快適読書生活  

「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」――なので日記代わりの本の記録を書いてみることにしました

「役に立つ」英語って何? 外国語を学ぶということは――『英会話不要論』(行方昭夫)

※「はじめての海外文学」レポの途中ですが、諸事情により?こちらを先にアップします。 今年こそは英語を話せるようになりたい! そう思っている方は少なくないのではないでしょうか。かくいう私もそのひとりです。 英語圏で暮らしたことも働いたこともなく…

はじめての海外文学@梅田蔦屋書店(2019/01/26)前編 『ピアノ・レッスン』(アリス・マンロー 著 小竹由美子訳)など

さて、先週土曜日は、梅田蔦屋書店で行われたイベント「はじめての海外文学」に行ってきました。 「はじめての海外文学」って何なんそれ? という方もいるかと思いますが、ふだん海外文学になじみのない読者に向けて、翻訳者さんがおすすめの本を紹介すると…

生身の人間たちによる公民権運動の記録 『March』(ジョン・ルイス、アンドリュー・アイディン 作 ネイト・パウエル 画 押野素子 訳)

先週末、スーパーで買ったお好み焼きと焼きそばのセットを食べたところ、焼きそばの油が合わなかったのか(もしくは単に食べ過ぎたのか)、食あたりになって寝込んでしまいました。 読書会の告知文書きにも、日本翻訳大賞の投票にも後れを取ってしまいました…

最近読んだ本(2019年1月)『作者を出せ!』(デイヴィッド・ロッジ 高儀進訳)『「女子」という呪い』(雨宮処凛)『ポップスで精神医学』

さて、最近読んだ本をさくっと数点紹介したいと思います。 (いや、ここ最近、1つのトピックで長々書いてしまいがちなので、そんなに長く書いたら、もともとその話題に興味あるひと以外誰も読まないぞー!というのは承知しているので、今年は短い紹介記事も…

女がパンクでなぜ悪い? スリッツ『ヒア・トゥ・ビー・ハード』/ヴィヴ・アルバータイン『Clothes, Clothes, Clothes. Music, Music, Music. Boys, Boys, Boys.』

さて、2019年真っ先にしたことは(1月2日ですが)、女だけのパンクバンド、スリッツのドキュメンタリー映画『ヒア・トゥ・ビー・ハード』の鑑賞でした。 theslits-l7.com スリッツは1976年に結成され、81年に解散したバンドで、もちろん私はリアルタイムでは…

女が自らを救うために――『ヒロインズ』(ケイト・ザンブレノ著 西山敦子訳)

精神病院で死んだ、モダニストの狂った妻たち。閉じ込められ、保護されて。忘れられ、消し去られ、書き換えられて。ヴィヴィアン・エリオットは自分の分身を書いた。名前はシビュラ。彼女の夫の詩『荒地』は、甕のなかに閉じ込められた彼女の声で始まる。そ…

ディケンズとクリスマス 『Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男』と『クリスマス・キャロル』(池央耿 訳)

さて、きょうはクリスマス・イヴ。 ここ数年は本気でその存在を忘れてしまいがちなクリスマスですが、実は19世紀においても、すでに廃れつつある行事になりかけていたらしい。 という事実を、先日映画『メリークリスマス ロンドンに奇跡を起こした男』を見て…

ひとりでも多くのひとに知ってもらいたい『THE LAST GIRL――イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語』(ナディア・ムラド 著 吉井智津 訳)

ナディアは、ISISによって連れ去られ、フェイスブック上に開設された市場で、ときにはたったの20ドル程度で売買された数千人のヤズィディ教徒のひとりだった。ナディアの母親は、80人の高齢女性たちとともに処刑され、目印ひとつない墓穴に埋められた。彼女…

消えることのない光を求めて 『ヨーロッパ・コーリング』『いまモリッシーを聴くということ』(ブレイディみかこ)

さて、前回の『アメリカ死にかけ物語』で、「ヨーロッパも同じか、あるいはもっと深刻」と書いたけれど、そのヨーロッパを詳細に伝えているのが、ブレイディみかこの『ヨーロッパ・コーリング』だ。 ヨーロッパ・コーリング――地べたからのポリティカル・レポ…

11/25 『アメリカ死にかけ物語』トークライブ リン・ディン&岸政彦@スタンダードブックストア心斎橋

『アメリカ死にかけ物語』発売記念として行われた、リン・ディンさんと岸政彦さんのトークライブに行ってきました。 前作の『血液と石鹸』を読んだきっかけは、柴田元幸さんが訳しているからという単純なものだったけれど、ベトナムからアメリカに移民したバ…

