快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

雷の音に耳をすまして 『赤い山から銀貨が出てくる』 小沢健二 (『MONKEY vol.6』より)

 前回書いたあと、たまたまテレビをつけたら、松尾スズキ田口トモロヲが対談していた。
 松尾さんも、カート・ヴォネガットから大きな影響を受けたと常々語っている。ペンネームを魚の名前にしたところも、キルゴア・トラウトからきているのかもしれない。


 最新映画『ジヌよさらば』は、まだ見ていないが、“ジヌ”ことお金恐怖症になった元銀行マン(松田龍平)が、“かむろば村”という寒村に行って、お金を1円も使わない生活を試みてまきおこる大騒動、というスラップスティックなコメディらしく、いがらしみきおのマンガが原作ではあるが、やはりヴォネガットの世界に通じるものがありそうな気がする。 

ジヌよさらば ?かむろば村へ? [DVD]

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 お金とつきあうのは難しい。前回の『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを!』の副題は『豚に真珠』である。これは、エリオットの周りの通俗的な人たちにとってのエリオットを指しているのか、大富豪エリオットにとってのお金を指しているのかは、よくわからない。この映画では、どのような結末になっているのか、またぜひみてみたい。  

 村上春樹ヴォネガットの影響を受けた作家として有名ですが、こないだ出た『村上さんのところ』でも、 

村上さんのところ コンプリート版

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  Chris Paulさん(34歳 Consultant)からの「自分はヴォネガット作品を長年愛読していたが、あなたの作品を読んだとき同じような感銘を受けた。スタイルもストーリーもまったく異なっているのは承知しているが、共通するものがたくさんあるように感じる」というメールに対する返答で、


「1960年代後半、ヴォネガットの作品を読みはじめ、すっかりとりこになってしまった。original, unique, funny そして strikingと感じた。同時期に愛読したリチャード・ブローティガンと同様に、十代の自分にとってのメンターといえる存在だった。あなたのおっしゃる通り、僕の書くスタイルとストーリーは、彼らの作品とまったく異なっていますが、その根っこには1960年代の世界があると信じています。Radicalでbrilliant、そしてgentleなものが」と書いています。
(ちなみにすべて英語でのやりとりなので、これは大意です。また、このメールは、電子書籍の完全版に載っているものなので、紙の本の方に載っているかどうかは不明)


 翻訳家の柴田元幸も、学生時代、ヴォネガットを論文のテーマにしたらしい。で、その柴田さんが編集する『MONKEY』の最新号の特集は、「音楽の聞こえる話」で、柴田さんの教え子でもあった小沢健二が『赤い山から銀貨が出てくる』というエッセイをよせている。 

MONKEY Vol.6 ◆ 音楽の聞こえる話

MONKEY Vol.6 ◆ 音楽の聞こえる話

 

  赤い山とは、「南米の最貧国と呼ばれる」ボリビアポトシにある鉱山のことで、ヨーロッパ人が征服してからは、現地のインディオを「動物のように」扱い、強制労働させ(ちなみに、ポトシは黒人奴隷がいない唯一の町だったとのこと。というのも、標高が高すぎて、よそから奴隷を連れてきて労働させるとすぐに死んでしまったため)、そこの銀を徹底的に収奪した。


 短いエッセイなので、これ以上書くと内容の多くを引用してしまいそうなので、興味があればぜひ読んでほしいけれど、このエッセイは、植民地支配の略奪や暴力性をただ糾弾しているわけではなく、「ヨーロッパがした、野蛮でひどいこと」による「破滅と破壊」の結果、大量の貨幣を手にしたヨーロッパの圧倒的な資本のもと、かぎりなく精巧で甘美な音を鳴らす楽器が生まれた事実を見つめる。

 善悪の判断をするわけではなく、意味づけをするわけでもなく、ただ、赤い山からインディオによって掘られる銀貨、その銀貨が世界中の人々の生活をがらりと変えてしまったこと、そして、非常に洗練された質の高い楽器が生まれたことを書く。赤い山に落ちる雷の音――現地のインディオの人たちには、「この山を掘るな!」という警告だと聞こえていたらしい――をバックグラウンドミュージックとして。