快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

『お勝手太平記』 金井美恵子

 

お勝手太平記

お勝手太平記

 

  目白四部作から続く連作シリーズの最新刊。

今作は最初から最後まで、『快適生活研究』で強烈な印象を残した、60代女子アキコさんの書簡体小説となっています。

 それにしても、アキコさん、口悪いなー。前よりパワーアップしているようです。親友のマリコさんへの手紙で、マリコさんの別れた夫のことを「前の異常者のダンナさん」呼ばわりし、アルツハイマーになりつつある今の夫については、ボケた老シェパード犬と同じように扱って、マリコさんから怒られても、まったく懲りずに別の友人への手紙では、「ボケて総入歯になった狂犬みたいにやたらと吠えたてる」夫という始末。

 あと、新聞の投書欄に出てくる、「男の子は、たくさんたくさん、褒めてあげてね」とみずしらずの母親におせっかいをやくBBAのことを「ほんとに大嫌い。むかつくわね」「ほんとにぞっとする」とののしるさまなんて最高です。〈生きざま〉とか、〈読みきかせ〉や〈気づき〉という言葉が嫌いというセンスも、その通り!と深く納得してしまいます。

 当然ながら、アキコさんも映画好きで、昔の映画の思い出を語り、中野勉(『文章教室』からおなじみ。中野勉の義理の母である佐藤絵真がアキコさんの学生時代の先輩なのです)に勧められて『エデンより彼方に』を見に行ったものの失笑し、そのエピソードが作者金井美恵子のエッセイ『目白雑録』と結びつく遊び心がとっても楽しい。そして、「あとがきにかえて」として、アキコさんが「美恵子様」と作者に手紙を書くという離れ業まで飛びだす。

――『小春日和』が大好きで、その影響で目白に住もうと思ったこともあるくらいです。

 というのに共感する人は多いのではないでしょうか。(もしかしたら、作者本人もしばしばそういう手紙をもらったり、感想を聞いたりするのかもしれません)
あと、映画などの固有名詞や愉快な悪口に夢中になって読んでしまうこの本ですが、マリコさんのアルツハイマーの夫のエピソードや、アキコさん自身も認知症になった母を介護して見送った経験があったりと、アキコさんの軽妙な文章のなかに高齢化社会の厳しい現実も感じてしまいました。もちろん、そんな「社会派小説」では全然ないのですが、すぐれた小説は、どうしても世相を反映してしまうということでしょうか。
 けれど、高齢化社会の明るい面(?)としては、アキコさんは59歳で初めて結婚した新婚さんということも書き添えておきます。高齢結婚もいいものかもしれないですね。でも、アキコさんの言うとおり、イゴだがショーギをやりたがる男には近づかないようにします。