未来を思い出す――『あなたの人生の物語』(テッド・チャン著 浅倉久志ほか訳)そして『スローターハウス5』

あなたを授かるあの晩、あの夜にまつわるお話は、してあげたいのはやまやまなんだけど、それにふさわしいのはあなたが自分の子を持つ用意ができたときでしょうし、わたしたちはその機会は持たずじまいになるの。 最近、訃報や病気のニュースが多く、生と死に…

マイノリティであるということ――10/31 トークイベント(ゲスト:松浦理英子)「現代文学を語る、近畿大学で語る」

10月31日、作家の松浦理英子がゲストで参加したイベント「現代文学を語る、近畿大学で語る」に行ってきました。 平日の昼間だったけれど、これまで『ナチュラル・ウーマン』や『裏ヴァージョン』などの作品を幾度も読み返したことを思うと、そりゃ午後休取る…

10/21 岸本佐知子&津村記久子トークショーと『あなたを選んでくれるもの』(ミランダ・ジュライ 著 岸本佐知子 訳)

先週の日曜、スタンダードブックストア心斎橋で行われた、翻訳家の岸本佐知子さんと作家の津村記久子さんのトークショーに参加してきました。 おもな内容は、ミランダ・ジュライの新作『最初の悪い男』にまつわるもので、まだ読んでいないため(この日に買い…

華麗な恋愛と創作の軌跡、そして絶望 『絶倫の人 小説H・G・ウェルズ』(デイヴィッド・ロッジ 著 高儀進 訳)

彼は生涯で百人を優に超える女と寝たに違いないが、何人かとは一回寝ただけで、大多数の女の名前は忘れてしまった。彼は自分がほかの男より強い性的衝動を持っているのかどうか、大方の男より、それを満足させるのにもっと成功しただけなのかどうかはわから…

愛の形にはいろいろある 『ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン』(ジョン・グリーン、デイヴィッド・レヴィサン著 金原瑞人、井上里 訳)

『アラスカを追いかけて』『さよならを待つふたりのために』などでおなじみの人気作家、ジョン・グリーンと、目下『エヴリデイ』が話題のデイヴィッド・レヴィサンが共作した『ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン』、当然読み逃すわけにはいきません。 …

静かな北欧の村で、ふたりの女のアイデンティティが絡まりあう 『誠実な詐欺師』(トーベ・ヤンソン 著 冨原眞弓 訳)

歯を磨いたり洗い物をするときなどは、スマホでよくラジオを聞くのだけど、NHKラジオの「仕事学のすすめ」という番組に、前回の『コンビニ人間』の村田沙耶香が出ていたので聞いてみた。 すると、パーソナリティーから、「この小説に出てくる白羽さんは、遅…

「普通」と「普通じゃないもの」の線引きとは? 『コンビニ人間』(村田沙耶香)

さて、遅ればせながら、文庫になった『コンビニ人間』を読みました。 コンビニ人間 (文春文庫) 作者: 村田沙耶香 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2018/09/04 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (3件) を見る 主人公の古倉恵子36歳は、「少し奇妙がら…

英国魂でしぶとくタフに生き延びよう 『花の命はノー・フューチャー』『This is JAPAN』(ブレイディみかこ 著)

みなさんご存知のとおり、ここ最近、地震や大雨、そして台風のくり返しで、訃報も相次ぎました。(樹木希林も『万引き家族』見たところなのでおどろいたが、やはり子どもの頃から読んでいた、さくらももこの衝撃が大きかった……) ほんと人生いつなにが起きる…

『タイニー・ファニチャー』『優雅な読書が最高の復讐である』山崎まどかトークイベント@出町座(2018/09/01)

さて、先週の週末は、映画『タイニー・ファニチャー』の公開と、書評本『優雅な読書が最高の復讐である』の発売を記念した、山崎まどかさんのトークショー@出町座に行ってきました。 優雅な読書が最高の復讐である 山崎まどか書評エッセイ集 作者: 山崎まど…

おれは黒い それって最高。『リズムがみえる』(絵 ミシェル ウッド 文 トヨミ アイガス 訳 金原瑞人 監修 ピーター バラカン)

