快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

”働く女”が心に刻むべき秘訣とは 『働く女子と罪悪感』(浜田敬子)出版記念トークイベント 

 3月24日に隆祥館書店で行われた、『AERA』元編集長であり、現Business Insider Japan統括編集長の浜田敬子さんによる、『働く女子と罪悪感』出版記念トークイベントに参加してきました。 

 『働く女子と罪悪感』は、浜田さんのこれまでの仕事の歩みを――朝日新聞に記者として入社し、地方支局で体力の限界まで働き、そこから『週刊朝日』、そして『AERA』に異動し、『AERA』副編集長を9年勤めたあと、「女性初」の編集長になる――飾ることなく、率直に振り返った本である。

 書店に行くと、仕事に関する本は山積みにされている。女性の働き方をテーマにした本も多い。しかしその中で、自らの実績をもとに、仕事について具体的に語った本というのはどれくらいあるだろうか? 

 たいていは、謎のコンサルタントとか、いったい何をしているのかよくわからない作者が、「こうすればミスをしない」「仕事が早く終わる」「生産性があがる」……などなどについて、ミス防止にメモを取れだとか、早く終わらせるために部下に仕事を渡せとか、生産性をあげるためにはメールにすぐに返信しろとか、”そりゃそやろ”みたいなことを書き連ねている本がほとんどではないだろうか? 

 いや、そりゃそやろみたいな内容でも、具体的なアドバイスがあればまだマシで、なかには、精神論とか心構えに過ぎないことしか書かれていない本も多いように思える。もう平成も終わるというのに、「女性の強みは気配りだ」なんて平気で書いている本もある。

 とくに、女性がこれまでやり遂げた仕事の経験をシェアする方向で書いた本というと、非常に限られてくる。
 昔、松永真理さんの『iモード事件』がベストセラーになったのも、もちろん当時iモードがものすごく注目されていたのが一番の原因だろうが、やはりその希少性もあったのではないかと思う。 

iモード事件 (角川文庫)

iモード事件 (角川文庫)

 

 この本は精神論的なものは一切ない。そのかわり、こういったことが書かれている。

  地方支局の新人記者時代、東京のデスクによる記事の修正に「違う」と思いつつも、疲れ切っていたこともあり反論せずにいたら、掲載された記事について取材先の遺族からの申し入れがあり、結局「お詫び」を出した顛末。

 『AERA』副編集長時代、男性部下たちの中には、一切目を合わせることなく話をしたり、異様に丁寧な言葉で返事をしたり、自分が去った後ゴミ箱を蹴ったりする者もいたこと。

 そして、一記者から副編集長になり、『AERA』に仕事人生を捧げてきた自分の上に、雑誌の編集経験のない男性がいきなり「編集長」となってやって来たときの悔しさ……。

 作者は仕事については「熱い」人間だが、けっして感情的ではなく、上司や部下との付き合い方といった、どこの職場でも起こり得る問題について、合理的な解決策を模索している。 

私自身、上司の好き嫌いはもちろんあった。でも、この上司と仕事をすると面白い企画ができるという気持ちがやがて、その上司への敬意につながった。そして私自身が上司の立場になった時は、「黒い猫も白い猫もネズミをとる猫はいい猫だ」と自分自身に言い聞かせていた。

  部下には本人がやりたいと思うような仕事を提示して、「この上司についていったら得だ」と思わせる。合わない上司や理不尽な事態に直面しても、自分の成し遂げたいことのためなら、ある程度受けいれる――
 この考え方は、根本的に、誰もが仕事で成し遂げたいことがある、成長したいと思っているということを前提としている。誰もがそうとは限らない、という声もあるかもしれない。

 でも、私も作者と同様に、いま仕事に幻滅しきっているひとであっても、もともとはやりたいことや成し遂げたいことがあり、働くというのはそれを発掘することではないかと考える。きれいごとかもしれないけれど。

 女性による仕事の本というと、最近流行りの「ワーク・ライフ・バランス」ものかと思われるかもしれないが、その方向を期待すると肩すかしかもしれない。
 とにかく作者はワーカホリックだ。出産後も地元から両親を呼びよせて育児を頼み、夫にも育休を取ってもらい、フル回転で働いている。
 なので、育児と仕事を両立するヒントを求めて読むと、「私にはこんなの無理……」と思ってしまうかもしれない。

 でもやはり、この本にヒントはある。それは「管理職になること」だ。

 どこの会社にもいるでしょ? 部下に仕事を押しつけて、自分はさっさと帰ってしまう管理職が。昔の職場でも、帰るの早っ! バネでもついてんのかな、と思う上司がいた。
 いやまあ、部下に押しつけてというのはともかく、仕事のわりふりやミーティングの時間など調整できる管理職になることが、時間に制限のあるひとにとってふさわしい働き方だと思う。
 ところが、よく知られているように、女性は管理職になりたがらない。 

女性たちが管理職になりたがらない理由、それはひとえに自信のなさだ。それも自分を過小に評価しすぎていると感じる。その自信のなさはどこから来るのか。

  自信がないのはよくわかる。女性の根深い自信過小問題については、これからもじっくり考えたい。

 けれども私自身、いまの職場にうっかり10年もいてしまっているため、管理職でもなんでもないけれど、後輩に仕事をふったりしているが、ふられる側よりふる側の方がやはりラクだと感じる。(お局に一挙手一投足管理されるより、自分がふる方が……あ、つい本音が)

 とくに、いまはなるだけ早く帰るようにしているので、自分で管理できる方が有難い。それでもやはり、後輩にどれだけ渡したらよいのかわからなかったり、「自分でやった方が早い」と思ったりするのが課題ですが。それにしても 

からしたら、なぜ男性たちはその能力も伴わないのに、管理職を打診されると引き受けるのか、それも不思議だが(もちろん能力の高い男性もいる)

  とあるように、会社で働いているとおわかりかと思いますが、どう見てもマネジメント能力がないのに管理職になるひとたち、ほんと多いですね。
 いや、仕事のマネジメントとか部下を成長させるとかいったレベルではなく、他人の話をちゃんと聞くとか、通常のコミュニケーションにも難があるレベルの管理職もいる。

 これ以上書いたら愚痴っぽくなりそうなので、ここまでにしよう……トークイベントの感想については、また後日にでも。
 

 働くことについて検索してみると、このジェーン・スーさんのインタビューもおもしろかった。

book.asahi.com

 たしかに、『働きマン』はもちろんおもしろく読んだけれど、読んでいて苦しくなるところもあった。『ハッピー・マニア』の突き抜けぶりを期待してしまったからかもしれないけれど。

 『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 女子刑務所での13ヵ月』、気になっていたけれど、仕事にも応用できそうな本だとは知らなかった。読んでみないと。 

オレンジ・イズ・ニュー・ブラック    女子刑務所での13ヵ月

オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 女子刑務所での13ヵ月

 

 何かの壁にぶつかった時、サバイブする方法は正論をぶつけること以外にもあると、この本は教えてくれます。

 というのは、浜田さんも書かれていますが、”働く女”が心に刻むべき秘訣だと、つくづく思う。