快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

不思議な魅力のあるデビュー作(勝手に配役も考えた) 『永遠の1/2』(佐藤正午 著)

 さて、4連休もどこに行くわけでもなく、ゴキブリみたいに家にへばりついていたら、あっという間に終了しました。やったことといえば、録りだめしておいた山本文緒原作のドラマ『あなたには帰る家がある』を見ながら、掃除らしきことをした程度。 

  しかしこのドラマ、なかなか目が離せない。
 中谷美紀がガサツだけど善良なオバサン妻を演じるのって、キャラがちがうのでは?と感じていたが、意外にもはまっている。前にも書いたけれど、なぜか研ナオコに見える瞬間があるショートヘアも似合っていると思えてきた。
 
 あと、ヒュー・グラントが還暦間近となったいま、優柔不断のやさ男を演じたら世界一の玉木宏(※個人の感想です)に、ユースケ・サンタマリアは、バラエティでもおなじみの死んだ魚のような目がモラハラ夫にぴったりだし(ちなみに、モニタリング!に出ていたとき、「日本のヒュー・ジャックマン」と名乗っていた。その少し前、スペースシャワーの番組では、曰く「日本のエド・シーラン」と)、どんな役を演じてもワケありに見える木村多江は安定の薄幸演技、と見応えがある。

 それにしても、玉木宏(が演じる役)、不倫相手とのホテル代にカードを使うって、マヌケにも程があるやろ(しかも4万8千円ってめっちゃ高い)と思うが。しかもちょっと聞かれただけですぐにテンパり、あっさり認めて平謝りする。「嘘もつけないくせに浮気するな!」と中谷美紀が怒るのももっともだ。


 で、前置きが長くなりましたが、その山本文緒が解説を書いた佐藤正午の『ジャンプ』に続き、『永遠の1/2』も読みました。 

永遠の1/2 (小学館文庫)

永遠の1/2 (小学館文庫)

 

失業したとたんにツキがまわってきた。 

いま思えば不思議な気さえするけれど、ぼくは、一年近く続いた女との関係をたったの二時間で清算できたことになる。しかも結婚はしない、殺人も犯さない、涙の一滴だって女の眼からこぼれないというのだから、これは離れ業だ。

 この小説は主人公の「ぼく」が仕事を辞め、次の仕事に就くまでの約一年間を描いている。

 『ジャンプ』の主人公は、失踪した恋人を必死で探す語り口によって、実はしょうもない男であることを読者に隠蔽していたが、この小説の主人公は、冒頭から仕事を辞めてぶらぶらし、婚約者と別れたかと思えば娼婦を金で買い、またすぐに競輪場で女をナンパしたりするので、しょうもない男であることが最初からあきらかなようだが、実は、この小説でしょうもない男なのは「ぼく」ではない。
 
 無職生活になってすぐ、「ぼく」はその娼婦と、さらに父親からも人違いをされかける。どうやら「ぼく」にそっくりな男がいるらしい。

 それからの「ぼく」は仕事を探すでもなく、ナンパした良子がワケありのめんどくさい女だったことに気づいてうんざりしたりと、ぱっとしない生活を過ごすのだが、一方で、「ぼく」にそっくりな男は、ひとの女をたぶらかし、ついでに金も盗んで駆け落ちしたかと思うと、またすぐに別の女に手を出したりと、波乱万丈の人生を送っているらしい。

 おかげで、その男はあちこちから恨みをかい、しばしば人違いをされる「ぼく」もそのとばっちりを受ける羽目になるので、そいつを捕まえてやろうと「ぼく」は必死に探すが、えんえんとすれちがい続ける……。
 
 と書くと、パラレルワールドといった、SFを取り入れた小説のようだが、そういうわけでもない。正直なところ、自分にそっくりな男がくり広げる騒動という設定があまり生かされておらず、ただひたすら「ぼく」が、そっくりな男をめぐるあれこれ以外には、これという事件のない日々を淡々と語っていくだけだ。
 
 じゃあ、おもしろくない小説なのか?と聞かれると難しいところで、すごくおもしろい!というわけではないのだが、なんだか不思議な魅力がある。多くのデビュー作がそうであるように、未分化のなにかと作者の生(なま)の衝動が埋もれている感じがする。
 
 私が読んだ新装版には、2016年に作者が書いたあとがきが収録されていた。そこで、作者はこの小説を読み直すのは苦痛だったと書いていて、さらに

この長い小説を書いた新人にどこか見所はあるのか?
あるとして一点、どうにかこうにか挙げられるのは、僕は、彼の文章力だと思う。
ここで文章力というのは、文章がうまいとか、こなれているとか、読ませるとか、粋だとか、そういう意味では全然ない。
たとえばそれは、僕が思うに『永遠の1/2』において発揮されている文章力というのは、粘り、とか、根気とかの言葉に置き換えられるものである。
無遅刻無欠勤 真面目 地道 丈夫なからだ 凡庸
ぜひとも欠かせない条件、とまで言わないにしても、あっても絶対に邪魔にはならない資質ではないか、というのが僕の意見である。

  とあり、なるほどと思った。

 たしかに、この小説の大きな魅力は文章だと思う。1980年代の小説なのに、ちっとも古臭くない。もちろん、ディテールは「この年巨人に入団した江川」だったり、主人公の妹が「30過ぎたら行き遅れになるよ」と母親から言われたり、時代を感じるのだが。
 作者は「読ませるとか」という意味ではないと書いているが、じゅうぶんに「読ませる」文章であり、当時はかなり斬新だったのではないだろうか。

 さらに、「無遅刻無欠勤 真面目 地道 丈夫なからだ 凡庸」というのは、なかば冗談というか含羞がまじっているのだろうけど、長年小説を書き続けてきた作者の言葉として重みがある。
 
 ところで、この小説を検索したところ、映画になっていることを知った。
 主人公は時任三郎で、まあそれはいいとして、良子が大竹しのぶってどうだろう?? いや、「めんどくさい女」にはぴったりな気もするが、良子は足がすらっと長く、きれいな後ろ姿をしている女なのだ。となると、若いころでも大竹しのぶではないような。。

 では、いまならだれがいいのか? 先にも書いた木村多江は「ワケあり」にふさわしいが、良子は29歳なので難しいか。(小雪も同様か。時代が変わっているので、年齢の設定をあげてもいいだろうが)
 若手で「めんどくさい女」が似合うというと……仲里依紗はどうでしょう?(だれに話しかけているのか) 
 そして二つ下の主人公は……池松壮亮なんかいいんじゃないでしょうか。(再びだれに話しかけているのか)

 あと、実はこの小説は女子高生も登場する。しかも、山口メンバーどころじゃない事態になるのだが、だれが適役か……(映画では中嶋朋子だが)ベタだけど、橋本環奈とか? なんて勝手に妄想して現実逃避をする連休明けでした。