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快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

辺境とはなにも世界の僻地にかぎらない 『腰痛探検家』など 高野秀行

 前回、『恋するソマリア』について書いたけれど、高野さんの本の魅力をまだ伝えきれていないような気がする。

 いや、『恋するソマリア』の概要は紹介したつもりだが、高野さんのモットーである、「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」の「面白おかしく」という重大なポイントを伝えるのは非常に難しい。
 その部分を味わうためには、代表作であり、辺境作家としての本領発揮である『謎の独立国家ソマリランド』や『アヘン王国潜入記』より、探検していないもの、国内ものの方がいいかもしれない。

 東海林さだおの『ショージ君の青春記』とならんで青春記の古典と言える(どちらも早稲田近辺が舞台の貧乏青春記という共通項がありますね)『ワセダ三畳青春記』は、海外や探検にまったく興味がない人でも、笑いながら楽しく読め、そして、あんなにばかばかしいエピソード満載なのに、気がつけば、最後には感動していることにおどろくはず。 

ワセダ三畳青春記 (集英社文庫)

ワセダ三畳青春記 (集英社文庫)

 

  『異国トーキョー漂流記』は、スペイン人にスペイン語を習うことで彼女をつなぎとめようとしたり、飛行機で偶然隣り合わせたペルー人をしばらく家においたり、イラク人のバイト探しを手伝う羽目になったり(しかも途中から手伝う相手が三人に増える)、コンゴ人作家ドンガラさんのアメリカ永住ビザの推薦文を、フィリップ・ロスとともに書くことになったり……と、
 さまざまな経緯で日本にやってきた外国人との奇妙キテレツな交流を描いていて、面白おかしくもありつつ、それぞれの国の事情について考えさせられ、彼らの多くとはもう二度と会うことがないだろうことを思うと、せつない気分になったりもする。(そもそも読者である私たちは、最初から会ったことがないのだが)

異国トーキョー漂流記 (集英社文庫)

異国トーキョー漂流記 (集英社文庫)

 

  面白おかしくを極めるなら、『腰痛探検家』もいい。タイトルのとおり、体力勝負の探検家でありながら、ひどい腰痛におそわれ、にっちもさっちもいかなくなった日々を描いている。
 なにしろ「前口上」から、これだけ「恋愛小説」があるのに、どうして「腰痛小説」がないのか、「腰痛に悩む者は恋に悩む者と同じ程度に孤独なのだ。そして恋に悩むと人間が変わるように、腰痛になると人間が変わる。見える世界も激変する」と熱く語っている怪書だ。

 なんといっても、だれが読んでもあやしいとしか思えない民間療法に次々とひっかかり、深入りしていくさまが興味深い。いや、高野さんもそれらを盲信しているわけではまったくなく、「でも、ここで止めたらいままでの分がすべて無駄になる……」と、ずるずる通い続け、ダメ男と別れきれない女子の気持ちってこういうことだったのか、とはっと気がつくあたりが非常に興味深い。
 母親から「腰痛には温泉がいいよ」と言われ、「そんなもんで治るか!」「私の腰痛をなめているのか」と激昂したが、その後、“カリスマ”名医からも治す術がないので、「温泉でも行ってみたらどうですか」と言われて、愕然とするあたりも真骨頂だ。
 整形外科や整体や鍼、高価な腹巻、西洋医学とまわりまわった挙句、最後はなんと超能力にまで行きついてしまうのだ。まさに「腰痛」というゴールのない(絶対的な特効薬がない)ジャングルをさまよう探検家の姿がある。でもたしかに、辺境って世界の僻地にかぎったものではない。 

腰痛探検家 (集英社文庫)

腰痛探検家 (集英社文庫)

 

 ……で、実は、今回は最新刊である『世界の辺境とハードボイルド室町時代』について書こうと思っていたのですが、もうここまででじゅうぶん書いてしまったので、また今度にします。。