快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

2018-01-01から1年間の記事一覧

不思議な魅力のあるデビュー作(勝手に配役も考えた) 『永遠の1/2』(佐藤正午 著)

さて、4連休もどこに行くわけでもなく、ゴキブリみたいに家にへばりついていたら、あっという間に終了しました。やったことといえば、録りだめしておいた山本文緒原作のドラマ『あなたには帰る家がある』を見ながら、掃除らしきことをした程度。 #1 夫婦の…

『ストーナー』の訳者が遺した翻訳への愛と情熱、そして脱力ギャグ 『ねみみにみみず』(東江一紀 著 越前敏弥 編)

さて前回、第四回日本翻訳大賞が決まったと書きましたが、第一回読者賞を受賞した『ストーナー』の翻訳家、東江一紀のエッセイ『ねみみにみみず』を読み、ほんと翻訳家はエッセイがうまいひとが多い、とつくづく思った。 ねみみにみみず 作者: 東江一紀,越前…

大きな選択を迫られるとき――『ピンポン』(パク・ミンギュ 著 斎藤真理子 訳)『マレ・サカチのたったひとつの贈物』(王城夕紀)

さて、第四回日本翻訳大賞が『殺人者の記憶法』と『人形』に決まりました。『殺人者の記憶法』は前にも紹介したように、原作も映画もおもしろかったので納得。 『人形』はポーランドで人気の小説らしいが、手をつけるにはかなり気合のいる長さのよう。いや、…

滑稽な人間の生について考えてみる 『深い河』(遠藤周作 著)『今日はヒョウ柄を着る日』(星野博美 著)

手元にないのでうろ覚えだが(実家にあるはず)、学生時代に読んだエッセイ『佐藤君と柴田君』で、親が古びてきたので病院に通っていると柴田さんが書いていて、そのとき「そうか、親って古びるものなんだ」と思った記憶がある。 佐藤君と柴田君 (新潮文庫) …

傷つけられた者たちの「自立」と「再生」の物語 『なぎさ』(山本文緒 著)

妹が突然電話してきたのは三日前だった。しばらく会いたくないし声も聞きたくないから連絡しないでくれ、とはっきり言われたのは、ここに越して来る前のことなので何年も前だ。仕方ないことだと納得した私は、それから転居通知をポストに入れただけでまった…

音楽が聞こえる本ブックガイド BOOKMARK11号 村上春樹による『バット・ビューティフル』紹介文もあり

前回、次は山本文緒の『なぎさ』の感想を書くといいましたが、BOOKMARK 11号 "Listen to Books" を読んだところ、勝手に便乗して、音楽が聞こえる本を選びたくなりました。 そう、なんといっても村上春樹が巻頭エッセイを書いていることが話題になっている、…

自分で自分の人生を選び取ることは可能なのか? 『ジャンプ』(佐藤正午 著)

あのときああしてさえいれば、ちがう人生になっていたかも―― あのときああしてさえいれば、ちがうひとと寄り添っていたのかも―― なんて思ったりすることはあるでしょうか? いや、「やれたかも委員会」の話ではなく、佐藤正午の『鳩の撃退法』を読むまえに、…

不条理とユーモア、そして生と死が融合するエドガル・ケレットの世界 『あの素晴らしき七年』(秋元孝文 訳)『突然ノックの音が』(母袋夏生 訳)

自己嫌悪としてのユダヤ人としてのわが息子……「もう十分じゃないかしら?」妻がぼくの妄想に割り込む。「可愛い可愛いあなたのボクちゃんに向けるヒステリックな非難を夢想するかわりに、なにか役に立つことをしたら? おむつを替えるとか」「オッケー」とぼ…

「居場所もなかった」自分が「生命の喜び」を感じるまで 『猫道 単身転々小説集』(笙野頼子 著)

猫と出会ってこそ人間になった。人が家族のために頑張ることを理解し、人間がひとつ屋根の下で眠る事さえも、単なる不可解、不気味とは思わなくなった。猫といてこそ緊張があり、欲望が湧き、しかも常に夢中でなおかつ、闘争の根拠、実体を得た。 という前書…

2018/02/18 柴田元幸×藤井光「死者たち」朗読&トーク@恵文社『死体展覧会』(ハサン・ブラーシム 著 藤井光 訳)

