快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

すべてはあなたにつながっている~Nina LaCour 『Everything leads to you』

 

Everything Leads to You

Everything Leads to You

 

ジャンル:YA・青春小説
出版年:2014年
カテゴリ:洋書(翻訳は出ていない)

   ロサンゼルスを舞台に、映画のプロダクション・デザイナーとしての道を歩みはじめるエミが、亡くなったハリウッドスターの家で見つけた謎の手紙をたどって、ひとりの少女アヴァと出会い恋におちる。
 仕事と恋愛のふたつの場面から、かけがえのない相手と出会い、その相手とほんとうに結びつくことについて描かれている。

 いわゆる”LGBT小説”に分類される話だけれど、同性を好きになることについての葛藤や、躊躇、思い入れには重点を置かれていないので、LGBT小説としてだけではなく、ふつうの青春小説として読める。

 前の恋人であるモーガンの非常に魅力的ではあるが、誠実なつきあいをするには向いていないキャラクターや(二村ヒトシさんの言葉を借りると、”インチキ自己肯定をしたヤリチン”なのかもしれない…女性ですが)、アヴァについても、単なる謎にみちた美少女ではなく、内面を持った人間として描いているところが好感がもてる。そう、異性であれ、同性であれ、恋愛相手を神格化してはいけないのでしょう…
 エミとアヴァの距離が、意外になかなか縮まらないのも、日本の読者にとって入りこめるポイントのように思える。

 そして恋愛だけではなく、新人プロダクション・デザイナーとして奮闘するエミの仕事ぶりは、これから将来について考える若いひとにとっては共感でき、力づけられるだろう。 
 また、エミの兄に恋する親友のシャーロットや、アヴァが施設で仲良くなったジャマールなど、エミやアヴァの友人たちの性格やバックグラウンドもていねいに描かれているところが、話に奥行きが出ている。エミとシャーロットの友情は理想的(すぎる気もする)。
 
 なかでも、ニルヴァーナに象徴されるような、九十年代の西海岸のグランジロックを体現した人生を送ったらしいキャロライン(アヴァの母親。もし映画化されるなら、若いときのコートニー・ラブがピッタリな感じ)と、同じような生活を送ったすえに、おそらく宗教か自己啓発グループのようなもの救いをもとめ、教会や編み物サークルに通うようになり、同性を好きになったアヴァを糾弾したトレイシー(アヴァの育ての親)の生きかたも心にきざまれる。
 小説の雰囲気は違うものの、このあたりのディテールは、ジャネット・ウィンターソンの『オレンジだけが果物じゃない』を思いだした。結局アヴァとトレイシーは和解できなかったところも、リアリティーがあった。

  作者Nina LaCour は『Hold Still』で2009年にデビューして、ウィリアム・C・モリス・ヤングアダルト新人賞のオナーブック(佳作)に選ばれ、これが3作目の小説になる。彼女のインタビューがのっているPublisher's Weeklyの記事はこちら。写真の感じからも、なかなかかっこいい女性のようです。