12/23 柴田元幸×内田輝/レベッカ・ブラウン『かつらの合っていない女』刊行記念朗読会 @ワールズエンドガーデン
で、前回の続きで、神戸市立外大の公開講座のあとは、灘の古本屋ワールドエンズガーデンでの朗読会へ。
柴田さんの朗読はこれまでも何回か聞いたことがあるけれど、今回はクラヴィコード&サックスの内田輝さんと一緒なので、音楽つきってどんな感じなんだろう?と期待が高まる。
前から行ってみたいと思っていたワールドエンズガーデンも、阪急の高架近くにあり、電車の音が伴奏に重なってこぢんまりとした店内に響き、とてもいい雰囲気だった。(ニューヨークみたいだと柴田さんはおっしゃってました。ニューヨークかどうかはともかく、やっぱ神戸やなーとは思った。大阪とはちがう)
まずはもちろん、レベッカ・ブラウンの『かつらの合っていない女』から数編を朗読。
ナンシー・キーファーの絵にあわせて、レベッカが文章を書いたこの本。短編小説というより、鮮烈なイメージを喚起する詩のような言葉が綴られているのだけれど、おとぎ話のような、寓話のような感触も失われていない。
『私たちがやったこと』より抽象的になっているのだけれど、解像度があがっているような文章。
- 作者: レベッカブラウン,Rebecca Brown,柴田元幸
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ところで、先日レベッカが日本に来たのは、アメリカの(だったかな)旅行会社主催の「奥の細道体験ツアー」に参加するためだったらしい。「聖地巡礼ツアー」流行ってると聞いたことはあるけれど(『君の名は。』とか)、海の向こうでそんなことになっているとは思いもよらなかった。
レベッカ・ブラウンの次には、なんとパトリック・マグラアの『オマリーとシュウォーツ』の柴田さん訳も披露してくれた。永遠に失われた愛を求めて、ニューヨークを彷徨う天才ヴァイオリニストの物語。
パトリック・マグラアといえば、宮脇孝雄さんが訳しているイメージがあるので、調べてみると、この『失われた探検家』に宮脇さんの訳されたものが収録されているようだ。こちらも読んでみたい。
- 作者: パトリックマグラア,Patrick McGrath,宮脇孝雄
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ちなみに、柴田さんの『生半可版 英米小説演習』では、パトリック・マグラーという表記で『スパイダー』が紹介されていて、「マグラーはこの作品で『リリカルな狂気』を見事に編み上げている」と解説されているけれど、今回の『オマリーとシュウォーツ』もまさに「リリカルな(そして切ない)狂気」の物語でした。
質疑応答では、内田輝さんに音楽はどうやってつけるのか?という、私も気になっていた質問が出ました。とくに前もって決めているわけではなく、その場の雰囲気に応じて(今回なら電車の音とか)演奏しているそうです。
柴田さんには、こういった翻訳や朗読会のよろこびはどこにあるか? という質問が出ました。
柴田さん曰く、自分が訳さなければ世に存在していなかったものを生みだせるのが翻訳のよろこびとのこと。また、『MONKEY』で日本人の作家に依頼して書いてもらうときも、自分が依頼しなければ存在していなかった作品が生まれるのがうれしいとおっしゃってました。
朗読会についていえば、販促活動であるのは事実だけど、以前に学生新聞?かなんかの取材で、翻訳者、かつフランス文学者である野崎歓さんと対談したときに、ふたりともミュージシャンになりたかったという話題で盛りあがったとのことで(その対談、どっかにアップするか、本に収録してほしいものだ)、こういう朗読会はミュージシャン願望をちょっと満たせるのかも、とのことでした。
それから、おなじみバリー・ユアグローが最近短編を何本かまとめて送ってきたとのことで、そこから朗読。ユアグロ―らしい、奇妙でユーモラスな味わいのある作品で、そのうち出版されるようです。
ちなみに、バリー・ユアグローの最近作は”こんまり”に影響を受けて書いた「MESS」(片付けられない男)というものらしく、それもめちゃめちゃ気になった。
たしか、こんまりは「ときめかないものを全部捨てる」とかいう主張だったと思うけれど(よう知らんけど)、ときめき過剰な男の話だろうか。いや、他人のことは言えませんが……
それにしても、少し前までは、アメリカでは作家が朗読会とかポエトリー・リーディングとか頻繁に行っていると聞いても、なんでわざわざ声に出して読むのか? くらいに思っていたけれど、こうやって上手な朗読を聞いていると、その魅力が――文章が身体全体に染みわたるような――ほんとうによくわかる。声や息遣いで、言葉の響きがより深まって伝わるものなのだと実感する。
昼も夜も貴重な時間を過ごせた一日でした。