さて、先日京都の恵文社で行われたイベント、柴田元幸&藤井光「死者たち」のレポートを書いておきたいと思います。といっても、おふたりの話がちゃんと理解できたか、固有名詞などまちがえてないか、ちょっと心もとないですが、ご了承のほどお願いします。 …

名古屋で犬三昧 『その犬の歩むところ』『約束』読書会&はしもとみお『木彫り動物美術館』

というと、なんだか犬を食したようですが、そうではなく、以前紹介した『その犬の歩むところ』といった”犬本”をテーマにした読書会が名古屋で開かれたので、日帰りで参加してきました。 まずは、読書会の前にも犬を補給しようと、新栄のヤマザキマザック美術…

ほんとうは自分のためのブックガイド 『10代のためのYAブックガイド150! 2』(監修:金原瑞人/ひこ・田中)トークショー

『10代のためのYAブックガイド150! 2』の出版記念トークショー(梅田のMARUZEN&ジュンク堂)に行ってきました。 今すぐ読みたい! 10代のためのYAブックガイド150! 2 作者: 金原瑞人,ひこ・田中 出版社/メーカー: ポプラ社 発売日: 2017/11/16 メ…

スパイ今昔物語 21世紀のスパイの実態?? 『放たれた虎』(ミック・ヘロン 著 田村義進 訳)

前回紹介した『殺人者の記憶法』、日本翻訳大賞にもノミネートされたようで、よかったよかった。 さて、スパイというと、いったいなにが頭に浮かぶでしょうか? やはり007? あるいは、キム・フィルビー? もしくは、ゾルゲ?(古いか) いやいや、マタ・ハ…

お父さんは心配性?? 『殺人者の記憶法』(原作 キム・ヨンハ 著 吉川 凪 翻訳/映画 ウォン・シニョン監督)

俺が最後に人を殺したのはもう二十五年前、いや二十六年前だったか、とにかくその頃だ。それまで俺を突き動かしていた力は、世間の人たちが考えているような殺人衝動や変態性欲などではない。もの足りなさだ。もっと完璧な快感があるはずだという希望。 いや…

災厄の男たちから逃れる女の連帯 『音もなく少女は』(ボストン・テラン 著 田口俊樹 訳)

わたしは殺人の隠蔽工作の手助けをしました。嘘の上塗りをする手助けもしました。自分の人生、宗教、職業が否定していることをしました。しかし、そのためにこそより幸福になれました。 先日紹介した、ボストン・テランの『その犬の歩むところ』がおもしろか…

わたしはわたし、ぼくはぼく(BOOKMARK 10号より) 『夜愁』(サラ・ウォーターズ 著 中村有希 訳) 

映画というと、2017年最大に度肝を抜かれたのは『お嬢さん』だった。ヴィクトリア朝を舞台にしたサラ・ウォーターズの原作『荊の城』を、日本占領下の韓国の話に作りかえただけでもじゅうぶんインパクトがあるのに、まさに文字通り「一糸まとわぬ」女子たち…

陣治役が阿部サダヲってどうだろう?? 『彼女がその名を知らない鳥たち』(沼田まほかる 原作/白石和彌 監督)

年末に原作を読み、どうしても ↑ の疑問がわいてきたので、年明けも公開しているところを探したら、塚口サンサン劇場で期間限定上映をしていたので行ってきました。 塚口サンサン劇場に行くのははじめてでしたが、ミニシアターといっても、十三の第七藝術劇…

毒親に苦しむ子どもたちへ 『Everything I Never Told You』 Celeste Ng(セレスト・イン)

少し前、"Fire and Furyをはやく読まないと" といった書きこみをツイッターでいくつか見つけ、「いま人気の小説かな?」と思ってしまったりと、洋書情報からあっという間に乗り遅れてしまうのですが、今年こそは洋書もたくさん紹介したいものです。(しかも…

2018年 こりゃ読まなあかんやろブックリスト

すっかり年もあけました。こちらの門松は、大阪のフェスティバルタワーのものです。ここから歩いて初詣へ…… 堂島のジュンク堂本店の裏にある、堂島薬師堂へ。あらためて見ると、ほんと奇抜なお堂だ。 というわけで、年末年始休暇も終了。ちなみに、家の近所…