異常気象が続いたこの夏、暑さのせいか電車が止まったり、台風のせいで行くつもりだったライブが中止になったりと、なんだか落ち着かない日々が続くなか、8月の終わりにまたひとつ歳をとった。 そしてまるで誕生日プレゼントのように、この絵本が届いた。(…

レキシの池ちゃんにもオススメの『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』(高野秀行と清水克行の対談本)

さて、『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(さんざんネタになっているが、もう元ネタがいったい何なのかわからなくなっている)に続く、高野秀行&清水克行の対談本第2弾、『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』を読みました。 辺境の怪…

欲望から目をそらさず対峙した一冊 『愛と欲望の雑談』(雨宮まみ、岸政彦)

このひとがいま生きていたなら、どう言っただろう? と、ふとした瞬間に考えさせられるひとたちがいる。 前回取りあげたヴォネガットや、最近またベスト本が出るらしいナンシー関など。 そして、雨宮まみもたしかにそのひとりだなと、岸政彦との対談本『愛と…

灼熱の8月6日に読むべき1冊 『猫のゆりかご』(カート・ヴォネガット・ジュニア 著 伊藤典夫 訳)(with 村上RADIO)

今よりずっと若かったころ、わたしは『世界が終末をむかえた日』と題されることになる本の資料を集めはじめた。それは、事実に基づいた本になるはずだった。 それは、日本の広島に最初の原子爆弾が投下された日、アメリカの重要人物たちがどんなことをしてい…

ささやかで中途半端な逃避行 『黄色いマンション 黒い猫』(小泉今日子 著)

月曜日、古川橋駅で京阪電車がいきなり止まった。車内灯が消え、エアコンも止まる。 停電したので、各車両の一番後ろの窓を手動で開けてくださいと車掌からのアナウンスが流れた。乗客が職場に電話をしはじめる。私も電話をして、ランチミーティングのお弁当…

理不尽な社会で愛は存在するのか? 『ヒトラーの描いた薔薇』(ハーラン・エリスン 著 伊藤典夫・他 訳)

その都市の地下には、またひとつの都市がある。じめじめした暗い異境。下水道をかけまわる濡れた生き物と、逃れることにあまりにも死にもの狂いのため冥府のリステックスさえも抑えきれぬ急流の都市。その失われた地底の都市で、ぼくは子どもを見つけた。 『…

救いのない人生で見出したものとは? 『タイタンの妖女』(カート・ヴォネガット・ジュニア 著 浅倉久志 訳)

かつてウィンストン・ナイルズ・ラムフォードは、火星から二日の距離にある、星図に出ていない、ある時間等曲率漏斗(クロノ・シンクラスティック・インファンディブラム)のまっただなかへ、自家用宇宙船で飛び込んでしまったのである。彼と行をともにした…

虚実入り乱れるメタ時代劇? 松尾スズキ作 『ニンゲン御破算』(阿部サダヲ主演)森ノ宮ピロティーホール

さて、ヴォネガットの本を読んでいる合間に、大人計画『ニンゲン御破算』を見てきました。そういえば、松尾スズキもヴォネガットに影響を受けたとよく語っているのでつながっているとも言える。 ↓絶賛CM中のキンチョーからも花が来ていた。長澤まさみはなん…

再び、いまヴォネガットが生きていたら…… 『現代作家ガイド カート・ヴォネガット』(伊藤典夫・巽孝之ほか)

あらゆることが政治化されてしまった今日では、例えばオリンピックを廃止しようというのならそれで結構。別に残念だとも思いませんよ。どの道、オリンピックはばかばかしいくらいに政治的で、国家主義的なものですし。みっともない。 やっぱりあのひとの言っ…

時間のかかる小説 『機械』(横光利一)『時間のかかる読書』(宮沢章夫)

最近ちょいちょいスマホでラジオをつけていて、なかでもNHKの「すっぴん!」の月曜(宮沢章夫)と金曜(高橋源一郎)をよく聞いています。(それにしても、ほかの曜日はユージに麒麟の川島君、そしてダイアモンド☆ユカイと、いったいどういう基準でパーソナ…

穏やかな日常のどこかに隠れている悪夢のような世界 『アオイガーデン』(ピョン・ヘヨン 著 きむふな 訳)

もう少ししたら職場に行く準備をしないと、と思った朝の8時、いきなり激しい揺れに襲われた。 けれど、阪神淡路大震災や東日本大震災にくらべたら短かったので、やれやれと思って部屋を見回すと、うちの猫がいない。ベランダの戸を開けていたので、飛び出し…