に潜ったとのこと。で、高野さんによると
池の水を全部掻い出させるとか、自分で刀をくわえて池に潜るというのは、きっと一般人からすれば「信長はやっぱり直情径行だ」と思われるのだろうが、UMA探索歴の長い私からすると、すごくまっとうな手段に思える。
とのこと。それ以外にも、信長は「不思議な霊験」を示すという僧の噂を聞くと、さっそく捕まえて「オレの前でやってみろ」と言い、案の定できなかったので処刑したり、浄土宗の僧と法華宗の僧を戦わしたりと、ほんと神も仏も知ったこっちゃない行いの数々なのですが、高野さんはそれらにも強く共感。
ああ、信長。あまが池の探索も超能力の真偽鑑定も夢の宗教対決も、みんな私がやってみたいことばかりじゃないか。
そうなのだ。私はUMAファンでもなければオカルト好きでもない。ただ「ほんとうのこと」が知りたいだけなのだ。
このくだりを読み直して、アヘン黄金地帯についてもソマリアについても、そして納豆についても、ただ「ほんとうのこと」が知りたいという純粋な思いが高野さんの原動力になっているのだな、とあらためて感じ入りました。
最近〝クレイジージャーニー”が流行っているようで、高野さん自身も出演されたことがあるけれど、やはりほかの人たちとは一線を画しているよな、と確信しているのは私だけではないはず、たぶん。