快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

虚実入り乱れるメタ時代劇? 松尾スズキ作 『ニンゲン御破算』(阿部サダヲ主演)森ノ宮ピロティーホール

 さて、ヴォネガットの本を読んでいる合間に、大人計画『ニンゲン御破算』を見てきました。そういえば、松尾スズキヴォネガットに影響を受けたとよく語っているのでつながっているとも言える。

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 ↓絶賛CM中のキンチョーからも花が来ていた。長澤まさみはなんであんなに関西弁がうまいのか?

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 この舞台は、15年前に中村勘三郎(当時は勘九郎)のために、松尾さんが書き下ろしたもので、当時の歌舞伎界で人気と実力もナンバーワンだった大御所の勘九郎と、過激な作風で知られる松尾スズキがコラボ? と、かなり話題になっていたのはおぼえている。 
 でも、結局初演は見ていないのですが、今回阿部サダヲが主演と聞いてチケット取りました。

 ストーリーはちょっと複雑で、黒船が来航して江戸幕府がゆらぎ、武士たちは佐幕か勤王か選択を迫られていた時代、阿部サダヲ演じる加瀬実之助は、藩で勘定方をつとめる武士でありながらも、芝居好きで狂言作家になることを夢見ていた。
 そして、鶴屋南北松尾スズキが演じる!)と河竹黙阿弥(ノゾエ征爾)のもとへ弟子入りしようとするが、あえなく拒否される。なんとしても諦めきれない実之助は追いすがり、すると、脚本より自分の身の上話の方がおもしろいのではないかと南北に言われ、これまでの遍歴を語りはじめる……

 

 と、実之助の現在と語られる過去が交錯する形式なので、最初はちょっと理解するのに時間がかかった。(しかし、前半の途中で、鶴屋南北河竹黙阿弥がていねいに解説してくれるくだりもある)

 武士の身分を捨てて作家になろうとする実之助が語る話では、実之助と反対に、武士になろうとする兄弟(荒川良々岡田将生)が出てくるところが興味深い。身分制なんて、いや、身分制だけではなく「この世はすべて嘘っぱち(フィクション)」というテーマが強く感じられた。

 実際、物語の後半では、この兄弟が幕末の動乱に巻きこまれ、「桜田門外の変」に加わるのだけれど、その模様を実之助が自分の劇として中継するという、まさに「虚実入り乱れる」展開になっていく。ちなみに、この兄弟の幼なじみのお吉(多部未華子)って、「唐人お吉」として有名な実在の人物をモデルにしていたんですね。いま検索してはじめて知った。

 

 狂言作家が語る物語という形式を使うことで、史実と劇をどろどろにかき混ぜ、時代劇というものをひっくり返そうという試みだったのだろう。なので、タイトルの「メタ時代劇」としてみました。(ダサい響きだとは思ったが)
 時代劇(そして歌舞伎)の定番のモチーフである「仇討ち」を茶化しているところからもそれがわかる。実之助は藩の悪事に巻きこまれて殺人をおかし、「仇討ち」として命を狙われているのだが、その「仇討ち」を目論んでいたはずの武士たちが、「(どうでも)ええじゃないか」となって、実之助の舞台の役者になるのだ。

 しかしこの作品を、当時歌舞伎界のエスタブリッシュメントであった(もちろん、型破りな役者でもあったけれど)勘九郎にぶつけたんだなと思うと感慨深い。

 

 それにしても、ほんと舞台のサダヲは無敵だなとあらためて認識した。いつも思うけれど、動きのキレや発声が飛びぬけているのか、サダヲが出るとそれだけで舞台が締まるような気がする。
 といっても、私はそれほど舞台を見ているわけではなく、とくに歌舞伎やミュージカルといった華やかな舞台はほとんど見たことがないので、なんとも言えませんが。きっと勘九郎も出るだけで舞台が締まる役者だったんでしょう。

 あと、岡田将生多部未華子もすごくよかった。岡田くんは『ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン』のときにも感心したが、とにかくなんといってもあの顔の小ささ! 
 ……いや、スタイルだけではなくて、立ち回りのときのキレのある動きや、振りきったように(?)ギャグに身を投じるさまもよかった。
 多部ちゃんもあんなに舞台でよく通る声をしていたとは知らなかった。最初、田村たがめかな?と思ったけれど、考えたら、たがめちゃん私より年上ですからね……

 鶴屋南北を演じる松尾さんを見ると、NHKの時代劇『ちかえもん』を思い出した。あれもおもしろかった。しかし、これもまたいつも思うことですが、松尾さん、ほんとハードワーカーだ。この新しい小説も芥川賞候補になって話題なので、読んでみないと。    

natalie.mu

 いや、松尾さんのみならず、サダヲもいっぱい出てるし、あとはクドカンに、なんといっても星野源、と大人計画絡みのひとたちの働きっぷりって、考えたら異様やな……借金でも抱えているのか(そんなはずはない)。
 クドカン脚本の『パンク侍、斬られて候』も、もちろん気になっているのだけど、そこまで手が回らない。

  あと、「松尾スズキ大人計画30周年」も楽しそう。大阪なら絶対行きたいところですが。

www.cinra.net

「何かが起きる! 劇団員の年齢相応の何かが!」というコピーが素敵です。 “なんとかここまで起訴されず”という文句も、なかなかキャッチーですが。退団した過去のメンバーに会いに行くというのもいい。職場の行事でやってみてもいいかもしれない。(ものすごく嫌がられるだろうが)
 年齢を重ねるのも悪いことばかりではないとつくづく思う(ことにする)。