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快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

契約結婚のおかしな二人 『逃げるは恥だが役に立つ』 海野つなみ

  

逃げるは恥だが役に立つ(1) (KC KISS)

逃げるは恥だが役に立つ(1) (KC KISS)

 

  大学院に行き、臨床心理士の資格もとったものの、就職先のないみくり(25歳)は、父の紹介で、一人暮らしの男性平匡さん(36歳)のところで家事手伝いの仕事をはじめるが、みくりの両親が引っ越すことになり、新しい仕事が見つかる気配もないので、家事手伝い業を続けるため、平匡さんと“契約結婚”して同居をはじめることに……


 まあ、もちろんあり得ない話なのですが、マンガでよくある「恋愛関係ではない男女がやむを得ず同居に至る」経緯にあざとさ、嘘くささみたいなのもなく、スムーズにストーリーに入りこめました。


 案の定、二人の距離が縮まっていくという展開なのですが、この平匡さんが、高齢童貞のかなりの“こじらせ”男子で、なかなか一筋縄ではいかない。みくりは平匡さんとの距離をつめようと、得意の心理学も駆使してあれこれと策を講じ、そして平匡さんの方も、みくりのことを大事に思っているのにもかかわらず、“プロ独身男子”として、まるで修行僧か宦官であるかのように、決して距離をつめようとはしない。

 平匡さんからの視点で描かれると、このあたりの気持ちも少しは理解できるような気がするのだが、やはり、どうして???と疑問を感じてしまう。お互いの気持ちははっきりしているのに。現実でもありますね、こういうこと。(“契約結婚”があるわけではないですが)
 断られるのが怖いのだろうか? 現時点ではうまくいっても、最終的に傷つく(可能性がある)のが嫌なのだろうか? それとも、うまくいく/いかない以前に、恋愛感情に振り回されるのが恐ろしいのだろうか? ほんと男性の気持ちってわからないな、とあらためて思ってしまいます。

 まあ、契約結婚、やむを得ない同居が、ほんとうの恋に変わっていくという話はそんなに珍しくないけれど、主人公みくりのキャラがクレバーかつ冷静で、よくある少女マンガのヒロイン像と違うので、イライラすることもなく楽しめる。色気のない絵柄も、かつての川原泉のようで味がある。あそこまでペダンティックではないですが。

 恋愛ストーリーの伝統としては、最後は「結婚」(あるいはプロポーズ的なもの)になるのですが、この話は最初から一応結婚しているので、どういうところに着地点をおくのかも気になります。二人の(契約)結婚生活は、たがいをいたわりあって平穏に進むのですが、それは給与が発生する「仕事」であり、恋愛の介在しない関係だからうまくいっているとも言えるので、恋愛が発生したらどうなるのかが非常に興味深い。

 あと、二人のまわりの登場人物、平匡さんの歳をとった女性バージョンの、みくりの伯母さんである百合ちゃんに、みくりが二股?をかける相手のモテ男の風見さん、そして平匡さんに淡い恋心を抱く沼田さん(♂)などの恋愛や結婚にたいする価値観が、それぞれ全く違っていて考えさせられる。


 最近、鳥飼茜の『地獄のガールフレンド』も読んで、じゅうぶんおもしろかったけれども、フェミニズム的に正し過ぎるというか、ストーリーが(その観点からは)王道すぎてちょっと物足りないとも思ったのですが(正しいお母さんであることを常に求められるシングルマザーの葛藤とか、自分の意に添わない女をブスとののしる男との戦いとか)、
 こちらは、シンプルな絵と一見ありがちなストーリーのなかに、こじらせ男子の心を開かせることや、結婚とはなんぞやということなど、なかなかの大問題がひそんでいます。