快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

ほんとうは自分のためのブックガイド 『10代のためのYAブックガイド150! 2』(監修:金原瑞人/ひこ・田中)トークショー

 『10代のためのYAブックガイド150! 2』の出版記念トークショー(梅田のMARUZEN&ジュンク堂)に行ってきました。 

 といっても、もちろん10代ではないし、子どもがいるわけでもない。きょうだいがいないので甥や姪もなく、子どもと接する機会は皆無。
 しかも、ふだんは殺したり殺されたりする物騒な本を読むことが多く、はてはアルツハイマーの殺人犯だとか落ちこぼれのスパイだとか言い出す始末。なので、「お呼びでない」とうすうす感じつつも、でも聞くんだよ!(←根本敬)と参加して参りました。
 
 この『10代のためのYAブックガイド150!2』では、監修者である翻訳家の金原瑞人さんと、児童文学作家のひこ・田中さんを筆頭に、書評家の豊崎由美さんや瀧井朝世さんなど、総勢27人の多彩な「本のプロ」が、10代にぜひ読んでほしい本を紹介している。
 すべて2011年以降に出版されたフレッシュな本から選ばれていて、以前にここで紹介した『エレナーとパーク』、『ペーパーボーイ』『こびとが打ち上げた小さなボール』も入っている。

 この日のトークショーは、監修のおふたりのほかに、選者である書店員の兼森理恵さん、社会学者の佐倉智美さん、大阪国際児童文学館の土居安子さん、学校図書館司書の右田ユミさん、大学准教授の目黒強さんも登壇され、まずは全員が自分が選んだ本のなかから、とっておきの「イチオシ本」を紹介。

 トップバッターのひこ・田中さんが、ヤングアダルトとは ”じたばた”する世代だと、冒頭からヤングアダルトの肝を語り、『シタとロット ふたりの秘密』を紹介した。 

シタとロット ふたりの秘密

シタとロット ふたりの秘密

 

  スペインを舞台に、シタとロットというふたりの14歳の女の子が、女らしくなっていく身体に戸惑い、理性では抑えられない恋愛に直面し、セックスに悩むという物語とのこと。やはり向こうの女子は大人やな~とつい遠い目になってしまうが、自分の中学時代を思い出しても、14歳というのは、いわゆる「おとなの階段」を登りはじめる子と、足踏みをしてしまう子と差がついて、それまで仲良かった友達同士の関係も変わってしまう時期である。
 
 金原瑞人さんは、三秋縋の『恋する寄生虫』。読みはじめたら止まらなくなり、その日のうちに三秋縋の作品を一気に四冊読んでしまったとのこと。 

恋する寄生虫 (メディアワークス文庫)

恋する寄生虫 (メディアワークス文庫)

 

  主人公の高坂賢吾は「他人に触れられただけで拒絶反応を起こす重度の潔癖症」の27歳の引きこもりで、ひょんなことから一回り年下の佐藤ひじりという「金髪、ピアス、タバコ、寄生虫疾患の本好き」で「人と目を合わせることができない視線恐怖症」の少女と出会う。やがてふたりは惹かれ合う……と、これだけでもじゅうぶん物語が成立するように思うが、ここから意外な方向へ進む。

 ふたりの体内には同じ寄生虫が宿っていて、そのせいで惹かれ合っていることが判明するのだ。駆除しないと命が奪われるが、駆除すると恋が終わるかもしれない。この想像を絶する展開の先が非常に気になるので、ぜひとも読んでみたい。
 
 ほかにとくに気になったのは、佐倉智美さんが紹介した、武田綾乃の『響け! ユーフォニアム』。  

 私は知らなかったけれど、アニメにもなっている大人気作品のようなので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
 京都の北宇治高校で吹奏楽にうちこむ、黄前久美子高坂麗奈というふたりの少女の青春物語。と書くと、ものすごくベタでありがちな話のように感じてしまうけれど、

物語の主軸は、それ(異性との恋愛)と両立する形で久美子と麗奈の二人の間に紡がれていく深くも強い親密性のほうに置かれている。女どうしの絆と異性愛、どちらかが優越するという発想はそこにない。互いの存在が互いを変えて世界を広げる。

だいいち「異性」か「同性」か、「恋愛」か「友情」か、その区分がそんなにも「好き」にとって大事なのか、そもそも区分できるのか

とあり、先日紹介した松浦理英子の『最愛の子ども』にも通じる物語のようで、かなり読んでみたくなった。吹奏楽部を舞台にしているが、昔ながらのスポ根(吹奏楽だけど)ものでもなく、昨今話題の「ブラック部活」問題も視野に入れているとのこと。


 あと、土居安子さんが紹介した絵本『夏のルール』。ひと夏の兄と弟の物語。 

夏のルール

夏のルール

 

 土居さんもおっしゃっていたように、ショーン・タンというと、『アライバル』のような静謐な世界という印象が強いけれど、こんなに色鮮やかで心躍る絵本も描いていたのだ。

 そう、子どものころは、夏休みは特別な時間だった。日常とは異なるルールに支配される時間。……まあもちろん、会社に行っている現在も、有休というとても大事な特別な時間なのですが。


 イチオシ本の紹介が終わると、YA世代に本を薦めることについてのトークがはじまった。「中学生は忙しい」問題(一日六時間の授業、強制的に加入させられる部活、それから塾)は、心の底から納得した。勉強のために、「本断ち」せざるを得ないこともあるらしい。
 また、目黒強さんが、”ナロー小説”と発言されたとき、narrow?? と思ったが、そうではなくて、「小説家になろう」というサイトがあって、そこから生まれる「なろう小説」が人気とのことだった……って、こんな説明不要でしょう。きっと私以外の全員が知っているはず。

 たしかに、YA世代である10代が、このブックガイドをきっかけにさまざまな本を読みはじめたら、ほんとうにすばらしい。そうあってほしいと願う。
 
 けれども、正直なところ、身近に子どものいない私にとっては、この本は見も知らぬ子どものためのものではなくて、自分のためのブックガイドだとあらためて感じた。できることなら、いまの私から、10代の頃の私に渡せてあげたら一番いいと思う。

 当時は「ヤングアダルト」という分類はなかったけれど(しかし、「ヤングアダルト招待席」の連載が1987年からということは、あったのだろうか?)、氷室冴子の小説や、いくえみ綾のマンガに夢中になっていた自分に(映画『プリンシパル』は少し気になっています)。
 
 でも考えてみると、いまも当時となにひとつ変わっていない。図書館に通っていた10代の私は、いまも自分のなかにいる。
 そこで、そんな私が上記にあげた本以外に、このブックガイドでとくに気になった本をあげてみると――
 
 『堆塵館』や『あたらしい名前』など、以前から「読まねばリスト」に入っているものは除外して、また、山下賢二『ガケ書房の頃』や、文月悠光『洗礼ダイアリー』など、以前からエッセイを読んでおもしろいと思っていたものも除外して
(けど、『洗礼ダイアリー』の推薦文にも書かれていますが、「若い女性詩人」に対するおっさんたちの視線が香ばしいですな)、

まずは阿川せんりの『厭世マニュアル』。 

厭世マニュアル (角川文庫)

厭世マニュアル (角川文庫)

 

  小学校の頃に「口裂け女」とからかわれ、人前でマスクが外せなくなった22歳女子の物語。
 というと、なにか心温まる出会いとか恋愛をきっかけに、マスクを外して他人と接することができるようになる、というのが常套の展開だと思うが、推薦文を読むと、そうではなさそうなところに興味をもった。他人と協調することって、ほんとうに必要なの? と追究しているらしい。読んでみたい。
 
 次はオーストラリアの小説『わたしはイザベル』。 親に虐げられて育った少女の物語。

わたしはイザベル (STAMP BOOKS)

わたしはイザベル (STAMP BOOKS)

 

  作者エイミー・ウィッティングがこの話を書きあげたのは1979年らしいが、「実の子どもにこんなにつらく当たる母親がいるはずがない」と刊行されなかったらしい。まだ母親神話が強固な時代だったのだろう。

 それから十年後に出版されると、たちまちベストセラーになったとのこと。「残念なことに」こういう話は珍しいものではないと判明したのだ。そして、毒親という言葉が当たり前になったいま、まさに読まれるべき本ではないだろうか。
 
 最後は、佐野洋子の『親愛なるミスタ崔』。 

親愛なるミスタ崔: 隣の国の友への手紙 (日韓同時代人の対話シリーズ)

親愛なるミスタ崔: 隣の国の友への手紙 (日韓同時代人の対話シリーズ)

 

  『100万回生きたねこ』や『おじさんのかさ』といった絵本や、ちょっと辛辣でユーモラスなエッセイは読んでいたけれど、こんな手紙を集めた本があるとは知らなかった。
 それもただの書簡集ではない。長年にわたって送り続けた、熱烈なラブレターなのだ。「憧れの人に自分を知ってほしい(過去も現在も未来も全部)という女の子の気持ちがぎゅうぎゅうに詰まっている」本とのこと。たしかに「おもしろくないはずがない」だろう。
 
 と、この本は、だれにとっても、何歳のひとであっても、自分のためのブックガイドとして使うことができると思うので(本来の意図に反するかもしれないが)、10代でなくても、YA世代となんの関係がなくても、手に取って、気になった本を読むと、あの頃の自分に出会えるかもしれません。